巨大野党の根拠なき疑惑
李在明代表をはじめとして韓国最大野党の「共に民主党」の指導部が総出動して「尹錫悦政権が戒厳を宣布しようとしている」と主張している。
彼らが挙げる“状況証拠”はこれだ。まず、尹大統領の高校(冲岩高)の先輩、金龍顯(キムヨンヒョン)元警護処長の国防部長官(国防相)任命が始まりだ。次に先月、乙支訓練(米韓合同軍事演習)を控えた閣議で大統領が「反国家勢力が暗躍」「国家総力戦態勢が必要」との発言も問題にされた。突然の金龍顯氏の国防長官抜擢(ばってき)が反国家勢力掃討を口実にした戒厳体制準備の手順だという話だ。
結局、李代表が1日、与野党代表会談の冒頭発言で戒厳説に言及すると、与党からは具体的な証拠を出せと迫った。野党は冲岩高OBの秘密会合を追加で提起した。同高出身の李祥敏(イサンミン)行政安全部長官、国軍の防諜(ぼうちょう)司令官などが参加した会合で、戒厳問題が議論されたのではないかという主張だ。
疑惑提起を主導する金民錫(キムミンソク)最高委員は「軍紀を乱す冲岩派を一掃し、戒厳の陰謀をつぶす」と言うが、今どき軍の要職から令官(佐官)・尉官クラスの将校まで掌握していた私組織「ハナ会」でもなく、冲岩高出身の4人が国家非常事態を企画・推進することが可能なのか。
金龍顯長官は人事公聴会で「今の大韓民国の状況で戒厳をするといえば、果たして軍が従うか。私は絶対に従わないと思う」と述べた。他の軍高官は記者との通話で「いくら政治的のレトリックだといっても、大韓民国の軍隊を戯画化する発言だ」と一蹴した。
大統領室と政府の公式否認にもかかわらず、民主党が次々に戒厳説を言いふらす核心的な根拠は、「尹錫悦政権はどんな事でもやりかねない集団だ」との確信だ。金民錫氏は「だから、予(あらかじ)め警告して備え、つぶすことが革新的なわれわれの課題だ」と左派系ユーチューブに出演して語った。民主党の目標は政権核心人物逮捕に向けた特別検察官任命と弾劾であり、尹大統領の戒厳令カードを先制して無力化すべきだという意味だ。
民主主義が定着し、世界10位圏の経済大国、Kカルチャー保有国の巨大第1野党の目標と核心課題がそれなら、ゾッとする話だ。
昨年1000万人を動員した映画「ソウルの春」を見た若い世代は「文明国家でどうしてあのようなこと(1979年の粛軍クーデター)が可能か」と鼻でせせら笑った。自分たちの政治目的のために戒厳令云々(うんぬん)して国民を不安にするのが、次期政権担当政党を自任する第1野党の素顔だ。
秋夕(旧盆)が迫るのに、町のあちこちに「賃貸募集」を張った空家だらけの商店街が目に付き、会う人ごとに「景気が良くない」「月給以外は皆上がった」とため息をつく。医療大乱も収拾できず「絶対病気になってはならない」が挨拶(あいさつ)言葉になった。こういうことだけでも、国民は十分に不安なのだ。
(黄政美(ファンジョンミ)編集人、9月9日付)