Vol.311 バイパス道路の整備と旧道地域の活性化
公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田 俊也
1.はじめに
渋滞の緩和や時間距離の短縮などを目的に、バイパスや高速道路・有料道路の建設が全国各地で行われている。こうした新規の幹線道路は、人口密集地・繁華街を通過する従来の幹線道路とは異なり、拡幅が難しい市街地を避け、制限の少ない郊外部に整備されるケースが多い。
新規の幹線道路の建設は、一般的には渋滞などの課題を解決し、利便性の向上が図られるというメリットがあるわけだが、その一方でデメリットもある。いわゆる旧道(従来の幹線道路)の交通量が減少し、多くの場合、沿道地域の活力が失われているのが現状であろう。
今回は、こうした幹線道路整備の影の部分に着目し、バイパス建設と旧道地域の新たな街づくりへの取り組みについて考えてみたい。
注:このレポートでは、バイパス建設により通過車両等の利用がバイパスにシフトした従来の幹線道路を「旧道」と表記する。
2.バイパス建設によるメリットとデメリット
まずは、バイパス建設のメリットとデメリットを、広域・社会全般の視点と、バイパス建設により旧道となる地域の視点で整理する。
(1)広域・社会全般の視点でのメリット・デメリット
広域・社会全般に関するバイパス建設に伴うメリット、デメリットの主な例として、一般的に次の項目が想定されよう。総じてみれば効果があるとの考え方の下で建設されるはずであることから、メリットと比べるとデメリットは少ない印象である。
【メリット】
|
【デメリット】
|
(2)旧道地域の視点でのメリット・デメリット
次に、バイパス建設に伴うメリット、デメリットについて、旧道地域からの視点で整理してみると、次のような項目が想定される。広域・社会全般の視点とは違い、デメリットのほうが多い印象である。
【メリット】
|
【デメリット】
|
3.県内バイパス建設事例における効果・影響
バイパスの建設は、小規模の整備も含めれば、近年も県内各地で数多く行われているが、ここからは、今回のバイパス建設に伴うメリット・デメリットを確認する事例として、2022年に全線開通した国道20号大月バイパス、2016年に77%が開通した国道139号都留バイパス、及び2007年に全線開通した国道52号甲西バイパス(富士川町内)について、6月初めの平日に実施した現地調査や関係者ヒアリングなども交えて整理してみる。
(1)国道20号大月バイパス(大月市)
A.交通量
大月バイパスは、大月市内の市街地における国道20号の混雑緩和と交通安全の確保を目的に、大月市駒橋から同市花咲に至る延長3.2kmのバイパスである。1995年に着工し、都留高校南交差点から東側が先行して供用されていたが、2022年に全線開通した。
国土交通省甲府河川国道事務所では、先ごろ全線開通の整備効果について発表しているが、それによると、2024年3月におけるバイパス(都留高校南交差点~大月IC入り口交差点)の平日12時間(午前7時~午後7時)当たりの交通量は5,900台、並行する国道20号(旧道)の同交通量は6,500台で、合計12,400台となっている。バイパス整備前の2022年3月調査では、国道20号(旧道)の交通量が10,300台であったため約4割減少したものの、大月バイパスと国道20号を合わせると交通量は増加している。
【国道20号大月バイパス】
B.開通による旧道地域への影響
甲府河川国道事務所の調査では、旧道の交通事故は減少している。ただ、渋滞については緩和された感もあるものの朝晩の渋滞の解消には至っておらず、バイパスの都留高校南側交差点付近で新たな渋滞が発生している状況である。
一方、現地調査を行った午後1時頃は、大月駅付近の旧道は人通りがほとんどなく、商店もシャッターが下りていた商店が目立った。また、通過車両もまばらで、トラック等の大型車はほとんど見られず、路線バスが目立つ程度であった。
旧道の商店街は、目当ての商店等がある人が利用しており、比較的飲食店は店を開けている様子が窺われた。ただ、商店数の減少はバイパス開通前から始まっているとのことであり、バイパスの影響ははっきりしない。
地元の商店街組合では、国の補助金を使い、年末恒例のくじ引きなどのイベントを実施しているほか、市では空き家対策補助金を出しているが、個店単位の支援が中心となっている。
(2)国道139号都留バイパス(都留市)
A.交通量
都留バイパスは、都留市内の市街地における国道139号の混雑緩和と交通安全の確保を目的に整備が行われている都留市十日市場から同市田野倉に至る延長8.0kmのバイパスで、1980年に着工し、2014年度までに現在の6.1㎞が供用済となっている。なお、両端部1.9㎞が未整備であるが、既に国道139号とは大型車の通行に支障がない形で接続しており、全線開通と遜色ない形での通行がなされていると考えられる。
令和3(2021)年度全国道路・街路交通情勢調査(交通センサス)によると、平日12時間(午前7時~午後7時)当たりの交通量は、都留バイパス(法能1139)で9,314台、旧道(四日市場41)で6,821台、合計で16,135台となっている。平成27(2015)年度は、都留バイパスが5,255台、旧道が12,307台、合計で17,562台となっており、都留バイパスへのシフトが進んでいることがわかる。
【国道139号都留バイパス】
B.開通による旧道地域への影響
交通量を見れば、バイパスへのシフトは進み、旧道の混雑緩和は進んでいるが、中央自動車道都留ICを利用する車両は、バイパスを通らず旧道を利用しているとのことであり、現地調査の日もまずまずの交通量はある印象であった。
また、交通量の少ない日中は、都留バイパスが迂回しているため、バイパス利用、旧道利用いずれも通過時間に大きな違いはなく、自転車利用者は旧道を利用し、自動車はバイパスに信号が少ないため比較的快適に通行できるとの声が聞かれた。
都留市は城下町であり、旧道沿いは従来からいわゆる商店街という街並みではなく事業・住宅混在地域で、商店街は1本北寄りの県道に面する高尾町名店街となるが、商店は大月市と同様にバイパスの開通前から減少傾向であったとのことである。
市では、市内の個店を対象にポイントカード事業に対する補助を行い、年末のイベントなどを実施しているが、旧道地域の商店街に対してのみ実施している補助はない。また、空き家バンクを実施しているが、登録している店舗は少なく、移住者の開業もない。なお、閉店し建て直す際には、一般住宅となるケースが増えているとのことである。
(3)国道52号(甲西バイパス)(富士川町など)
A.交通量
甲西バイパスは、南巨摩郡富士川町から甲斐市(双葉町志田、双田道交差点)に至る国道52号のバイパスである(18.2km)。中部横断自動車道にほぼ沿って建設されており、2007年に全線開通している。なお、2016年には旧道となった国道52号が国から山梨県に移管され、甲西バイパスとの並行区間は県道韮崎南アルプス富士川線に変更されている。
令和3(2021)年度全国道路・街路交通情勢調査(交通センサス)によると、富士川町内における平日12時間(午前7時~午後7時)当たりの交通量は、甲西バイパス(富士川病院付近)で6,982台、旧道の鰍沢警察署付近で5,380台となっている。また、この地域は中部横断自動車道も並行して整備され4,286台の通行があり、合計16,648台の通行量が概ね3分割されている。
一方、平成27(2015)年度は、甲西バイパスが8,408台、旧道が3,235台、合計で11,643台となっており、交通量自体は増加している。バイパス利用が減り旧道の利用が増えた形となっているが、両年度とも実数としてはバイパスが多く、往来の主体は甲西バイパスに移っていると言える(中部横断自動車道の増穂~六郷の開通は平成29年3月)。
【国道52号(甲西バイパス)】
B.開通による旧道地域への影響
旧道の交通量が減り走行しやすくなったことや、バイパスの北側の終点が甲斐市双田交差点と旧道と比べて東に位置していることから、通過車両であっても韮崎方面~静岡方面の往来は旧道を利用するケースがあるようである。また、富士川町は旧道より西側に集落を多く擁しており、比較的旧道の交通量は多いとの声も聞かれる。
旧道沿いの鰍沢商店街は、大月市や都留市と比べて“商店街”という形が感じられるが、商店数はやはり減少している。ただし、代替わりした若い経営者が店舗での営業だけでなく、大型小売店や高速道路のSA、オンラインショップなどさまざまな販売チャネルを開発し、経営の改善を図っている様子が窺われる。
町の支援としては、旧道の商店街のみを対象には行っていない。全町を対象としたケースでは、ゆるキャンのグッズをプレゼントするキャンペーンを個店ベースで参加を募り実施する際に、商工会経由で補助を出していたこともある(「『ゆるキャン△』✕富士川町コラボ、「富士川町商店巡り」キャンペーン」)。一方、空き家バンクも運営しているが、やはり登録が少ない。ただし、町の補助金を活用し若手移住者がコーヒーショップを開き、サロン的な存在となっている例もある。
なお、鰍沢商店街では、旧道を通行止めにして、毎年、山車巡行祭りを行っている。5年に1度盛大に実施しており、その年に該当する今年も10月に行う予定としている(前回はJR東海が祭りに合わせた臨時電車を運行、ツアーも実施されている)。
4.バイパス通過車両の旧道への迂回誘導による地域活性化(従来の賑わいの復活)
以上見て来たように、バイパスが整備されると、その地域の通過車両は時間距離の短縮の期待等からバイパスにシフトしていくが、この動きが鮮明になると、旧道地域にとってはメリットも生じるが概してデメリットのほうが大きいと想定され、賑わいや活力が失われていく。
こうしたデメリットを低減させる手立てとしては何が考えられるか、ここでは2つの視点から考えてみたい。
1つめは、バイパスにシフトした通過車両を旧道に迂回・誘導していく取り組みであり、そのための方策として想定されるものをいくつか挙げてみる。
(1)集客施設の新設
まず想定されるのは、集客施設の新設である。
地域に魅力的な施設があれば、旧道地域外に本来の目的地がある通過車両も、立ち寄りによる時間的ロスを許容するケースはあろう。
一般的には、観光施設や道の駅などの利便施設を新設するといった取り組みが想定されるが、行政に財政的な余裕がないなかで、過疎地は需要(集客)が見込みにくく、市街地では未利用地が少なく、官民どちらが主体となっても、整備が可能な適地は限られるだろう。また、街中の渋滞の緩和を図るといったバイパス整備の本来の目的からみると、矛盾する面もある。
ただし、大型の観光施設等は造りにくいが、団体客も利用できる大型飲食施設などは不足しているとの声も聞かれ、需要があり採算が比較的取りやすい業態であれば、民間業者の誘致などを通じて建設が見込めるのではないかと思われる。
(2)既存施設・店舗の魅力向上、意欲ある新規開業者の誘致
集客施設の新たな建設の可能性が見込めない状況では、自助による既存施設・店舗の魅力向上が必要であろう。今回の現地調査でも、全国的に知名度が高く県外から集客している精肉専門店や地域外から集客する菓子店などは、旧道沿いで存在感を発揮しているとの声が聞かれた。
魅力的な商品やサービスを提供している店、魅力的な雰囲気を楽しめたり、フェイス・トゥ・フェイスの魅力的な応対を行ったりしている店は、立地条件に関わりなく広範囲から客を集めることができる。反面、集客力のある観光地であっても、店に魅力がなければ、たとえ一見の客は利用したとしても、リピーターにはならないであろう。
また、世代交代による若手経営者への代替わりや、空き店舗での開業に意欲を示す経営者の取り組み、地域に店舗を存続させつつ新たな販売チャネルを開拓するといった試みを、経営者の努力に任せるだけでなく地域として支援していくことも必要であろう。
(3)商店街としての魅力向上
魅力ある店が増え、来訪者の増加に伴い不足する業態が新たに開業し、“行ってみたい”と思わせるような街を形成していけば、賑わいを復活できる可能性はあろう。空き家対策を兼ねて店舗を若者、移住者に低家賃で貸し出す仕組みは全国的に普及しているが、街中の店舗は住居一体型の建物も多く、空き店舗の活用が進んでいないケースも多い。行政などでも支援を実施し、意欲ある若者、移住者を仲間として迎え、一体感や居心地の良さを感じる商店街に生まれ変われば、再生する可能性はあるのではないか。
商業施設ではないが、身延町西嶋地区の住民有志が始めたクリスマスシーズンのイルミネーションが、近年近隣だけでなく町外からの見物客で賑わっているとのことである。旧道地区での活性化の取り組みであるが、魅力的な取り組みであれば、立地は悪くても集客が見込める例と言えよう。ちなみに、身延町では同地区にある「西嶋和紙の里」を中部横断自動車道及び国道52号の道路利用者のための“道の駅”とし、また、地域活性化・交流促進・防災などの地域拠点として位置づけ、必要な整備を推進していく予定となっている。
また、現地調査を実施した大月市では、「おおつき創生都市計画マスタープラン 」において、旧道沿いの大月商店街を含めた大月駅南口周辺の活性化について整備を進めている。 大月駅南側の既存の商業施設は国道 20 号や細い街路沿いに立地し、車社会に対応できる駐車スペースを十分に持ち得ていない状況にあり、大月バイパスが全線供用開始すると旧道の交通量は減少すると予想されるため、道路空間の再構成を含め商店街の再生を図る必要があると認識しており、商店街再生のイメージとして、商・住の共存(商業と賃貸住宅・貸事務所が共存する商店街構造)、サードプレイス(中間領域)を活かした道づくり、統一性を持たせた木造建築による街並みなどが示されている(以下、計画からの抜粋)。
《中心市街地のまちづくり (大月駅南口)》 オープンモール型商業空間、既存拠点店舗の再整備、文化教育のための拠点などを想定 《まちづくりの⽅針(⼤⽉駅周辺地区)》 【⼟地利⽤の⽅針】
【交通施設の整備⽅針】
【都市施設の整備⽅針】
|
5.旧道交通量の減少を活かした賑わいの創出(新たなコンセプトによる地域づくり)
旧道地域に生じるデメリットを低減させる2つめの視点は、バイパスに通過車両がシフトし”落ち着いた環境”を取り戻したことをメリットとして捉えた地域活性化策である。
現代社会では、幹線道路を利用する主体は自動車である。交通量が多く道幅に制限がある道路では、自動車を避ける形で歩行者や自転車が道路の縁を利用しているのが実情だろう。
こうしたなかで、バイパスに通過車両がシフトし“落ち着きを取り戻した”旧道では、歩行者や自転車が主役の座を取り戻す取り組みが可能となる。数多くの事例が全国に存在していようが、ここではいくつか挙げてみる。
(1)自転車が快適に走れる地域づくり
自転車を主体とした地域づくりは、国土交通省が旗振り役となり、全国各地で実施されている。具体的には、環境に優しい交通手段であり、災害時の移動・輸送や国民の健康の増進、交通の混雑の緩和等に資することから、自転車の活用の推進に関する施策の充実を目指し、平成29年に施行された自転車活用推進法に基づく「第2次自転車活用推進計画」を令和3年に策定している。自転車の活用は、地域活性化の観点で見ると、交流人口の増加、地域への訪問者とのコミュニケーションの創出、地域の飲食店や商店の利用促進、地域住民が暮らしやすいまちづくりの推進などに資すると想定される。
なお、自治体単位でも自転車活用推進計画は策定されているが、山梨県内では県が「第二次山梨県自転車活用推進計画」を策定しているものの市町村単位では策定されていない。一方、隣県の長野県では14市町村で策定されており、本レポートのテーマの参考となりそうな比較的小規模な事例としては、人口約6千人の豊丘村の計画が挙げられる。
豊丘村では、道の駅「南信州とよおかマルシェ」に隣接して、村のサイクルツーリズムの拠点として豊丘村観光協会が「とよおか旅時間」を設置している。豊丘村をフィールドとして来訪者にゆったりとした贅沢な「時間」を堪能してもらう「旅」の提供を行い、それによって村民が潤う仕組みを構築していくことを目指しているとしており、サイクリング事業として、E-bikeも扱うレンタサイクル、果物狩りや非日常体験などを組み合わせたサイクリングガイドツアー、サイクリングイベントプランニングなどを実施している(以下、計画からの抜粋)。
【サイクルツーリズムによる「観光まちづくり」の概要】 村民のサイクルツーリズムを含む観光活動に対する意識を深め、参加意識と受入意識の醸成を図るとともに、村民に愛される自転車文化の創造とサイクリングを通じた余暇の充実を図る。 施策1.サイクルツーリズム推進環境の創出
|
(2)歩行者が歩いて楽しめるまちづくり、歩くことが楽しいまちづくり
次に歩行者を意識した取り組みとして、歩いて楽しいまちづくりが挙げられる。
全国の例を見ると、鳥取県・堺港駅から水木しげる記念館まで約800m続く「水木しげるロード」や漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の舞台となった亀有駅周辺商店街などでは、全国から多くの観光客を集めている。
旧道は、道幅の拡幅などが物理的に難しいケースもあるが、自動車通行量の減少に伴い車道の幅を狭め歩道を広げる例は見られ、地域住民が自動車を気にせず自由に歩き、また、語らいや交流の場となるような場を設ける取り組みは、一つの目指すべき方向ではないかと思われる。また、車両を通行禁止にしての歩行者専用イベントや健康ウォーキング大会などの開催も、賑わいの創出となろう。
なお、現地調査を実施した都留市では、「都留市都市計画マスタープラン」において、谷村町駅周辺市街地の活性化への取り組みを「重点推進施策」のひとつと位置づけ、道路空間の有効活用を目指している。
【谷村町駅周辺市街地の活性化】 まちの賑わい軸となる道路沿道(都留市駅~市役所~ミュージアム都留~谷村町駅)について、城下町の歴史的環境を活かし、「街なみ環境整備事業」等の活用により、修景整備を推進するとともに、道路上へのテラス席設置やフリーマーケット等のイベントが可能となる「道路占用許可(歩行者利便増進道路(ほこみち)制度)」の活用等による道路空間の有効活用を図り、まちの賑わいを創出します。 【街なみ環境整備事業】 |
(3)快適な住宅地としての再整備
空き店舗が目立つ商店街、年々閉店が増える商店街であれば、集客拠点としての役割ではなく快適な住宅地として再整備を図る、という選択肢もあるのではないだろうか。
バイパスが整備され、域外への時間距離の短縮に伴い移動がしやすくなれば、仕事のため地元を離れていた転出者が戻ってくる可能性が出てくる。また、街の利便性を高め、住みよい街に変わっていけば、魅力を感じて移住してくる人も出てこよう。
商業地は土地の権利関係が複雑という意見もあるが、バイパス整備による賑わいの喪失を嘆くのではなく、こうしたバイパスに近接した立地メリットから生まれる居住の需要を取りこぼすことなく、時間をかけてでも官民が一体となって住みよい街とすべく住宅地としての再整備を行うきっかけとすべきではないだろうか。
現地調査を行った大月市(大月バイパス)、都留市(都留バイパス)、富士川町(甲西バイパス)の行政関係者は、一様に「旧道の商店は地元の高齢者や様々な理由で自動車を持たない人たち(以上、買い物困難者)にとっては必要な存在である」と捉えている。とすれば、旧道地域の商店街の役割を見直し、最小限ながら生活必需品やサービスは揃う「よろずや」的な商業・サービス施設は確保したうえで、地域の住民が静かに、また豊かに暮らせる地域を目指していくことが現実的ではないだろうか。
6.おわりに
以上整理してきたように、バイパスなど幹線道路が開通することにより、旧道の交通量が減ることは、必然である。
こうした状況はバイパス建設前に十分想定されていたと思われるのであるが、行政として実効性のあるまちづくりの具体的なビジョンを示すことができないままバイパスを整備した結果、バイパス沿いに大型商業施設が集積し、旧道の商店街の集客力が落ち、寂れていったというケースが多かったのではないか。また、さらに根本的な問題として、旧道の商店やサービス施設等の多くは、社会の移り変わりに柔軟に、また的確に対応することができず、バイパスの開通如何にかかわらず、地域での存在感を失ってきたのではないか。
バイパスの建設は、市街地での渋滞緩和や時間距離の短縮を目的に行われており、旧道の賑わいの復活において経済活動に重きを置き、大型商業施設等の建設の効果を求めることは、再び渋滞を招く可能性もあり、経済合理性の視点からは無理がある。バイパス建設以前は、通過車両の取り込みも含めて様々な顧客をターゲットとして商売をすることができ、経済活動がリードする形で街の賑わいが創出できた。しかし、今後こうした状況が復活することは期待できない。とすれば、一般的には、ネット販売など域外市場の開拓を行いつつも地域住民重視の姿勢を鮮明にし、求めるものを事業の「規模」から地域住民の「豊かさ」に軸足を移していく経営が有効となろう。また、賑わいの源を経済活動ではなく、ほどほどの利便性の中で快適な住生活空間の創造、地域住民の文化や街づくりの活動に求めていく、という形になっていくのではないだろうか。