「かゆくてかゆくて」トコジラミ被害相談過去最多 対策は?

「かゆくてかゆくて」トコジラミ被害相談過去最多 対策は?
「やられました。めちゃくちゃかゆくて痛くて」

「夫が海外出張から連れ帰り大変なことに…」

刺されるとかゆみが1週間ほど続き、自宅で増えると個人での駆除は難しくなることもあるやっかい者、トコジラミ。

都内の相談件数はすでに過去最多となり、専門家は「コロナが5類になり、海外との行き来も増える中で被害が増えている」としています。

年末年始を前に、被害を防ぐための注意点や対策をお伝えします。

(※トコジラミについては、12日17時~の「ニュースLIVE!ゆう5時」でもお伝えしました)
画像をクリックすると見逃し配信が見られます(12月19日(火) 午後6:00まで)

航空券の上に…

今月5日、30代男性がSNSに投稿した写真です。
マレーシア旅行の帰り、空港のラウンジで過ごしていたところ、男性の航空券の上をよく見ると。

トコジラミ1匹が乗っていたということです。

「私の荷物についてきた?とりあえず帰ったら完全洗浄します…」
男性に取材すると、この数日前、宿泊していたリゾートホテルで1泊して朝起きた時、強いかゆみに襲われたということです。

何かに刺されたような赤い発疹が、おなかや太ももに6か所できていました。

かゆみは思いのほか強かったといいます。
「蚊に刺されたよりも少し強めのかゆみでした。僕の場合はかゆくてどうしようもない、というほどではなかったですけど、蚊と違って5日ほどたった今でもかゆみが残っています」

吸血性の昆虫「トコジラミ」とは

かゆみの正体、それは今、世界各地で被害が伝えられている「トコジラミ」だとみられます。
トコジラミは体長5~8ミリほどの昆虫で、名前は「シラミ」ですが、カメムシの仲間です。

夜行性で、昼間は室内の壁や柱の割れ目、ベッドの隙間などに潜んでいますが、夜になると出てきて人やペットの皮膚から血を吸います。

就寝中の人が刺されるケースが多く、刺されると強いかゆみが1週間ほど続きます。

産卵は1日に3~6個と繁殖力も非常に強く、自宅などに定着すると個人での駆除は難しいということです。

どうすれば自宅に持ち帰らずに済むか

男性は、世界各地でトコジラミの被害が出ていることを知っていました。

記事の冒頭で紹介した、航空券の上にいるトコジラミを見つけた時、考えたのはこれからどうすればいいか、ということでした。
「今ある荷物に紛れ込んでいるかわからないので、やばいと思いました。どうしたら家に持ち帰らずに済むか頭がいっぱいになりました」
手荷物はその場で、預けた荷物も空港ですべて確認しましたが、トコジラミやその卵は見つかりませんでした。

ただ、捨てられる荷物はすべて捨て、帰宅後も乾燥機やスチームアイロンを使って徹底的に防除作業を行いました。
「世界中で増えているのはわかっていて、どこかで出会うとは思っていましたが、ついに出会ってしまったかと。精神的にも肉体的にも本当に疲れました」

なぜ今トコジラミ?

トコジラミの被害については、ことしの5月にもこの記事と同じ「WEB特集」で伝えています。
この時は、気温が25度以上になると繁殖が活発になる習性があることから「これから夏にかけて爆発的に広がっていく」と伝えています。

その後、夏、秋と過ぎて12月になりましたが、秋以降「トコジラミ」についてのSNSでの投稿が増加、検索される回数も増えています。特徴は、海外と行き来する人の投稿が目立つことです。
(SNSでの投稿)
「流行りのトコジラミにやられました めちゃくちゃ痒くて、痛くて 腫れ上がり、急遽帰国 腫れが酷く、しゃがむとかなり痛みあり…」
「夫が海外出張から連れ帰り大変な事になりました。電気ついてる時は見かけないし、そもそも知らないから発覚まで時間かかっちゃいまして。業者に駆除頼んだし 労力も出費も凄かった!」
世界各地で発生が伝えられ、10月にはフランス政府が駆除に向けた対策を指示する動きがあったほか、お隣の韓国でも各地で防除作業が行われるなど対策が進められています。

では、国内ではどうなのでしょうか。

こちらは、駆除業者などで作る「東京都ペストコントロール協会」に寄せられた、東京都内の相談件数です。
今年度、寄せられたトコジラミについての相談は、ことし11月末の時点で306件になりました。

これはすでに去年1年間の件数を上回って、記録がある1987年以降で最も多くなり、10年前の2.5倍以上に増えていることになります。

専門家に聞く 特に注意が必要なのは

トコジラミに詳しい兵庫医科大学皮膚科学の夏秋優教授に聞きました。

夏秋教授は、ことし各地でトコジラミの被害が伝えられていることについて、次のように話しています。
兵庫医科大学 夏秋優教授
「この10年間くらい右肩上がりで患者が増えていましたが、2020年からのコロナ禍の3年間は人の流れが止まっていたので患者も少なくなっていました。その後コロナも5類になり人もたくさん旅行されるので、その結果、トコジラミ被害が増えています」
そのうえで、特に注意が必要な場所として「宿泊施設」を挙げています。
トコジラミは暖かい季節に活発に活動するといわれていますが、宿泊施設は冬場でも暖房で快適な温度に保たれています。

このため季節を問わず、トコジラミが潜んでいる可能性があるということです。
夏秋教授
「旅先のホテルなどからトコジラミを連れて帰る人がほとんどです。冬に宿泊先からトコジラミを持ち帰り、春になって自宅で増殖するケースもあり、これからの時期さらに被害が増えるおそれがあるので注意してほしい」
では具体的にどんなところに気をつければいいのか。

夏秋教授は「荷物の置き場所」についてアドバイスしています。

夜行性のトコジラミは、就寝中に人の血を吸うためにベッドに近づいてきます。

その通り道にもしスーツケースやバッグがあれば中に入り込んでしまうおそれがあるということです。

これを防ぐために、荷物は入り口付近などベッドから離れた場所に置くことが大切で、さらに荷物ごと大きな袋に包んでおけばより安心だということです。

一方、ほかに心配することはないのかについても、聞いてみました。

海外の通販サイトで購入した品物を入れたダンボールや商品に紛れてトコジラミが広がるのではとの懸念については。
夏秋教授
「中古品を買う場合は中に入っていたという可能性はあるかもしれないが、新品の商品を新品の段ボールで包んで送る場合であれば、トコジラミが紛れ込む可能性は極めて低い。ダンボールの表面に付着することも少ないため、気にし過ぎる必要はないです」

もし刺されたら?

刺されてしまったらどのように対処をすればいいのでしょうか。
トコジラミは夜間に服に覆われていない腕や足などの部分を刺し、1~2週間ほど腫れやかゆみが出ます。
夏秋教授
「トコジラミは感染症を媒介してくることはほとんどないので、市販のかゆみ止めを塗って様子を見ます。しかし症状がひどくなったり、大量に刺された場合はかゆみで不眠になったりするので、その場合は皮膚科の受診をお勧めしています」

対策は?駆除の方法は?

そしてもう一つ知りたいのは、トコジラミの被害を防ぐ「予防策」です。

害虫駆除の専門業者でつくる「日本ペストコントロール協会」の小松謙之さんに聞きました。
トコジラミは増殖しやすく、少ない数でも家に入り込んでしまうと短い期間のうちに増えてしまいます。

そのため小松さんは、一番の対策は「家に持ち込まないこと」だと指摘します。

例えば「旅行先の宿泊施設」では室内や天井などに黒いふんのようなものが残されていないか確認します。

また、先ほどの夏秋教授の話にもありましたが、荷物は袋に入れて入り口付近に置いておくと安心だということです。

また「中古の家具や衣類」にはトコジラミが寄生している場合もあるので、卵や虫がついていないか注意が必要です。

こん包の段ボールなども置きっぱなしにしないようにしましょう。

自宅にトコジラミが! どうすれば?

そして万が一、自宅でトコジラミを見つけてしまったら、早急に対処することが必要です。

殺虫剤をベッドの隙間やタンスの裏などトコジラミが潜みそうなところに噴射しておきます。
しかし「殺虫剤ならどれでも効くというわけではない」と小松さんはいいます。
日本ペストコントロール協会 小松さん
「いま日本に入っているトコジラミは殺虫剤への抵抗性を獲得していることが分かっています」
薬局でよく売られているのが「ピレスロイド系」といわれる殺虫剤ですが、今のトコジラミには効果が薄いということです。

殺虫剤を選ぶときは「プロポクスル」「メトキサジアゾン」という成分が入ったものを選ぶ必要があるそうです。

そして殺虫剤を使う時、大切なのが「量」だといいます。
小松さん
「普通の人だと2、3回吹きかけて様子を見ると思いますが、もし私が自分の家で出れば、半日くらい時間かけて大掃除のような形で殺虫剤をまきます。1本だけでは足りません。1回の作業で2~3本の殺虫剤を使えば、初期であればある程度駆除できると思います」

困ったときはあわてずに相談

対策が遅れた結果、トコジラミが大量に繁殖してしまい、自力での駆除が難しくなるケースもあります。そんな時や困ったときは専門の団体に相談することも必要です。

(公社)日本ペストコントロール協会
電話:03-5207-6321

協会では相談があれば、都道府県ごとに駆除の業者などを紹介しているということです。

情報をもとに落ち着いて対応

これからの年末年始、国内外を旅行する人が多くなる時期を迎えます。

注意点は宿泊施設での「荷物の置き場所」、被害拡大のための最大の予防策は「自宅に持ち込まないこと」。

もし自宅で見つけてしまったら「トコジラミに効く成分の殺虫剤」を。

それでも繁殖して駆除が難しくなったら「専門の団体に相談」を。

誰にとってもひと事ではないだけに、正しい情報をもとに、恐れすぎず冷静に対応していけるようにしたいと思います。
福岡放送局 記者
神田 詩月

2020年入局 
甲府局を経て現在は福岡県政を担当
海外旅行を控えトコジラミが気になる日々です
福井放送局 記者
大畠 舜
2020年入局 
神戸局を経て現職
築年数が古い家に今夏から住みゴキブリを発見 ほかの虫も出ないか心配
ネットワーク報道部 記者
松原圭佑
2011年入局
富山局、大阪局、京都局を経て現職
これまで大学や医療分野を中心に取材
ネットワーク報道部 記者
吉村啓
2013年入局
奈良局、旭川局、札幌局を経て現職
これまで生活情報や地域経済を中心に取材