戦地で新たに発見された写真 身元をたどって【追記あり】
和服姿でほほえむ女性の写真。
去年、日本から約3200キロ離れた島国パラオで見つかりました。太平洋戦争で亡くなった旧日本軍の兵士の遺骨とともに、土の中で眠っていました。
この旧日本兵と、写真にうつる女性はだれなのでしょうか。特定に奔走する専門家を取材しました。(宇都宮放送局記者 梶原明奈)
※13日夜の記事公開後、「写真は俳優の水戸光子さんではないか」という情報が複数寄せられ、追加取材をしました。詳細を本文最後に追記しています。
去年、日本から約3200キロ離れた島国パラオで見つかりました。太平洋戦争で亡くなった旧日本軍の兵士の遺骨とともに、土の中で眠っていました。
この旧日本兵と、写真にうつる女性はだれなのでしょうか。特定に奔走する専門家を取材しました。(宇都宮放送局記者 梶原明奈)
※13日夜の記事公開後、「写真は俳優の水戸光子さんではないか」という情報が複数寄せられ、追加取材をしました。詳細を本文最後に追記しています。
激戦地で発見された女性の写真
「この写真の女性がだれなのか、写真の持ち主がだれなのか、探しています」
ことし6月、NHK宇都宮放送局を訪れた一人の男性。考古学者の山岸良二さんです。
ことし6月、NHK宇都宮放送局を訪れた一人の男性。考古学者の山岸良二さんです。
山岸さんがかばんから取り出し見せてくれた、和服姿でにっこりほほえむ女性の写真。
日本から約3200キロ離れた、太平洋の島国・パラオのアンガウル島で去年見つかりました。
日本から約3200キロ離れた、太平洋の島国・パラオのアンガウル島で去年見つかりました。
太平洋戦争中の1944年9月から10月にかけて、アンガウル島では旧日本軍とアメリカ軍との激しい戦闘が行われました。
戦闘には、おもに栃木県出身者で組織された「旧陸軍歩兵第59連隊」が参加し、約1200人いた兵士のほとんどが命を落としたとされています。
戦闘には、おもに栃木県出身者で組織された「旧陸軍歩兵第59連隊」が参加し、約1200人いた兵士のほとんどが命を落としたとされています。
山岸良二さん
「59連隊は、多くが栃木県出身の方で構成されていたので、亡くなったこの写真の持ち主も、栃木県にゆかりがある可能性が高いと思っています」
「59連隊は、多くが栃木県出身の方で構成されていたので、亡くなったこの写真の持ち主も、栃木県にゆかりがある可能性が高いと思っています」
戦地で続く遺骨収集
アンガウル島では、亡くなった旧日本軍の兵士などの遺骨収集が進められています。
この活動は、厚生労働省の委託をうけた日本戦没者遺骨収集推進協会が戦地となった各地で行っていて、専門家も同行しています。
山岸さんは、アンガウル島での遺骨収集活動におととしから参加し、年に5回ほど現地を訪れているといいます。
この活動は、厚生労働省の委託をうけた日本戦没者遺骨収集推進協会が戦地となった各地で行っていて、専門家も同行しています。
山岸さんは、アンガウル島での遺骨収集活動におととしから参加し、年に5回ほど現地を訪れているといいます。
女性の写真が見つかったのは去年7月。
島には、米軍が旧日本軍の兵士の遺骨を埋葬した場所が複数あり、その発掘中にある遺骨の胸元から金属製のタバコケースを山岸さんが見つけました。
ケースを磨いたところ、ふたが開き、中から写真が出てきたということです。
島には、米軍が旧日本軍の兵士の遺骨を埋葬した場所が複数あり、その発掘中にある遺骨の胸元から金属製のタバコケースを山岸さんが見つけました。
ケースを磨いたところ、ふたが開き、中から写真が出てきたということです。
何十年も砂地に埋もれていた写真が、顔の特徴が読み取れるほど鮮明な状態で残っていることは極めてまれで、山岸さんは、空気に触れていなかったため写真が劣化しなかったと分析しています。
山岸良二さん
「タバコケースも大切な遺品なので、きれいに磨く作業をしていたんです。するとふたが開いて、女性の写真が出てきました。これまで、タバコケースは見つかったことがあっても、中に写真があったのは初めてですし、これだけ個人の顔がはっきり残っていることはないので驚きました」
「タバコケースも大切な遺品なので、きれいに磨く作業をしていたんです。するとふたが開いて、女性の写真が出てきました。これまで、タバコケースは見つかったことがあっても、中に写真があったのは初めてですし、これだけ個人の顔がはっきり残っていることはないので驚きました」
身元特定の手がかりを求めて
遺骨は、遺族との照合などで本人と特定できれば返還されます。
写真の女性に関する情報を集めて、なんとか持ち主を特定したいと、山岸さんはまず、栃木県内の戦争や歴史に詳しい専門家のもとを訪ねました。
写真の女性に関する情報を集めて、なんとか持ち主を特定したいと、山岸さんはまず、栃木県内の戦争や歴史に詳しい専門家のもとを訪ねました。
宇都宮市文化都市推進課 大塚雅之さん:写真のうしろに写ってるのは、なにかの木?
山岸さん:自宅の庭先の木か、なにかでしょうか。
考古学者 山野井清人さん:このころの俳優さんたちの宣伝用の写真見てると、木の下で撮るってひとつの定番ですよね。そういう取り方をする一般の方も、結構いるんだけども。
大塚さん:うしろに樹木が写っていたり、着ている和服がなんとなく当時の庶民の感じがするとなると、やはり肉親というか、関係者なのかなと思った。
山岸さん:自分の近しい女の方の写真を、他人に見せないようタバコの裏ぶたにしまっていて、自分がタバコを吸うときだけ見れるという。そんな感じになっていたかと思うと、亡くなった方の意思というか、気持ちが、しんしんと染みわたってくる。
山岸さん:自宅の庭先の木か、なにかでしょうか。
考古学者 山野井清人さん:このころの俳優さんたちの宣伝用の写真見てると、木の下で撮るってひとつの定番ですよね。そういう取り方をする一般の方も、結構いるんだけども。
大塚さん:うしろに樹木が写っていたり、着ている和服がなんとなく当時の庶民の感じがするとなると、やはり肉親というか、関係者なのかなと思った。
山岸さん:自分の近しい女の方の写真を、他人に見せないようタバコの裏ぶたにしまっていて、自分がタバコを吸うときだけ見れるという。そんな感じになっていたかと思うと、亡くなった方の意思というか、気持ちが、しんしんと染みわたってくる。
この日に出されたおもな意見は下記でした。
▼戦前に活躍した俳優に似ているが、特定するのは難しい
▼写真に使われた紙の材質は、写真に用いられる堅めの印画紙と思われ、雑誌の切り抜きなどではなさそう
▼女性の和服は、一般の人が着用するものと変わらない
▼当時の軍には、家族らとの面会日があり、写真館などで写真を撮ることもあったといわれ、兵士の家族である可能性もある
山岸さんが次に向かったのが、宇都宮市内にある陸上自衛隊の駐屯地です。
▼戦前に活躍した俳優に似ているが、特定するのは難しい
▼写真に使われた紙の材質は、写真に用いられる堅めの印画紙と思われ、雑誌の切り抜きなどではなさそう
▼女性の和服は、一般の人が着用するものと変わらない
▼当時の軍には、家族らとの面会日があり、写真館などで写真を撮ることもあったといわれ、兵士の家族である可能性もある
山岸さんが次に向かったのが、宇都宮市内にある陸上自衛隊の駐屯地です。
ここには、パラオなど戦地から持ち帰った遺品や歴代の幹部の名簿など、歩兵第59連隊に関する貴重な資料が残されています。
なかには、アンガウル島の戦闘の数か月前に作成されたとみられる幹部の名簿もありました。
なかには、アンガウル島の戦闘の数か月前に作成されたとみられる幹部の名簿もありました。
しかし、今回の調査では、身元の特定につながるような有力な手がかりは見つけることができませんでした。
山岸良二さん
「今回は残念でしたが、残されていた資料は今後の調査の大きなヒントになると思います。身元特定につなげられる可能性は大いにあると思っています。また、女性の写真を見て、自分の近しい人に似ているという方がいましたら、かすかな情報でもお寄せいただきたいです。戦没者のご遺骨がなかなか日本に戻らない、もしくは戻せないという状況を、少しでも打破してもらいたいです」
「今回は残念でしたが、残されていた資料は今後の調査の大きなヒントになると思います。身元特定につなげられる可能性は大いにあると思っています。また、女性の写真を見て、自分の近しい人に似ているという方がいましたら、かすかな情報でもお寄せいただきたいです。戦没者のご遺骨がなかなか日本に戻らない、もしくは戻せないという状況を、少しでも打破してもらいたいです」
(8月13日「首都圏ネットワーク」で放送)
【追記】複数の情報提供 水戸光子さんの可能性
13日夜に今回のニュースを放送し、記事も公開したところ、「写真の女性は1940年前後に活躍した、俳優の水戸光子さんではないか」という情報を複数お寄せいただきました。
身元特定を進める考古学者の山岸良二さんもこれまで「戦前に活躍した俳優ではないか」といった意見に触れるなど、有名人の可能性も考えていましたが、特定には至らず、NHKの取材でも確認できていませんでした。
今回寄せられた情報をもとに映画評論家などに取材した結果、写真の女性は「水戸光子さんの可能性が高い」ことがわかりました。
山岸さんは「写真から遺骨の身元をたどることができないのは残念だが、調査としては前進と考えています。戦地で好きな俳優の写真を見ていたのかなと思うと、感じ入るものがあります。現地では多くの遺骨が見つかっていることから、今後も身元特定のための手がかりを探し続けたい」と話しています。
情報をお寄せいただいた皆様、ありがとうございました。
(8月14日夜、追記)
身元特定を進める考古学者の山岸良二さんもこれまで「戦前に活躍した俳優ではないか」といった意見に触れるなど、有名人の可能性も考えていましたが、特定には至らず、NHKの取材でも確認できていませんでした。
今回寄せられた情報をもとに映画評論家などに取材した結果、写真の女性は「水戸光子さんの可能性が高い」ことがわかりました。
山岸さんは「写真から遺骨の身元をたどることができないのは残念だが、調査としては前進と考えています。戦地で好きな俳優の写真を見ていたのかなと思うと、感じ入るものがあります。現地では多くの遺骨が見つかっていることから、今後も身元特定のための手がかりを探し続けたい」と話しています。
情報をお寄せいただいた皆様、ありがとうございました。
(8月14日夜、追記)
宇都宮放送局 記者
梶原明奈
2019年入局
栃木県政を担当
梶原明奈
2019年入局
栃木県政を担当