「1人負け」の中国株 逃避マネーは日本に【中国発経済コラム】

日本やアメリカの株式市場で活況が続く一方、中国では株安に歯止めがかかりません。不動産不況の深刻化で、中国市場から投資マネーの流出が加速。「1人負け」の様相となっています。

2024年1月下旬、香港の裁判所が不動産大手「恒大グループ」に対して清算命令を出したことで、投資家心理はさらに悪化。とうとう証券行政トップの更迭とみられる人事も発表されました。

そして、中国から流出したマネーは日本に向かっているというのですが、この先何が起きるのでしょうか。
(中国総局記者 下村直人)

証券行政のトップ 突然の“更迭”か

「習近平指導部が株式市場の暴落を止めるため、市場規制当局トップを交代」

2024年2月7日、アメリカのメディア、ブルームバーグは株価対策を担っていた証券監督管理委員会のトップ、易会満主席が退任し、後任に上海市共産党委員会の呉清副書記が就任すると速報で伝えました。

退任した証券監督管理委員会 易会満主席

当局から理由は明らかにされていませんが、市場では株安を理由に更迭された可能性があると指摘されています。

2015年から翌年にかけて続いた株安でも同じように責任者の辞任劇があり、投資家からは「あのときと同じパターンだな」との声も聞こえてきます。

下落傾向続く中国の株式市場

証券行政トップを更迭しなければならないほど、中国市場の株価は下落が深刻です。

上海株式市場の株価指数は2月5日の取り引き時間中に一時、2635ポイント台をつけ、2019年2月以来、およそ5年ぶりの安値となりました。

この日の終値は2023年の年末の終値と比べると9%余りの下落で、2021年の終値ベースの高値(21年9月)からは27%余りの下落となりました。

マネーの流れを分析しているIIF=国際金融協会のまとめでは、2023年1年間の中国の株式・債券市場から流出した外国マネーの額は845億ドル、日本円で12兆5000億円にのぼりました。

景気減速に投資家心理の悪化

背景にあるのは、不動産不況の深刻化などに伴う中国経済の減速です。

建設途中で放置されたマンション

2023年1年間のGDP=国内総生産はプラス5.2%と政府の目標は達成したものの、前年の「ゼロコロナ」政策の反動も大きく、回復は力強さを欠いています。

厳しい雇用情勢や消費者の節約志向の高まりと需要の停滞。

強まるデフレへの懸念。

改正「反スパイ法」の不透明な運用などによる外国企業の投資の減少。

アメリカとの対立による輸出の低迷。

景気の牽引役不在の中、1月29日には経営危機に陥っていた「恒大グループ」が香港の裁判所から清算命令を受け、投資家心理はさらに悪化しました。

逃避マネーは日本へ

中国株に見切りをつけた投資家が今、ねらいを定めているとみられるのが日本株です。

香港のあるファンドマネージャーは「中国株の比率を大幅に下げ、日本株を買い増している」と明かしました。

中国経済の先行きが不透明なことに加え、ことし秋のアメリカ大統領選挙でトランプ前大統領が当選すれば、米中対立の激化は避けられないという見方もあって、香港では日本株の比率を高める機関投資家が増えているといいます。

中国に駐在する日本の証券会社の関係者も「中国市場の低迷で、業績が安定している日本企業や堅調な日本株にスポットライトが当たり、問い合わせが急増している」と話していました。

また、日本株に連動するETF=上場投資信託には中国の投資家からの注文が殺到。

一部の商品では1月中旬、売買代金がそれまでの平均の100倍以上に急拡大し、一時、売買停止になりました。

あまりの過熱ぶりに運用会社が投資家に損失リスクを警告しましたが、取引再開後も上昇は続き、翌日以降も断続的に売買が停止される異例の事態となっています。

資本規制が厳しい中国では限られた選択肢として、日本株ETFへの「爆買い」が続いています。

“楽観”に満ちている?

「国中が楽観的な雰囲気に満ちている」

中国の株価がこれだけ下落しているにもかかわらず、2月2日に中国共産党の機関紙、「人民日報」にこのような記事が掲載されました。

記事では国民の生活を向上させたとして政府の政策を称賛。

「人民の幸福感は大きく改善した」などとうたいあげています。

しかし、同じ2日の上海株式市場では、株価指数が一時4%以上急落。

SNSでは、この記事とともに下落が続く上海株のチャートや株価ボードなどのスクリーンショットを載せ、記事の内容をやゆする投稿が相次ぎました。

楽観論にはリスク

「経済の宣伝と世論誘導を強化し、中国経済光明論を高らかにうたう」

習近平指導部が2023年12月に開いた「中央経済工作会議」で打ち出した方針です。

以降、上記の「人民日報」の記事のように中国メディアの経済報道には楽観論が目立つようになりました。

しかし、実態とかけ離れた楽観論では投資家のマインドは冷え込むばかりで、むしろ逆効果です。

過度な楽観論は実態を覆い隠してしまう危険性すら、はらんでいると言わざるをえません。

中国マネー流入の日本株は?

では、中国から入り込む巨額のマネーによって日本株は安泰なのでしょうか。

日経平均株価は34年ぶりの高値を更新し、バブル期1989年の史上最高値である3万8000円台もそう遠くない距離にあります。

注目点は日米の金融政策です。

日銀が金融の正常化に向けた政策変更に踏み切るのはいつなのか、そしてアメリカ・FRB=連邦準備制度理事会の利下げはいつ始まるのか。

日銀 内田副総裁

2月8日、日銀の内田副総裁が懇談会で「仮にマイナス金利を解除してもその後にどんどん利上げしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していくことになる」と発言したことをきっかけに株価は大きく上昇しました。

しかし、FRBが年内に利下げすることは確実視されています。

日米の政策の方向が変わると為替が円高に振れ、海外投資家の「日本買い」はうまみが減る可能性もあります。

中国で伝えられる「楽観論」に触れるたびに不都合な真実にもきちんと目を向けていくことの重要性をかみしめています。

日本株に対しても楽観的なムードを味わうのは一定程度に抑えて、冷静に、そして少し警戒の目をもっていたいと思っています。

注目予定

来週は13日と15日、アメリカで消費者物価指数と小売売上高がそれぞれ発表されます。

FRBは4会合連続で政策金利を据え置いていて、政策の先行きを占う上で、インフレや個人消費の動向が注目されます。

15日には日本とイギリスでGDPの速報値も発表されます。