国産AI、海外勢にどう対抗?

国産AI、海外勢にどう対抗?
世界で急速に活用が広がる「生成AI」。

チャットGPTで知られるオープンAIをはじめ、グーグルやメタといった巨大IT企業など、アメリカ企業を中心に開発競争が激しさを増しています。

一方で、日本国内でも「国産AI」を開発する動きが活発になっています。先行する海外勢に、国内企業は、どう対抗しようとしているのか。開発の最前線を取材しました。

(経済部記者 佐野裕美江/政経・国際番組部ディレクター 豊島あかり)

日本仕様の国産AIを

最初に訪れたのは、東京・千代田区のIT企業「プリファードネットワークス」です。
2014年に設立され、深層学習や機械学習に関する技術力の高さを生かして、大手企業と連携し、石油化学プラントの自動運転システムや、工場の製造ラインで不良品を検知する産業用ロボットの開発などを手がけてきました。

この会社が、いま取り組んでいるのが、日本向けに最適化した生成AIの開発です。

生成AIは、学習したデータをもとに、利用者からのさまざまな問いかけに、応答します。
海外勢の生成AIは、こうした学習データとして、英語の文章や、欧米の社会・文化に関するものを使うことが多く、日本語や日本に関するものは、比較的少ないと言われています。

このため、日本で活用する際、回答の日本語が不自然だったり、日本の文化にそぐわない点があったりすると、指摘されてきました。
一方、この会社は、日本に適した生成AIを、一から独自に開発しようと、日本語や日本社会に関するデータを用意し、多く学習させています。
学習させた日本語のデータは、文字数にして7000億字に上る規模となっています。
その結果、例えば「海外からの観光客に対し、日本で改善すべき点を教えて?」と尋ねると、「交通機関の利用方法の改善」を挙げ、「外国人観光客にとっては複雑でわかりにくい部分があります。特に電車やバスの乗り降り、料金の支払い方法などに戸惑うことが多いようです」などと、日本の交通事情をよく理解した回答を導き出せるようになりました。

この会社が行ったテストでは、日本語の性能で、海外製の主要なAIを超えたことが確認されたと言います。
岡野原 最高研究責任者
「日本語を扱い、理解できる、というところでは、海外のすべての生成AIも含めて、最高精度を目指して開発しています。日本の知識を持ち、日本語で書かれた文章を、言葉を理解するだけではなく、その背景・知識も理解できる生成AIを目指しています」
会社は、この日本語性能が高い生成AIに、今後、さらに製造業や金融、医療など、各業界の専門用語や知識を学習させることで、それぞれの業界に最適なAIを開発していこうと考えています。

海外勢が開発競争にしのぎを削る、汎用的(はんようてき)なAIではなく、国内の各産業のニーズに応じたAIを開発することで、市場を獲得していく戦略です。
岡野原 最高研究責任者
「海外企業の方が、計算処理能力や人材が非常に多い中で、私たちは、産業分野の方々とこれまでも深く仕事をしてきて、そこに対する理解がある、というのは強みでもあります。産業界を支える生成AIを提供するという点に関しては、私たちがやらないと難しいので、そこに関してはぜひ頑張っていきたいと思います」

海外勢のAI元に開発の動きも

一方、大手企業の力も借りつつ、国産AIを開発しようという動きもあります。
2018年に東京大学の研究室のメンバーが立ち上げたIT企業「イライザ」は、巨大IT企業であるメタの生成AIを元に、開発に取り組んでいます。

メタは、自社が開発した生成AIを、「オープンモデル」と呼ばれる形で開放し、無料で利用できるほか、利用者が追加のデータを学習させることで、自分に合った形に改良もできるようにしています。
一から生成AIを開発しようとすると、基礎となる学習データを収集し、膨大な計算を処理できる環境も整備する必要があるなど、大きなコストがかかります。

この会社は、巨大IT企業が開発した生成AIをベースに、追加で日本語のデータを学習させることで、コストをそれほどかけず、しかもスピーディーに、日本語の能力を強化した生成AIを開発できると考えているのです。

ことし6月に開発した生成AIは、主要な海外勢のAIを上回る、日本語の性能を得られたとしています。
曽根岡CEO
「オープンモデルに日本語を勉強させ、日本の業務を理解させる、というステップを踏むことで、0歳児を20歳まで育てるのではなく、アメリカのスタンフォード大学の学生を連れてきて、日本語を勉強してもらい、作業をこなしてもらって、優秀な人間に育てるようなイメージです」
さらに、この会社は、ことし4月、KDDIのグループに入りました。
KDDIが持つ計算処理能力を活用することで、AIの開発を加速できるほか、開発したAIサービスを販売する際も、KDDIの営業力が活用できる、というのがねらいです。
曽根岡CEO
「生成AIは、国のインフラとなるもので、われわれがしっかり開発していければ、国全体としても競争力を持てる。KDDIグループと一緒になって、日本から、グローバルに使われるような便利な生成AIを生み出せるよう、開発に注力していきたい」

AI市場は20倍の予測も

生成AIに関連する市場規模は、2030年には、世界で2100億ドルと、去年(2023年)のおよそ20倍に達するという予測もあります。

これまでのITサービスのように、生成AIでも、海外のIT企業が圧倒的なシェアを占めることになるのか。

それとも、日本勢が巻き返し、独自の存在感を出すことができるのか。

今後も、国内外の生成AIの開発競争から目が離せない状況が続きそうです。

(7月23日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
佐野裕美江
2016年入局
青森局やむつ支局を経て現所属
政経・国際番組部ディレクター
豊島あかり
フリーランスの番組ディレクターなどを経て、2013年入局
静岡放送局、首都圏局、ニュースウオッチ9を経て現職