【一問一答】長崎市長 平和祈念式典にイスラエル不招待を説明

9日、長崎原爆の日に行われる平和祈念式典にイスラエルの駐日大使が招待されず、日本を除くG7各国とEUの大使らが連名で懸念を示したことについて、長崎市の鈴木市長は報道陣の取材に応じ、「決して政治的な理由で招待していないわけではない」として市の立場を改めて説明しました。

※記事下部には、市長の取材での発言を、一問一答を含めてすべて掲載しています。

9日の長崎原爆の日に行われる平和祈念式典について長崎市はイスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルの駐日大使を招待していません。

これをめぐって、G7=主要7か国のうち、日本を除くアメリカやイギリスなど6か国とEU=ヨーロッパ連合の東京に駐在する大使らが連名で懸念を示す書簡を長崎市の鈴木市長に送り、駐日大使らの参加見合わせを表明しています。

こうした中、鈴木市長は8日、報道陣の取材に応じ「決して政治的な理由で招待していないわけではなく、平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで式典を円滑に実施したいという理由だ。苦渋の決断ではあったが、そういう考えで決定した。判断に変更はない」と述べ、市の立場を改めて説明し、理解を求めました。

その上で「あす8月9日は長崎市にとって1年で1番大切な日だ。被爆者の平均年齢は85歳を超え、酷暑の中、頑張って参加する被爆者もいる。こうした式典が、いろんな妨害によって影響を受けてはいけない」と述べました。

また、大使らの参加見合わせを表明している各国について「残念だが、来年以降参加いただければと思う。今回に限らず、長崎にとっても日本全体にとっても大切な国々なので、われわれの真意が正しく理解いただけるように、必要に応じてあらゆる機会を捉えてお話しできればと思う」と述べました。

9日の平和祈念式典で、鈴木市長が読み上げる平和宣言では中東情勢などに触れ、被爆地・長崎として強い危機感を示すことにしています。

米 駐日大使 長崎市に平和祈念式典 欠席の書簡

9日の長崎原爆の日に行われる平和祈念式典についてアメリカ大使館は、エマニュエル大使が長崎市の鈴木市長宛てに6日、書簡を送り、イスラエルを式典に招待しなかったのは政治的な決定だとしたうえで自身も欠席を余儀なくされたと伝えました。

アメリカ大使館によりますと、エマニュエル大使は長崎市の鈴木市長に宛てに6日、書簡を送ったということです。

この中で、イスラエルを式典に招待しなかったのは政治的な決定だとしたうえでそのために自身は欠席を余儀なくされたと伝えたと言うことです。

長崎市の平和祈念式典をめぐっては、7月19日付けで、平和祈念式典への招待を受けたG7=主要7か国のうち、日本を除くアメリカやイギリスなど6か国とEU=ヨーロッパ連合の東京に駐在する大使らが連名で鈴木市長に書簡を送っています。

書簡では「イスラエルを式典に招待しないことは、イスラエルを式典に招かれていないロシアやベラルーシのような国と同列に扱うことになり、不幸で誤解を招く」として大使らが式典への参加を見合わせる可能性に言及していました。

G7各国の駐日大使「不幸で誤解を招く」懸念示す書簡

長崎原爆の日の平和祈念式典に長崎市がイスラエルを招かないことについて、日本を除くG7各国の駐日大使らは連名で「イスラエルを式典に招かれていないロシアやベラルーシのような国と同列に扱うことになり、不幸で誤解を招く」などと懸念を示す書簡を市長に送りました。

同列に扱うべきでないとする理由について、フランス大使館はNHKの取材に対して「中東での状況は、主権国家に対するロシアの侵略戦争と比較することはできない。イスラエルは去年10月7日のテロ攻撃の被害国だ。われわれはイスラエルが自国を防衛する権利を支持する」とコメントし、ウクライナに軍事侵攻しているロシアと、イスラム組織ハマスによる大規模な奇襲攻撃を受けて戦闘を続けているイスラエルを区別する姿勢を強調しました。

また、イギリス大使館も取材に対し、「イスラエルが国際人道法に基づいて自衛する権利を支持する」としています。

各国の大使ら原爆落下中心地碑に献花

長崎市松山町の爆心地公園には79年前の8月9日、原爆がさく裂した場所の直下に「原爆落下中心地碑」が設置されています。

8日は各国の大使らが、9日の平和祈念式典に参列するのを前に中心地碑に花を手向け、犠牲者を悼みました。

ロシアによる軍事侵攻が続く、ウクライナの公使参事官は、「ロシアは核兵器の使用を示唆し、核が存在しているのは、世界の課題だ。あすの式典に出席するのは重要な意味がある」と話していました。

また、今回の式典では、長崎市がイスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルの駐日大使を招待しなかったことを受けて、日本を除くG7各国の駐日大使らが参加の見合わせを表明しています。

このうちドイツの公使参事官は「イスラエルの大使を式典に招待しなかったのは、イスラエルをロシアやベラルーシと同じレベルに置くことになり、適切ではないと思う」と話しました。

そのうえで「重要なのは、式典は国際社会の平和の協調のために必要なもので、私はそれを支持している」と話していました。

被爆者団体「市はきぜんとした態度を」

被爆者団体の1つ、長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長は「被爆者の感情としても招待しないことは当たり前だと思うし、正しい判断だったと思っている。欧米の国々は長崎市長に思い直してもらおうと、書簡を送ったのかもしれないが、そんな圧力をかけること自体が間違っているので、長崎市はきぜんとした態度をとってほしい」と話していました。

そのうえで、川野さんは「イスラエルなど各国の大使に式典に参加してもらい、平和を訴えるべきという意見もあると思うが、それだけが平和を訴える方法ではない。今後、いろんな形で、長崎として努力すればいい」と話していました。

また、同じく被爆者団体の1つ、長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は「長崎市の対応が正しいと思う。ロシアやベラルーシを招待しない中で、イスラエルを招待することはダブルスタンダードだ。ロシアもイスラエルも戦闘を続けている中、そうした国の人が慰霊に参加しても原爆で亡くなった人たちは喜ばないと思う。長崎と広島で対応は違うが、長崎は長崎としての考え方があると思っている」と話していました。

平和祈念式典めぐる市民らの声は

9日に行われる平和祈念式典をめぐる長崎市の判断と各国の対応について、長崎市ではさまざまな声が聞かれました。

長崎市の30代の女性は「市の判断を支持しています。大使が長崎の地に来られなくても、各国から手を合わせる気持ちがあれば、来る来ないは問題ではないと思います」と話していました。

諫早市の40代の男性は、「長崎は戦争に対して敏感なので、紛争をしている地域の方を呼ぶのは好ましくないと思う。皆さんに来てもらい、平和の訴えを聞いてもらうのがいいとは思うが、それぞれの国の立場もあるのでしかたないと思う」と話しました。

長崎市の70代の男性は「イスラエルは紛争の当事者かもしれないが、紛争をなくすための平和の式典だから、あらゆる国を招待してよかったと思うし、各国の大使には参加してほしかった。戦争、紛争がある中でもそれを乗り越えて一堂に会すれば、違った側面が出てきたと思う」と話していました。

林官房長官「政府としてコメントする立場にはない」

林官房長は、8日の記者会見で「平素から長崎市との間で事務的なやり取りを行っており外務省から国際情勢などを説明することはあるが、式典に誰を招待するかは主催者である長崎市によって判断されたものだ。市主催の行事への各国外交団の出欠やその理由について政府としてコメントする立場にはない」と述べました。

上川外相「誰を招待するかは長崎市が判断」

上川外務大臣は、記者会見で「式典は長崎市主催の行事で、各国外交団からの出席者については、政府としてコメントする立場にはない」と述べました。

またイスラエルの駐日大使が招かれた6日の広島の式典と対応が分かれたことについては、「誰を招待するかは主催者の長崎市が判断したものだ」と述べました。

さらに、外務省と長崎市との間で、招待国の事前の調整が行われたかどうかについては、「平素より、長崎市とは事務的なやり取りを行っていて外務省から国際情勢などを含めて説明を行ってきたが、誰を招待するかは主催者の長崎市が判断したものだ」と述べました。

一方、アメリカなどの大使が9日の式典への出席を見合わせることでG7の結束に影響があるかと問われ、「国際社会が直面する諸課題について、G7メンバーと常に緊密に連携し、対応を主導しており、亀裂が生じるとの懸念には及ばない」と述べました。

立民 長妻政務調査会長 “書簡の経緯 情報開示を”

立憲民主党の長妻政務調査会長は、記者会見で「長崎市は被爆した方々の悲しみを長年受け止めている自治体であり、主催者の長崎市が決めたことにコメントすることは適切ではない」と述べました。

一方、アメリカやイギリスなどの東京に駐在する大使らが連名で長崎市の鈴木市長に書簡を送ったことをめぐり「書簡について、長崎市と日本政府がどう話し合いをして、どういう結論になったのかわれわれも関心がある。必要に応じて政府には情報を開示してもらいたい」と述べました。

維新 音喜多政務調査会長 “式典とは切り分けるべき”

日本維新の会の音喜多政務調査会長は、記者団に対し「長崎市長は非常に難しい判断だったと思う。われわれもイスラエルに即時停戦を求めていく立場だが、平和祈念式典とは切り分けるべきだ。長崎市がイスラエルの駐日大使を招待しなかったことは、外交儀礼から少し逸脱している。大使を式典に招いたうえで、別の機会に改めて、言うべきことを言うほうが適切だった」と述べました。

公明 北側副代表 “理由理解されず非常に残念”

公明党の北側副代表は記者会見で「国際情勢で緊張が高まっており、核廃絶に向けてのイニシアチブを日本がしっかり取っていかなければならない。地元としては『不測の事態があってはいけない』としてイスラエルの大使を呼ばなかったということだが、必ずしもそうした理由が理解されず、結果として式典に主要な国々の大使が参加されないのは非常に残念だ」と述べました。

鈴木市長の取材での発言

【市長からの説明】
すでに報道されておりますとおり、日本を除くG7各国、およびEUから書簡がございました。

書簡は、7月19日東京発になっておりまして、こちらに到着し郵送で受け取りましたのは7月25日になります。

書簡の主な内容は、イスラエル(駐日)大使が式典にご招待いただけない可能性があるということを憂慮しているということ、それから招請しないということは結果的に、イスラエルをロシア、ベラルーシといった式典に招請されていない国と同等にみなすということになり、遺憾であり誤った印象を与えることになるということ。

それからイスラエルが除外されることがあれば、式典にハイレベルの参加者を派遣することが難しくなるということ、これが主な内容でございます。

こういう書簡をすでに受け取っているわけでございますけれども、わたくしとしては、これまでもお話させていただいておりますとおり、決して、政治的な理由でイスラエルの大使に対して招待状を発出しないということではなく、あくまでも、平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで式典を円滑に実施したい。

そういう思いのもとで今回こういう決定をさせていただいたところでございます。

大変、苦渋の決断ではございましたけれども、そういう考えのもとで決定させていただいたということについては、これまでも繰り返しご説明させていただいたところでございますけれども、こういういま申し上げたような、G7各国、およびEUからの書簡をいただいたということ。

これはわたくしがご説明してきた内容が、まだ十分にご理解いただけていないということの結果だというふうに理解しております。

従いまして、私の方からはもうすでに、この書簡を受け取り、そして7月31日に最終的にイスラエル大使を招待しない、イスラエル大使に対する招待状を発出しないということについて、決定し、発表させていただいたところでございますけれども、そののちに、日本を除くG7各国、およびEU、それからイスラエルの大使、またはその代理となる方に対して、私から口頭で何らかの形で、ご説明をさせていただき、ご理解を求めたところでございます。

説明に関して、正直言って十分ご理解いただけたというふうに思っておりません。

平行線のところはありますが、引き続き、必要に応じて機会を捉えて粘り強くご説明をさせていただき、理解を求めたいというふうに思っております。

以上でございます。

【質疑応答】
Q.書簡について公表しなかった理由は?
A.これまで、相手国の立場もございますので、相手国がこういう書簡の公表を望んでいるかどうかの確認を取れておりませんでしたので、こちらの方からあえてその存在も含めて、公表しておりませんでした。

Q.書簡を受けて、日本政府や外務省など連携機関と相談した上で今回の判断をしたのか?
A.あくまでこれは長崎市として、長崎市の立場で判断させていただいております。

Q.相談はされていない?
A.外務省との間では国際情勢をはじめ、常に情報共有はさせていただいております。事務的にもやり取りさせていただいております。

Q.現時点でも、イスラエルを招待しないという判断に変わりはないのか?
A.先ほど申し上げましたとおり、これまで、あくまでも政治的な理由ではなく、平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで円滑に式典を実施したいと。

そういう中で、不測の事態の発生のリスクなどを総合的に勘案致しまして、イスラエル大使については、招待状の発送を行わないという判断をさせていただいたところでございます。
その判断に変更はございません。

Q.出席されないところに対しての説明はいつからいつまでに?手段は?
A.まず先ほど申し上げましたとおり、7月31日にイスラエル大使を招待しないと、イスラエル大使に対する招待状を発出しないということについて決定・発表させていただきました。

そのあとから、これまでの間に、その具体的な日時は差し控えさせていただきますけれども、これまでの間に、申し上げたとおり、そのG7の日本以外の国、それからEU、そしてイスラエル。

すべての国、そして機関ですね、に対して、大使または、先方の都合で代理が対応するということであれば、代理の人にですね、私の方から直接ご説明を差し上げたところでございます。

Q.政治的な問題に発展するかもしれない中、「不測の事態」というのは本当の理由になるのか。
A.繰り返しでございますけれども、不測の事態、そして申し上げましたとおり、平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで円滑に式典を実施したいという理由でございます。

逆に申し上げますと、政治的な理由ということで、例えばその紛争当事国だからとか、そういう理由であれば、むしろ紛争当事国であるからこそ、呼ぶべきだというふうに私自身としては思っております。

ただそれをそういう紛争当事国を呼べないということは大変残念ではありますけれども、これはロシア、ベラルーシについても同様でございますけれども、そういう紛争当事国を呼べないところは残念でありますが、それを呼んだことによる、式典に与える影響ということを鑑みまして、総合的に判断して、招待状の発出を差し控えさせていただくことになった次第でございます。

Q.G7などの大使側に改めて意図を伝えたのは電話か、直接か。
A.手段はちょっとお答え差し控えさせていただきます。
何らかの手段で私の方から直接口頭でご説明させていただきました。

Q.6日に広島の式典で集まった場で大使に説明したのではない?
A.それも含めてお答えは差し控えさせていただきます。

Q.SNSのXでの反応を把握しているか。
改めて、なぜ式典を平穏に執り行う必要があるのか市長のことばで説明を。
A. Xでさまざまな、私の投稿に対する、さまざまなコメントをいただいていること、すべて承知しておりませんけれども、さまざまなコメントがあることを承知しております。

私の決定に対するサポートの意思を表明していただいている方もたくさんいらっしゃることにとても、こちらとしても、勇気づけられているところでございますが、他方でですね、申し上げましたとおりあくまでもこれは政治的な理由ではございません。

そういう意味では、そこのわたくしの真意が十分に伝わっていないというところもあるかなというふうに考えております。

引き続き先ほど申し上げましたとおり、あくまでもこれは政治的な理由による判断ではないということ。

平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで、円滑に式典を実施したい。

こういう思いによることであるということを、改めて粘り強く、多くの方に理解していただくよう、説明に努めていきたいというふうに思っております。

こういうふうな思いでございますけれども、明日、8月9日、長崎市にとって1年で一番大切な日だというふうに思っております。

特に被爆者がもう平均年齢85歳を超えております。

私の両親も被爆者で、両親とも90歳でございますけれども、明日の式典、うちの両親は、さすがにちょっと年齢も考慮して、この酷暑の中、式典に参加するのはちょっと無理だということで、家で、自宅でですね、テレビで式典の中継を見るということでございますけれども、中には、うちの両親と同じぐらいの世代の被爆者の方が、高齢のお体にむちを打って、酷暑の中で頑張って式典に参加される方もいらっしゃいます。

そういう被爆者の方が参加される式典が、何かですね、いろんな妨害によって影響を受けてはいけないと、いろんなものに支障が生じてはならないというふうに思っております。

そういう意味で、先ほど申し上げましたように、平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで円滑に式典ができるようにということで心を配っている。

その一環として、今回このような判断をさせていただきました。

Q.アメリカ大使などの派遣見送りについてはどう受け止め?
A.これまでも、アメリカに限らず各国、できるだけ、ハイレベルで大使の方にご参加をということで、お願いをしておりました。

今回、先方からそういうことで大使が参加できないというご連絡があったこと、これは残念でありますが、引き続きですね、来年以降、大使のご参加をいただければというふうに思っております。

Q.「引き続き理解を求めたい」というのは式典までなのか、それ以降にも立場を理解してもらうように説明をするのか。
A.それはもう本当今回の式典までということに限らず、これから、この長崎にとってもそして日本全体にとっても、大切な国々でございますので、引き続き、われわれの真意がしっかり正しく理解いただけるように、必要に応じて、あらゆる機会を捉えて、お話をできればというふうに思っております。

Q.書簡が来てから先月31日までの間に返信は?
A.それまで、特段何もございません。

Q.外務省との相談は?
A.長崎市で、そこは先月31日までの様子をいずれにしても見ている状況でした。