英で新型コロナ治療の医師「まん延前に感染抑え込むこと重要」
いち早く変異ウイルスの脅威を経験したイギリスで新型コロナウイルス治療の最前線に立つ日本人医師がNHKのインタビューに応じ、変異ウイルスがまん延する前に感染を抑え込むことの重要性を訴えました。
東京大学医科学研究所の特任教授で、イギリス・レスター大学の鈴木亨教授は、大学の病院で循環器内科のトップを務めています。
レスター大学には人工心肺装置=ECMOの治療を専門的に行うヨーロッパ有数の「エクモセンター」があり、イギリスの新型コロナ対応の拠点の1つとして去年春の感染拡大以降、多くの新型コロナの患者を受け入れてきたということです。
鈴木教授は、去年12月以降、イギリスで変異ウイルスの感染が広がった状況について、「私たちの病院では入院患者の数が倍に増えた。イギリスの病院では病床を確保するため、中等症以上の患者に対応しているが、重症患者が非常に多く、昨年の春も、ことしの冬もほぼ毎日、患者が亡くなっていた。同僚も感染する人が多く、非常に緊迫した状況にあった」と話しました。
現在は、感染者数が減ったことから落ち着いているということですが、患者が多かった時の状況について、鈴木教授は「イギリスでも酸素が提供できなくなった病院があったと聞いている。酸素が足りなくなるのは想定以上の事態で、病院としての機能が果たせなくなるのに近い。今はインドでも同じことが起こっていて、新型コロナウイルスの怖さ、医療資源を確保することの必要性を示している」と話しました。
また、変異ウイルスの感染力については「イギリスでは去年11月から12月にかけてロックダウンが行われていたにもかかわらず、人の流れが十分減らなかったこともあり変異ウイルスがまん延した。日本でも、人の流れを変えられないかぎり感染状況が悪化する可能性がある。イギリスの教訓を生かすなら、まん延する前に抑え込むことが重要だ」と話し、日本でも警戒が必要だと指摘しました。
そのうえで、医療提供体制については「新型コロナという未知のものとの闘いの中で、医療スタッフ全員が今まで慣れていなかった医療や技術を習得する必要があった。スタッフが不足していたのは事実だが、部長クラスの医師がみずから再教育を受けてもう一度、現場に入るということがみられた」と話し、臨機応変で乗り切ることができたとしました。
そして、鈴木教授は「イギリスの医療システムは想定外の事態に対し、有事の対応として1週間から10日間で前例のない組織変更を行った。日本は自然災害が起きたときはとてもよく動くので、今回の新型コロナも乗り越えられると期待している。ただ、医療現場だけでなく、患者、国民との対話を通して、有事に近い対応を取ることが求められるのではないか」と話していました。