ニューカレドニアでなぜ暴動?人気のリゾート地で何が?

ニューカレドニアでなぜ暴動?人気のリゾート地で何が?
“天国に一番近い島”と呼ばれ、日本人にも人気の南太平洋のリゾート地、フランス領ニューカレドニア。

今月中旬以降、暴動が広がり、マクロン大統領も現地入りする事態に。観光で訪れていた日本人なども退避する動きが進んでいます。

いったい何が起きているのか。
そもそもニューカレドニアってどんなところ?

わかりやすく解説します。

(ヨーロッパ総局記者 野原直路/シドニー支局長 松田伸子)

ニューカレドニアってどこにある?

南太平洋に浮かぶ、フランス領ニューカレドニア。

オーストラリアの東に位置し、シドニーからは飛行機で3時間ほど。日本からも直行便が出ていて、9時間ほどで着きます。

大小のさまざまな島の面積はあわせると四国とほぼ同じ。人口は27万で、そのうち10万人近くはヌメアという中心都市で暮らしています。

そもそもニューカレドニアってどんなところ?

1980年代、俳優の原田知世さんが主演し大ヒットした映画の舞台となったこともあり、「天国に一番近い島」と呼ばれ、日本人にも人気のリゾート地になりました。
19世紀半ばにフランスが併合し、20世紀前半にかけては、政治犯などの流刑地とされたニューカレドニア。

このころ、希少金属のニッケルが見つかったことで鉱山開発が盛んになり、ヨーロッパや日本を含むアジアからも多くの労働者が移住しました。

人口のおよそ40%を先住民族「カナック」が占め、ヨーロッパからの移住者やその子孫がおよそ25%、そのほか南太平洋の島しょ部や東南アジアからの移民などとなっています。

ニューカレドニアで何が起きている?

今月13日夜、カナックの若者たちがヌメア郊外の幹線道路を占拠。車に火をつけたり、店に押し入って略奪したりしました。
現地当局などによると、治安部隊の2人を含む7人が死亡し、警察官など90人以上がけがをしたほか、およそ350人が拘束されたということです。

当初、現地には、およそ50人の観光客を含む300人の日本人が滞在していましたが、空港も閉鎖され出国できない状況が続いていました。

土産物店を営む高橋リサさんは、30年以上現地で暮らしてきた中で、これほどひどい状況になったのは初めてだと話していました。
高橋リサさん
「私が住んでいるところは、多くの日本人観光客が宿泊するリゾートホテルがある地域で、暴動が起きている場所から3キロほど離れていて、安全な状況ですが、夜中になると爆発音が聞こえることもありました。
これまでも何回かちょっとした小競り合いはあって、治安部隊が出動するというようなこともありましたが、今回、ここまでひどくなるとは住民も思っていなかったし、おそらくフランス政府も思っていなかったのではないでしょうか」

なぜ暴動がおきた?

きっかけになったのは、フランスで進行中の「憲法改正」の動きでした。

ニューカレドニアではカナックの人たちの権利を尊重するため、地方選挙の参政権が「1998年以前にニューカレドニアで選挙人名簿に登録されていた人」などに限定されてきました。

それを「現地に10年以上暮らす住民にも拡大する」ための憲法の改正案がフランスの国民議会に提出され、賛成多数で可決されたのです。
これにより、比較的最近、移住してきた人も地方選挙への参加が可能になります。

こうしたフランス本国の動きにカナックの人たちなどが、先住民の票の重みが失われると反発し、抗議活動が暴動に発展。略奪や放火が相次ぐ事態となりました。

参政権拡大 なぜ先住民は反発?

実は、ニューカレドニアでは1960年代からカナックの人たちを中心に「植民地支配からの独立」を目指す運動が活発化し、1980年代には今回のように治安部隊との間で死傷者が出るような衝突にまで発展しました。

こうした対立の歴史を経て、1998年、フランス政府と独立派などが、20年後までに独立の賛否を問う住民投票を実施することなどを定めた協定を結びました。

独立を問う住民投票は行われたの?

協定では、否決された場合でも、さらに2回、住民投票を行うことができると定められていたことから、2018年、そして2020年、2021年のあわせて3回、住民投票が行われました。

1回目、2回目とも独立「反対」が「賛成」を上回りましたが、その差は縮まっていたため、協定に基づく最後の住民投票となる2021年の投票に注目が集まりましたが、結果は独立反対が圧倒的多数を占めました。
ただ、2021年に行われた3回目の投票は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で環境が整っていないとして、独立賛成派が投票の延期を求めていましたが、認められませんでした。

これを受けて、独立賛成派がボイコットを呼びかけた結果、投票率も43.9%とその前の住民投票より40ポイントあまり低くなり、独立反対が圧倒的多数を占めたのです。

独立派は、自分たちがボイコットしたこの住民投票は「有効ではない」としています。

専門家はどう見る?

長年、ニューカレドニアを取材し、シンクタンクや専門誌でも執筆活動を行っているニック・マクレランさんも、今回の暴動の背景には先住民の人たちのさまざまな不満があると指摘します。
ニック・マクレランさん
今回の憲法改正案は、地方選挙で投票できる人を比較的新しく移住してきた人にも拡大するというものです。
その数は推定2万5000人、人口わずか27万の地域で、新たに投票できる人が14%増えることになるのです。
これはカナックの人たちにとって不利に働くことであり、多くの人が「独立した主権国家」という自分たちの夢をを終わらせる道だと考えています。
2021年に独立の賛否を問う住民投票がフランス政府によって強行されたことで、政府に対する不信感が生まれていた中、こうした先住民の影響力を弱める決定が、包括的な対話がないままにフランスの議会で議論されたということに対して不満を持っているのです。
ニック・マクレランさん
経済の悪化も大きな要因です。ヌメアはほかの太平洋島しょ国と比べると非常に裕福な都市ですが、分断の大きな都市でもあります。
南部には高級マンションやヨットハーバー、観光客に人気の観光ビーチがあり、裕福な人たち、フランスの公務員の人たちは非常に高い給料をもらっています。
その一方、北部には貧しい労働者階級の工業地帯があります。特にカナックの若者たちは、教育、医療、住宅、仕事などで格差があり、今回それが爆発したのです。

過激化した背景にあるものは?

今回の暴動については、独立を求める政党やその指導者からも、放火や略奪といった行為については自制を求める声があがっていて、想定を超えて過激化したといえます。

フランスメディアは、このタイミングでここまで暴動が広がった背景について、歴史的な要因に加えて、先住民などを取り巻く経済的な不安もあると指摘しています。

ニューカレドニアは、EV=電気自動車のバッテリーなどに欠かせないニッケルの生産量が、インドネシア、フィリピンに次ぐ、世界第3位となっています。
現在、輸出額のほとんどをニッケルが占めていて、地元の雇用のおよそ25%は、ニッケルに関連した仕事だともされています。

しかし、インドネシアなどの生産急増などで最近、ニッケルの価格は低迷していて、特に2023年は前年比で40%近くも下落しました。

ニューカレドニアでは、採算がとれなくなった工場が停止されるなど、経済や雇用に大きな影響が出ていたのです。

今回の暴動の背景には、こうした経済的な苦境や、先住民とヨーロッパからの移住者の間のさまざまな格差に対する不満もあるとみられています。

過激化に偽情報も影響か?

また、今回の暴動をめぐって指摘されているのが、SNSで出回ったとされる偽情報です。

偽情報などを監視するフランスの政府機関は17日に報告書を公開し、旧ソビエトのアゼルバイジャンの与党に関係するとみられるSNSのアカウントが、フランスの警察官がニューカレドニアの独立派を殺害しているかのような偽の画像や動画を拡散していると指摘しました。
さらにフランス政府は、暴動の扇動を防ぐためだとして、現地での動画共有アプリTikTokの閲覧を制限するなどの対策にも乗り出しました。

ただ、アゼルバイジャン政府は、暴動の扇動に関与したとするフランスの主張を強く否定しています。

フランス政府の対応は?

暴動が激化する中、フランス政府は15日、非常事態宣言をだしました。

ニューカレドニアに非常事態が宣言されるのは、独立運動が激化し多くの死者が出た1985年以来、およそ40年ぶりのことです。
フランスは軍や治安部隊などを派遣し、23日にはマクロン大統領自ら現地を訪問。

「必要があれば治安部隊をパリオリンピックの期間中も含めて駐留させる」などとして事態の早期収拾を図る考えを示しました。

マクロン大統領は独立を目指す政党の指導者や地元の有力者と直接会って意見交換をし、地方参政権に関する憲法改正については「現在の状況で改正を強行することはないとはっきりさせたい」と述べ、改正に向けた手続きを延期する考えを明らかにしました。

憲法改正への反発に、一定の譲歩を示した形です。

ただ、専門家は「問題の解決にはまだ時間がかかる」と指摘します。
ニック・マクレランさん
今回の訪問で、カナックの人たちが抱いている不満や疑問をすべてを解決したとは思えません。
憲法の改正案の手続きを延期するとは言いましたが、撤回するとは言っていません。カナックの人たちは“撤回”を求めています。けさの地元メディアの見出しを読むと「長時間の話し合いが行われたが、実質的な打開策はなかった」といったことが書かれています。
マクロン大統領は治安部隊や警察官の駐留を伸ばすとしていますが、取り締まりだけでは問題は解決できないのです。

人気のリゾート地 今後どうなる?

フランスメディアによりますと、一連の暴動による経済的な損失は10億ユーロ、日本円で1700億円近くに上るとの指摘もあります。

マクロン大統領が現地入りした23日。

土産物店を営む高橋さんに改めて話を聞くと、ここ数日は火災なども少なくなって落ち着きを取り戻しつつあるとしながらも、まだ占拠されている道路もあり、一刻も早く元の安全なニューカレドニアに戻ってほしいと話していました。
高橋リサさん
「少しずつ新鮮な食べ物なども買えるようになってきていますが、物流は回復しておらずガソリンも手に入りにくい状態です。
日本人の観光客はコロナ前と比べるとまだ3分の1ほどにとどまっていて、これから少しずつ増えるかなというときにこういう状況になってしまいました。
マクロン大統領の訪問が吉と出るか凶と出るかわかりませんが、また観光客のみなさんをお迎えできるようになることを願っています」
ヨーロッパ総局 記者
野原 直路
2015年入局 新潟局 国際部を経て現所属
現在は欧州 パリ五輪 環境科学分野などを取材
シドニー支局長
松田 伸子
2008年入局 社会部 国際部を経て現所属
オセアニアを担当しジェンダー問題を中心に取材