まずは、選挙期間中、小池百合子さん、蓮舫さん、石丸伸二さんの名前がどれぐらい検索されたみていきます。
東京都知事選 検索データから分析 最も検索されたのは…
7月7日に投票が行われた東京都知事選挙。インターネット上では、どのようなことに関心が集まったのか。検索された言葉などのデータから探ります。
小池氏・蓮舫氏・石丸氏 最も検索されたのは
選挙期間中、石丸さんが一貫して上回っています。検索された数は、小池さんや蓮舫さんの3倍以上にのぼりました。
次にどのような言葉が一緒に検索されたのかを見ていきます。検索された数が多いほど言葉が大きく表示されます。
小池さんと一緒に検索されたのは…
小池さんの名前とともに最も検索されたのは「学歴問題」でした。エジプトのカイロ大学卒業という経歴について、関心が集まりました。
また「子供」や「子宮」と言う言葉は、告示前日の6月19日にXに投稿した、子宮筋腫を患い子宮を全摘し「自分の子供はもう産めない」と思ったからこそ産みたいと思っている人をサポートしたい、と子育て支援に力を入れる思いを語った動画が反響を集めました。
「緑のたぬき」は、ネットで今回の都知事選を「赤いきつねと緑のたぬき」と例える声についてどう思うのか、動画で配信していました。
蓮舫さんと一緒に検索されたのは…
蓮舫さんの名前とともに最も検索されたのは「公職選挙法」でした。告示前に街頭演説をしている動画が投稿され、それが政治活動なのか、選挙の事前運動にあたるのか、ネットで議論になりました。
今回、立憲民主党を離党して無所属で立候補した蓮舫さん。自民党の政治資金パーティーの問題への批判などで賛同する野党から幅広く支持を得ようという動きもみられ、「共産党」という言葉も検索されました。
「クラリオンガール」や「グラビア写真」など、かつての活動についても注目が集まっていました。
石丸さんと一緒に検索されたのは…
石丸さんの名前とともに最も検索されたのは「街頭演説」でした。「予定」や「スケジュール」といった言葉とともに検索されていて、石丸さんの街頭演説に注目が集まっていたことがうかがえます。
「評判」、「経歴」、「実績」など、石丸さんの人となりについて調べようという傾向も見られました。
一方、「裁判」という言葉も検索されました。
4年前、当時市長だった石丸さんから、「どう喝された」などとうその発言や投稿をされて名誉を傷つけられたなどとして安芸高田市の市議会議員が市に損害賠償を求めた裁判で、7月3日、広島高等裁判所は1審に続き、市に33万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
「都知事選」のネットでの関心は?
ここからは、選挙期間中、「X」上で「都知事選」とともに多く投稿された言葉を見てみていきます。
最も多く言及されたのは「投票」でした。
また、「YouTube」という言葉も目立ちました。候補者や支援者によるYouTubeでの情報発信が多く見られました。
YouTubeの登録者数を比較すると、石丸さんが29万人と、小池さんと蓮舫さんよりも突出しています。
石丸さんは、街頭演説をテンポよく編集した動画を投稿したり、夜にライブ配信を行ったりと、再生回数は平均10万回以上となっています。
一方、小池さんは、みずからの政策をAIが紹介する「AI YURIKO NEWS」を配信。蓮舫さんもスマートフォン向けの縦動画を投稿するなどしてきました。
ただ再生回数はいずれも平均4000~5000回ほどでした。
過去最多56人が立候補したが…
過去最多の56人が立候補した今回の都知事選。
「X」では「選挙ポスター」といった言葉も多く言及されました。
掲示板の枠が足りなくなったり、候補者以外の選挙ポスターが掲示されたりしたことが、問題視されました。
一方で、政策面の具体的な言葉についてはあまり言及されていませんでした。
選挙公報では多くの候補がにQRコードなどを掲載して、自らのYouTubeやLINE、インスタグラムなどに誘導をはかっていました。
また、政見放送でも、とっぴな行動をとったり、自身のYouTubeチャンネルに繰り返し誘導したりする候補も見受けられました。
インターネット上では「選挙に受かることよりも自己アピールの場になっている」と批判する声もあがっていました。
一方で「ことしは投票に行かないとカオス状態に拍車がかかる」という危機意識から、投票を呼びかけるものも見られました。
候補者急増の背景にアテンションエコノミー
選挙制度に詳しい慶応義塾大学の大屋雄裕教授はこうした現象が起こった背景の1つには「アテンションエコノミー」があると指摘しています。
大屋教授
「これまでも都知事選は伝統的に多くの候補者が出てきましたが、ここまで爆発的に増えた背景には『アテンションエコノミー』が大きく影響しています。これまでも動画プラットフォームのようなところで人々の注目を引き付け、再生回数を伸ばすことでそれを収益化、活動資金にする、というねらいを持った人が一定数いる状況でしたが、さらに掲示板の枠をある意味、収益化するという人たちも出て、今回、候補者が大量になりました」
そのうえで、大屋教授はこうした状況が有権者の選挙の見方を変えてしまうのではないかと指摘します。
「有権者に与えた影響の1つは、選挙自体が真面目なものと感じられない環境を作り出してしまっていることです。候補者の間で問題や政策に関する意見がどう違うかといった、有権者に本来与えられるべき情報が覆い隠されてしまうという面もあると思います」
供託金制度もハードルにならず
公職選挙法では、当選を争う意思の無い人が売名などの理由で無責任に立候補するのを防ぐために供託金制度が設けられています。
都知事選の場合は、300万円を法務局に預け、得票が有効投票総数の1割未満だと没収されます。
過去の都知事選の場合、前回2020年はおよそ61万3000票あまり、前々回の2016年には65万4000票あまりでした。
このラインを超え、供託金を没収されなかったのはいずれも3人にとどまりました。
プラットフォーム側の対策も
大屋教授は今回の選挙では供託金制度がハードルにならなかった候補もいると指摘し、プラットフォーム事業者側の対応も必要ではないかと話しています。
大屋教授
「今回の選挙についていうと、供託金制度が限界にきているというのが評価だと思います。一方で、供託金の額は現状、都道府県知事という区分で300万円となっているわけですが、全体として上げすぎると、特に地方では立候補者が出にくくなり、選挙の機会が失われてしまうおそれがあります」
「東京都だけ引き上げるということが許されるのか議論が必要ですし、ちょっとやそっと上げても、アテンションエコノミーの圧力に勝てるか分からない。プラットフォーム事業者の自主努力で、選挙関連のコンテンツについては収益化をしないといった規制が現実的ではないでしょうか」
こうした指摘について、プラットフォーム側は…。
グーグルは、YouTube日本版公式ブログで「広告掲載に適さない内容の動画に関しては、広告掲載を禁止しています。広告と収益化に関するポリシーも、政治的立場にかかわらず、YouTube上のすべての広告主とクリエイターに適用されます。また、各国の選挙に関連する広告についての法律上の制限などを踏まえたポリシーも定めています」としています。
Facebook Japanは「事業者としての公式見解についてはコメントを控えさせていただきます」としています。
今回の都知事選をきっかけに、選挙制度の在り方についても問われる事態となっています。
(ネットワーク報道部 金澤志江・メディアイノベーションセンター 斉藤直哉・吉水優里子)