初公開 自衛隊の“無人機”試験部隊 その能力は?

ウクライナ侵攻で繰り返される無人機による攻撃。
無人機は戦場の姿を劇的に変える「ゲーム・チェンジャー」の1つとされ、各国の軍隊が競い合うように導入を進めている。
自衛隊は、どう使おうとしているのか。
試験運用が行われている部隊が初めて公開されたので取材した。
(社会部 記者 須田唯嗣 南井遼太郎)
無人機は戦場の姿を劇的に変える「ゲーム・チェンジャー」の1つとされ、各国の軍隊が競い合うように導入を進めている。
自衛隊は、どう使おうとしているのか。
試験運用が行われている部隊が初めて公開されたので取材した。
(社会部 記者 須田唯嗣 南井遼太郎)
無人機の運用現場に初めてカメラが

青森県にある、海上自衛隊八戸航空基地。
不審な船や潜水艦を監視するP3C哨戒機の部隊が置かれた防衛の要だ。
ここで6月、1機の無人機が報道陣に初めて公開された。
「シーガーディアン」だ。
不審な船や潜水艦を監視するP3C哨戒機の部隊が置かれた防衛の要だ。
ここで6月、1機の無人機が報道陣に初めて公開された。
「シーガーディアン」だ。

直訳すると「海の守護者」と名付けられたこの機体。
全長はおよそ12メートル、幅は左右の翼の両端間で24メートルある。
プールほどの幅があるこの機体は、24時間飛び続けることができ、航続距離は4000キロを超えるという。
開発したのはアメリカの企業。
イラク戦争などでアメリカ軍が用いた無人攻撃機の「リーパー」をベースにしているが、武装はしていない。
機首の下に設置された高画質のカメラと、胴体下のレーダーで、海の監視に特化しているのが特徴だという。
海自は、P3Cなど有人の哨戒機で行っている警戒監視任務などの一部を、無人機で代替できないか検証するため、ことし5月から試験運用を行っている。
全長はおよそ12メートル、幅は左右の翼の両端間で24メートルある。
プールほどの幅があるこの機体は、24時間飛び続けることができ、航続距離は4000キロを超えるという。
開発したのはアメリカの企業。
イラク戦争などでアメリカ軍が用いた無人攻撃機の「リーパー」をベースにしているが、武装はしていない。
機首の下に設置された高画質のカメラと、胴体下のレーダーで、海の監視に特化しているのが特徴だという。
海自は、P3Cなど有人の哨戒機で行っている警戒監視任務などの一部を、無人機で代替できないか検証するため、ことし5月から試験運用を行っている。
機体の説明を受けると、格納庫の中に案内された。
そこにあったのは、真っ白なコンテナハウスのような建物。
そこにあったのは、真っ白なコンテナハウスのような建物。

格納庫は体育館ほどの大きさがあり、建物はそのおよそ3分の1ほどを占めている。看板などの表示は一切無く、見えるのは階段と入り口だけ。
この建物は、シーガーディアンの運用を行っている「オペレーションセンター」だ。ここも今回初めて公開された。
「内部の撮影は指示に従ってお願いします」
担当者からそう念押しを受けた上で中に入った。
この建物は、シーガーディアンの運用を行っている「オペレーションセンター」だ。ここも今回初めて公開された。
「内部の撮影は指示に従ってお願いします」
担当者からそう念押しを受けた上で中に入った。
20キロ先の船でも識別
入り口のすぐ近くにあったのは机とパイプいす。

その奥にはカーテンで仕切られた小部屋が。
シーガーディアンの操縦室だという。
さらに床が1段あがった場所には、複数の机といすがハの字型に並んでいた。
左側が「ミッション・オペレーター・ステーション」、右側が「ミッション・インテリジェンス・ステーション」と呼ばれているという。
通称は「MOS」と「MIS」だ。
シーガーディアンの操縦室だという。
さらに床が1段あがった場所には、複数の机といすがハの字型に並んでいた。
左側が「ミッション・オペレーター・ステーション」、右側が「ミッション・インテリジェンス・ステーション」と呼ばれているという。
通称は「MOS」と「MIS」だ。

入り口近くの机の側面の壁には100インチの大型モニターが2つあった。

左側のモニターにはシーガーディアンが飛行している空域などを示す地図が、右側にはこの機体が撮影した航空機や貨物船の姿が表示され、次々と切り替わっていた。
映像は、どれもぶれがなく、鮮明だ。船舶の後方にできた波も確認できる。
担当者は「シーガーディアンと船はおよそ20キロ離れているが、船名も判別することができる」と、その能力の高さを説明した。
映像は、どれもぶれがなく、鮮明だ。船舶の後方にできた波も確認できる。
担当者は「シーガーディアンと船はおよそ20キロ離れているが、船名も判別することができる」と、その能力の高さを説明した。
地上から2人で遠隔操縦
シーガーディアンを実際に動かしているのが、カーテンで仕切られた操縦席だ。ここに座る2人のパイロットが地上から遠隔で操縦する。

左側のパイロットが主に機体の制御を行い、右側が主にカメラの倍率やピントの制御を担当しているという。
機体が捉えた映像は、人工衛星を介してリアルタイムでセンターに送られてくる。
機体が捉えた映像は、人工衛星を介してリアルタイムでセンターに送られてくる。

飛行中、どの船を監視するかなどを決めるのは、操縦室の背後にある「ミッション・オペレーター・ステーション」(=MOS)に配置された「任務指揮官」だ。
MOSのモニターに示された青森県周辺の地図には、無数の船舶の情報が表示されていた。
船が発信するAIS=船舶自動識別装置の位置情報のほか、シーガーディアンに搭載されている洋上監視レーダーや、電波探知装置でとらえたものだという。
MOSのモニターに示された青森県周辺の地図には、無数の船舶の情報が表示されていた。
船が発信するAIS=船舶自動識別装置の位置情報のほか、シーガーディアンに搭載されている洋上監視レーダーや、電波探知装置でとらえたものだという。

こうした情報をもとに、不審な船をあぶり出すという。
例えば、シーガーディアンのカメラで捉えた船がAISの位置情報を出していないと分かれば、その船を監視する。
夜でも、赤外線カメラで船の状況を詳細に把握し、倍率も即座に切り替えることができるということだ。
海自の関係者はシーガーディアンなどの無人機について「長く飛べて、地上からコントロールするという運用の容易性もある。使い方は検討が必要だが、導入しないという選択肢はないと思う」と話している。
例えば、シーガーディアンのカメラで捉えた船がAISの位置情報を出していないと分かれば、その船を監視する。
夜でも、赤外線カメラで船の状況を詳細に把握し、倍率も即座に切り替えることができるということだ。
海自の関係者はシーガーディアンなどの無人機について「長く飛べて、地上からコントロールするという運用の容易性もある。使い方は検討が必要だが、導入しないという選択肢はないと思う」と話している。
導入検討の背景には“人手不足”
無人機導入の検討を急ぐ自衛隊。
その背景の1つにあるのが慢性的な人手不足だ。
自衛隊の定数は24万7154人(令和3年度)。
一方、防衛省によると、実際の隊員数は令和3年度末時点で、23万754人。
定数に対する充足率は、93.3%となっている。
充足率はこの10年、一貫して90%台前半で推移している。
少子高齢化が進む中、すぐに改善する見通しはたっていないのが現状だ。
一方で、海洋進出の動きを強める中国や、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮、それに相次ぐ災害への対応など、自衛隊の任務は多様化している。
海自幹部は「警戒・監視任務の重要度がより増す中で、有人機の運用はひっ迫しているのが実情だ」と打ち明ける。
その背景の1つにあるのが慢性的な人手不足だ。
自衛隊の定数は24万7154人(令和3年度)。
一方、防衛省によると、実際の隊員数は令和3年度末時点で、23万754人。
定数に対する充足率は、93.3%となっている。
充足率はこの10年、一貫して90%台前半で推移している。
少子高齢化が進む中、すぐに改善する見通しはたっていないのが現状だ。
一方で、海洋進出の動きを強める中国や、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮、それに相次ぐ災害への対応など、自衛隊の任務は多様化している。
海自幹部は「警戒・監視任務の重要度がより増す中で、有人機の運用はひっ迫しているのが実情だ」と打ち明ける。
無人機でどれだけ省人化できる?

では、仮に有人の哨戒機が無人機に置き換われば、どれほど人員に余力が生まれるのか。
海自によると、P3Cは通常11名程度が乗り込んで運用する。
パイロットのほか、電子機器に不具合が起きた際に修理する隊員や、海中の音を捉える「ソノブイ」と呼ばれる装置を投下する隊員、捉えた音を分析する隊員などだ。
海自によると、P3Cは通常11名程度が乗り込んで運用する。
パイロットのほか、電子機器に不具合が起きた際に修理する隊員や、海中の音を捉える「ソノブイ」と呼ばれる装置を投下する隊員、捉えた音を分析する隊員などだ。
一方、無人機はパイロット2人のほかに任務指揮官などが運用にあたるが、必要な人数は有人機を下回る。
長時間飛行できるため、機体を飛ばしたまま、オペレーションセンターの要員だけを入れ替えて任務を継続することができる。
長時間飛行できるため、機体を飛ばしたまま、オペレーションセンターの要員だけを入れ替えて任務を継続することができる。
無人機でできないことは?
ただ、有人機のすべての機能を無人機で代替できるというわけではない。
海自によると、シーガーディアンは単体では海中を航行する潜水艦の音を捕捉することができないという。
無人機を担当する幹部は取材に対して次のように話す。
海自によると、シーガーディアンは単体では海中を航行する潜水艦の音を捕捉することができないという。
無人機を担当する幹部は取材に対して次のように話す。
海上自衛隊 無人機作業室長 樗木健二 2等海佐
「無人機に搭載されているセンサーの性能だけで使える、使えないというのは決められない。燃費のよさなどは確認できているが、機体の速度や機動性などは有人哨戒機に劣る。どのような使い方ができるのかというのを、総合的に検証している」
「無人機に搭載されているセンサーの性能だけで使える、使えないというのは決められない。燃費のよさなどは確認できているが、機体の速度や機動性などは有人哨戒機に劣る。どのような使い方ができるのかというのを、総合的に検証している」
航空自衛隊も 陸上自衛隊も
万能ではない無人機だが、自衛隊は活用を進めている。
航空自衛隊は、無人機3機をすでに導入している。
航空自衛隊は、無人機3機をすでに導入している。

アメリカで開発された大型の無人偵察機「グローバルホーク」で、高度2万メートルの上空から偵察や監視ができる。
この機体を運用する部隊が、青森県の航空自衛隊三沢基地に、去年12月に発足した。
AI=人工知能を搭載した無人機の研究開発も進められている。
防衛省が目指しているのは、相手の戦闘機を早期に探知して有人の戦闘機に情報を伝えることなどができる「戦闘支援無人機」だ。
この機体を運用する部隊が、青森県の航空自衛隊三沢基地に、去年12月に発足した。
AI=人工知能を搭載した無人機の研究開発も進められている。
防衛省が目指しているのは、相手の戦闘機を早期に探知して有人の戦闘機に情報を伝えることなどができる「戦闘支援無人機」だ。

陸上自衛隊も、有人の対戦車・戦闘ヘリコプターを今後廃止して、攻撃ができる無人機に置き換える方針を打ち出している。
このほかにも、防衛省は無人で戦闘を行う車両の研究なども行っている。
遠隔で複数の無人機を運用し、隊員の被害を防ぎながら任務を遂行できるようにしようというものだ。
このほかにも、防衛省は無人で戦闘を行う車両の研究なども行っている。
遠隔で複数の無人機を運用し、隊員の被害を防ぎながら任務を遂行できるようにしようというものだ。

防衛省幹部は「無人機は上空だけではなく、海上や海中、陸上、あらゆる場所で使われていくことになるだろう」と話す。
「どのような任務をさせるのか国民に示す必要」
防衛省・自衛隊で導入の動きが進む無人機。
世界の無人機の動向に詳しい安全保障の専門家は、各国と比べると日本は大きく遅れていると指摘している。
世界の無人機の動向に詳しい安全保障の専門家は、各国と比べると日本は大きく遅れていると指摘している。

拓殖大学 佐藤丙午教授
「無人機が大きく注目を浴びていた2010年代中頃、防衛省・自衛隊は無人機にあまり関心を寄せていなかった一方、各国は積極的に導入していった。アメリカでは古くから導入の例は多いし、中国は多数のドローンを同時制御することを早期にやってのけ、韓国では最新技術を導入した部隊を創設するなど無人機やAIの先端国になっている。日本が世界に遅れをとっているのは明らかだ」
「無人機が大きく注目を浴びていた2010年代中頃、防衛省・自衛隊は無人機にあまり関心を寄せていなかった一方、各国は積極的に導入していった。アメリカでは古くから導入の例は多いし、中国は多数のドローンを同時制御することを早期にやってのけ、韓国では最新技術を導入した部隊を創設するなど無人機やAIの先端国になっている。日本が世界に遅れをとっているのは明らかだ」
そのうえで、無人機にどのような任務を担わせるのか、国民にも分かる形で示すことが必要だと指摘している。
拓殖大学 佐藤丙午教授
「防衛省の中の議論を聞くかぎり、任務のどこの部分を無人機に任せたいのか、どんな機体を導入しようとしているのかというのが、国民には少なくとも見えていない。無人機でどこまでのことをさせるのかという議論は、アメリカやヨーロッパでは以前から行われているが、日本では行われてこなかった。無人機の導入に向けたロードマップが必要で何を行わせて、何を行わせてはいけないのかなどを盛り込んだガイドラインも必要になる。公開の場での地道な議論が必要だ」
「防衛省の中の議論を聞くかぎり、任務のどこの部分を無人機に任せたいのか、どんな機体を導入しようとしているのかというのが、国民には少なくとも見えていない。無人機でどこまでのことをさせるのかという議論は、アメリカやヨーロッパでは以前から行われているが、日本では行われてこなかった。無人機の導入に向けたロードマップが必要で何を行わせて、何を行わせてはいけないのかなどを盛り込んだガイドラインも必要になる。公開の場での地道な議論が必要だ」
取材後記
人口が減少し、人手不足が自衛隊でも大きな課題となるなか、隊員の安全を守り、省人化を図る上で、無人機は有効と言える。
一方で、世界では無人機が攻撃に使われ、民間人も含めて犠牲を生んでいる。
防衛省は、昨年策定した防衛力整備計画で、攻撃用無人機を導入することを盛り込んだ。
攻撃用無人機の運用ルールについては「今後検討していく」としていて、どのような役割を担わせるのか、その姿は見えていない。
各国が無人機の導入を進める中、防衛省・自衛隊がどのような検討をし、国民の理解を得ていくのか。これからも取材を続け、伝えていく。
一方で、世界では無人機が攻撃に使われ、民間人も含めて犠牲を生んでいる。
防衛省は、昨年策定した防衛力整備計画で、攻撃用無人機を導入することを盛り込んだ。
攻撃用無人機の運用ルールについては「今後検討していく」としていて、どのような役割を担わせるのか、その姿は見えていない。
各国が無人機の導入を進める中、防衛省・自衛隊がどのような検討をし、国民の理解を得ていくのか。これからも取材を続け、伝えていく。

社会部記者
須田唯嗣
平成26年入局
松江局を経て現所属。
令和4年から防衛省・自衛隊を担当。
須田唯嗣
平成26年入局
松江局を経て現所属。
令和4年から防衛省・自衛隊を担当。

社会部記者
南井遼太郎
平成23年入局
横浜局、沖縄局を経て現所属
令和2年から防衛省・自衛隊を担当
南井遼太郎
平成23年入局
横浜局、沖縄局を経て現所属
令和2年から防衛省・自衛隊を担当