次の自民党総裁、すなわち次期首相は戦後初めての「戦時下の政治指導者」となる可能性が高い。「その任に堪え得るのは誰か」という視点で総裁選び(党総裁選=27日投開票)は行われているだろうか。
政権交代を求める立憲民主党の代表選(23日投開票)についても同様だ。人気や若さ、見栄えの良さなどが優先されて、「政治指導者としての能力や覚悟」が置き去りにされたのでは国民は不幸というものだ。
政治指導と軍事指導は車の両輪だ(細谷雄一氏『政治指導と軍事指導は車の両輪』中央公論9月号)。第二次世界大戦を勝利に導いた英国のウィンストン・チャーチル首相や、米国のフランクリン・ルーズベルト大統領のように軍事問題に精通した政治指導者が、軍人から適切な助言を得つつ、軍事組織よりも優位な政治的立場から戦争を指導する、これがあるべき政治指導者の姿だ。
戦前の日本では、政治指導と軍事指導が車の両輪として回るような状況になかった。戦後は軍事について考えることがタブー視された。戦後の日本で軍事に精通していた首相は中曽根康弘氏と安倍晋三氏の2人しかいない。
「二人は軍事に精通していたからこそ、ともに長期政権を実現し、また外交で大きな成果を収められたのだろう」と細谷氏は解説している。
軍事に精通することで戦略的な思考ができるようになる。それゆえ安倍氏のように「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」も可能になったし、「自由で開かれたインド太平洋」戦略や、日米豪印による戦略的枠組みの「QUAD(クアッド)」も軍事に精通しているからこその発想だった。権力闘争という国内政局や、突発的な事態への対応にも効果を発揮したことだろう。