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第15回:四国で見つけたエンスーたち

2010.10.18 ニッポン自動車生態系 大川 悠
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第15回:四国で見つけたエンスーたち

陰の部分だけではなく、四国にはモータリゼーションの光の部分がたくさんあった。今回は、歩きながら探した四国のエンスー風景を紹介しよう。

これは珍しい、「フォルクスワーゲン1600TLのバリアント」。足摺岬近くで。
これは珍しい、「フォルクスワーゲン1600TLのバリアント」。足摺岬近くで。 拡大
「フォルクスワーゲン・カルマンギア」。多分本物だと思うけれど、確かめたわけではない。36番青龍寺近くの高知県須崎市で。
「フォルクスワーゲン・カルマンギア」。多分本物だと思うけれど、確かめたわけではない。36番青龍寺近くの高知県須崎市で。 拡大
徳島市郊外の修理工場をのぞいたら、V12の「ジャガーEタイプクーペ」を整備していた。意外と地方では、こんな修理工場が多い。
徳島市郊外の修理工場をのぞいたら、V12の「ジャガーEタイプクーペ」を整備していた。意外と地方では、こんな修理工場が多い。 拡大

エンスーよ、地方をめざせ

「クルマ道楽を極めたいなら、地方に住むべきだ」「エンスーよ、地方をめざせ」。などと、だいぶ以前、自動車専門誌『NAVI』で提唱していたものである。

土地が高いがゆえに、昔から愛好しているクルマを大事にとっておきたくてもお金がかかる首都圏や都会よりも、地方の方がずっと古いクルマをとっておきやすい。地価は安いし、使っていない空き倉庫や納屋なんか、結構簡単に探すことができる。

ちょっと年式の古いクルマを首都圏の渋滞の中で走らせても、面白いことは何もない。エアコンなどないから夏は暑いし、エンジンはオーバーヒートする。ともかく都会に住んでいると、純粋に趣味としてクルマを愛するのは、かなりの忍耐と努力、そして費用を代償として払わなくてはならない。

それに比べるなら、地方はずっといい。特に大きな都市圏から離れた山間部や農村地帯なんか、ちょっとエンスー風なクルマに似合っている。交通量はどこもそんなに多くないし、あまりバリバリ飛ばすクルマもなく、みんなのんびり走っている。あまり機械をいじめないで、のんびり心地よく走れる道はたくさんある。

自然に恵まれ、きれいな空気に包まれた中で、長い年月愛しているクルマを気持ちよく流すには、やはり地方はいいのだ。

愛媛県西条市で見た奇妙なクルマ。どうやら軽乗用車「オートザムAZ-1」のカスタマイズモデルのようだ。
第15回:四国に残るエンスーたち
これも伊予西条で見つけた三輪車。フランスものではなくて、たしか以前、日本のどこかが作っていたと思うけれど思い出せなかった。
これも伊予西条で見つけた三輪車。フランスものではなくて、たしか以前、日本のどこかが作っていたと思うけれど思い出せなかった。 拡大
大事にされている古い軽自動車も多い。これは60番横峰寺に上る途中にある、歩き遍路では比較的有名なコーヒーショップ「てんとうむし」の店内。つまりこれがお店の名前のもと。
大事にされている古い軽自動車も多い。これは60番横峰寺に上る途中にある、歩き遍路では比較的有名なコーヒーショップ「てんとうむし」の店内。つまりこれがお店の名前のもと。 拡大
坂出市の国道ぎわに置かれていた「MGB」。これは2009年の写真だが、翌年もまったくこのまま同じところに置かれていた。
坂出市の国道ぎわに置かれていた「MGB」。これは2009年の写真だが、翌年もまったくこのまま同じところに置かれていた。 拡大

クルマ好き同士のつながりが深くなる

地理的条件以外にも地方エンスーの利点はある。地方都市や村などにある古くからの工場など、すごく面倒見がいいところが多い。都会の自動車工場のように専門化されていないから、これまで軽自動車から大型トラック、農耕機まで何でも引き受けてきたところが多い。そういうところは、古いクルマが入ってきても、なんとか努力して対応してくれるベテランの職人さんがいたりするのである。

たしかに昔はパーツ難や情報が足りないなどというハンディがあったが、これこそインターネットのおかげで、世界中から修理情報、パーツ在庫情報が手に入るし、それをネットで簡単に購入できるようになった。だから、どこに住んでいようが不自由はしない。

それとクルマ好き人間同士の結びつきが、都会よりもずっと深く、あたたかいものになるように私は思う。東京あたりで観察していると、往々にして古いクルマや珍しいクルマのオーナー同士の間では、妙な派閥意識が生まれやすいものだ。また競争意識が高まりやすいのも知っている。

古いベントレーやブガッティの世界はともかく置いておいて、ちょっと古い国産車や、数が少なくなりつつある輸入車を大切にしていると、地方では近くの同じようなクルマを持っている人とどんどん親しくなるように思える。というか、同じ苦労を共にしようという意識が、都会よりも生まれやすいように思える。

だから昔、「エンスーは地方をめざせ」と雑誌で訴えたのだ。

軽自動車の話拡大で、「ジムニー」ベースの改造車を紹介したが、これがその旧型版。まさに田んぼに対応したようなタイヤ。
軽自動車の話で、「ジムニー」ベースの改造車を紹介したが、これがその旧型版。まさに田んぼに対応したようなタイヤ。
松山市の先で見つけたミニ専門店。

松山市の先で見つけたミニ専門店。 拡大

クルマと人との楽しい関係

四国を歩いているときも、結構、楽しそうな自動車生活を見ていた。ここまでの連載で取り上げたように、必ずしも日本のモータリゼーションをめぐる暗い問題ばかり考えていたわけではない。クルマと人との、気持ちがいい結びつきも、心から楽しんで観察しつつ歩いていた。

そういえば村上春樹の『海辺のカフカ』にも、古い「マツダ・ロードスター」で、松山から高知県境の深い森を何度か走るシーンがあったが、四国のあちこちで少し前のクルマがたくさん見られた。現役で使われていたクルマもあったし、長年同じ場所に放棄されたままのクルマもあった。

クルマを人生の友として愛してきた生活の良き面が、まだここのあちこちで散見された。それはそれで歩き遍路から見ても、とても心地よい風景だった。

(文と写真=大川悠)

寿命が終わってもそのまま空き地で余生を過ごすクルマは多い。それだけ土地があるということでもある。これはハイソカーブームの夢の跡。
寿命が終わってもそのまま空き地で余生を過ごすクルマは多い。それだけ土地があるということでもある。これはハイソカーブームの夢の跡。 拡大
高知県から愛媛県に入ってすぐの愛南町には、やたらと古い国産車が置いてあった。これは「いすゞ117クーペ」と60年代後期の「プリンス・グロリア」。これは2009年の写真だが、翌年はグロリアにシートがかぶされていた。
高知県から愛媛県に入ってすぐの愛南町には、やたらと古い国産車が置いてあった。これは「いすゞ117クーペ」と60年代後期の「プリンス・グロリア」。これは2009年の写真だが、翌年はグロリアにシートがかぶされていた。 拡大
この「117」も愛南町に2年続けて置いてあった。
この「117」も愛南町に2年続けて置いてあった。 拡大
やはり愛南町で。最初期型の「トヨタMR2」と、二代目「トヨタ・ソアラ」。
やはり愛南町で。最初期型の「トヨタMR2」と、二代目「トヨタ・ソアラ」。     拡大
大川 悠

大川 悠

1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。

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