コロナ禍の高校生のリアル

コロナ禍の高校生のリアル
まもなく卒業を迎える高校3年生。
高校生活の大半をコロナに振り回されてきました。
部活動の大会も中止、修学旅行も中止。
大学受験はオミクロン株の感染拡大の中で行われました。
限られた3年間のうちの2年以上がコロナ禍。
どのように過ごしてきたのか、その本音を聞きました。

(和歌山放送局 福田諒/ネットワーク報道部 芋野達郎)

「全部コロナのせい」

SNSでは卒業を前にした高校生のツイートが相次いでいます。
「高校生活がまるで空白」
「全部コロナのせい」
「青春を返せ」
今の高校3年生。
初めて国内で新型コロナの感染者が確認されたのは、1年生の3学期、1月のことでした。
2年生になったばかりの4月には全国に緊急事態宣言が発令。
その後も、コロナ禍の高校生活を余儀なくされています。

雑談も自由にできなかった

「コロナで青春どっかいきました」
こう投稿をしたのは、愛媛県に住む高校3年生、希星さん(のあ・仮名)です。

休日に同級生と一緒にショッピングモールや公園に出かけることが楽しみでした。
しかしコロナの感染が拡大すると学校からは不要な外出を控えるよう指導されます。
友人と会うのは、ほとんどが学校内になりました。

しかも校内でも私語を慎むように言われます。
お昼休みは黙食が呼びかけられ、教室から笑い声は消えました。

「次の授業はなんだっけ?」
「宿題はなにがあった?」

会話の多くは事務的なものになっていき、気兼ねなく盛り上がれるのはSNSでのやり取りのみです。
希星さん
「誰とも遊びに行けなくなりました。同級生も、仲のよい友達も、中学時代の友達も、です。初対面の同級生とは仲よくなることが難しくなり、やっぱりお互いに顔を見てたくさん話をしたかったなと思います」

イベントや部活動にも影響が

コロナの影響はイベントや部活動にも及びます。
体育祭は規模を縮小、文化祭は中止。
初めて東京に行けると楽しみにしていた修学旅行は、行き先が四国、県内、市内とどんどん近場に変更されていき、結局、中止になりました。

いちばんつらかったのは、所属していた演劇部の大会が中止されたことです。

先輩の舞台を見て感動し、自分も先輩のようになりたいと入った演劇部。
コロナの感染拡大以降、生徒どうしの接触がある稽古は控えるよう呼びかけられ、部活動ができないときも増えていきます。

予定されていた大会はことごとく中止になりました。

部員のモチベーションは下がっていき、退部する人も。
希星さんは3年生の時に部長になりましたが、できる稽古は筋トレや発声練習などに限られていました。

自分が1年生の時に先輩から教えてもらったように、後輩にちゃんと指導できているのだろうか。
悩みながらいまできることを必死にやってきましたが、結局、引退公演も行えませんでした。
希星さん
「青春らしいことは何もできず、卒業アルバムの写真は教室で勉強をしている姿ばかりになってしまうのではないかと心配です。これが私たちの青春だと割り切るしかないですが、想像していたよりもずいぶん地味なものになってしまいました」

コロナ禍で増えた“将来を考える時間”

コロナ禍で一変した生活。卒業後の進路にも影響を与えました。
自分の将来について考える時間が増えたといいます。

コロナで医療関係者の人員不足が深刻だという情報も多く聞きました。
地域のために貢献したい。
地元に残り、看護の専門学校に進学することを決めました。
希星さん
「ふつうの青春は味わうことはできませんでしたが、どんな進路を選ぶのかじっくり考えることができました。家族の大切さにも気付いたし、今まで関わってきた地域の人にも貢献したい。将来、夢を実現して、コロナ禍の高校生活をポジティブに捉えられるようになっていたらうれしいです」

強まる地元志向

コロナ禍で、希星さんのように「地元に進学したい」という生徒は増えています。

大手予備校の河合塾が高校の進路担当の教諭に行ったアンケートです。
通学できる範囲の大学を選ぶ傾向が「強まっている」、「やや強まっている」と答えた割合は、ことしの3年生は56%。
コロナ前の2年前に比べて13ポイント増えています。

コロナで経済状況が悪化しているので、家から通える大学に。
一人暮らしをしてもアルバイトを探しづらい。
大学のサークルもオンラインだと新しい友達を作りづらいので、地元の友達と離れたくない。
今まで以上に地元志向が高まっているといいます。

また大学の学部選びも、就職先を意識したものに変わってきています。
国公立大学の志願状況を学部の系統別に見てみると…文系よりも理系。
学部もコロナで影響を受けた国際系や観光系より、医療系や法学系が人気となっています。

入試動向の担当者は、高校生たちがコロナで今の現状を見据えた選択をするようになってきていると分析しています。
河合塾 岩瀬香織さん
「地元志向が強まっている。コロナ前と比べて大学卒業後の進路も厳しくなっていることから、就職を見据えてより真剣に進路を選ぶようになってきている」

引退試合を企画し“自分が変わった”

コロナ禍によって自分が変わったという3年生もいます。
大阪の大塚高校の野球部だった、松本崚生さんです。
緊急事態宣言が出され部活ができなかった時には、松本さんはアプリを使ってプロのプレーの動画を見ながら、自宅や近所の公園で自主練に励んできました。

感染状況に応じて、再開と休止を繰り返してきた部活動。
それでもメンバー入りを目指し必死に練習を続けてきました。
しかし去年4月に再び緊急事態宣言が出されたことで、メンバーを選ぶための練習試合は中止に。
結局、アピールする機会も与えられないまま、松本さんはユニフォームを脱ぎました。
松本崚生さん
「一生に一度しかない高校野球、もっとできたんじゃないか。このまま不完全燃焼で高校生活を終わらせるわけにはいかない」
松本さんは、顧問のアドバイスを受け、自分たちができなかった引退試合を企画します。

同じ練習用のアプリを使っていた他校の高校生たちと、オンラインミーティングを繰り返します。

今まで人前に出るのは苦手なタイプだったといいますが、実行委員長に立候補。
大会の運営資金を集めるため、企業の人の前でも堂々とプレゼンできるようになりました。

クラウドファンディングで集めた資金はおよそ60万円。
もともと自分の高校だけで引退試合を行う予定でしたが、各地で新型コロナにより甲子園の県大会を辞退する高校が出ていることを知り、どの高校でも参加できるようにしました。
松本崚生さん
「最初は自分の気持ちを晴らしたくて、準備を進めていた。けれど、大会を辞退する高校を見てどうにかしたいという気持ちになった。全力でプレーして力を出し切り高校野球にけじめをつける場を作りたい」
来月の大会には、コロナ禍の高校野球にけじめをつけたいおよそ40人の高校生が参加する予定です。

顧問の先生も、松本さんの成長を頼もしく感じています。
顧問の東達哉教諭
「以前はもっと前に出てアピールしてほしいと思っていたが、引退試合の企画を通して、同世代だけでなく企業の人にも自分の考えを堂々と話せるようになった。すごく変わったし、成長したと感じている」
松本崚生さん
「思い描いていたような学校生活は送れなかったが、新型コロナがあったから一緒に引退試合を企画する仲間たちに出会えて、自分も成長できた。自分にとっては高校3年間楽しむことができて悔いはない。大会を実現することで協力してくれた人に感謝の気持ちを伝えられるよう頑張りたい」
コロナによって奪われた青春。
でも、コロナがあったから、より自分の進路を真剣に考えた。
コロナがあったから、自分が変われた。

私たちの過ごしてきた高校時代とはちょっと違っているけれど。
これからも青春が続く高校生たちの今後を心から応援したいと思います。