西田宗千佳のイマトミライ

第211回

Google対マイクロソフト 「Bing」と「SGE」に見る検索の生成AI導入

SGE

Googleは8月30日から、検索に生成AIを活用した「Search Generative Experience(SGE)」の試験運用を、日本でも開始した。

あくまで試験運用であり、色々と課題もある。だが、「検索への生成AI導入」という面ではマイクロソフトに先行されており、導入は必須ではあった。

今回は両者の導入経緯や機能、使い勝手を比較しながら、「検索とAIの未来」を考えてみたい。

検索への生成AI導入はマイクロソフトが先行

GoogleがSGEを発表したのは、今年5月に開催された開発者向けイベント「Google I/O 2023」でのことだった。

上記の筆者記事でも示されているように、アメリカ市場・英語での提供が先行していた。それも、「Search Labs」と呼ばれる試験的な機能を提供する設定項目の中で、自発的に「オン」にしたときだけ使える、という位置付けになっている。

日本の場合も同様で、Search Labsにアクセスして、オンにしてから利用する。よく見ると、Search Labsでの提供終了日は「2024年2月まで」とされているが、これが「テストからメイン機能への昇格日」を示すものかはわからない。とりあえずこの期間になっているだけの可能性もある。

SGEを使うには「Search Labs」でオンにする必要がある。

日本版とアメリカ市場向けの英語版は、現状かなり作りが違っている。英語版ではGoogleマップやショッピングとの連携があるが、日本版はシンプルに「検索結果への生成AI適応」となっている。

日本語でのSGEの表示。検索結果の最上位に表示される。

Search LabsをオンにするにはGoogleアカウントが必須。PCではウェブブラウザとしてChromeを使う必要があり、他のブラウザで検索した場合、SGEは適用されない。スマホからは「Googleアプリ」を経由して利用する。

一方、マイクロソフトの「Bingチャット検索」は、今年の2月に発表され、日本でもすぐに使えるようになった。名称は結構ばらついており、「Bing AI」とも呼ばれたりするが、あくまで「Bing検索」の「チャット機能」なので、Bingチャット検索と呼ぶのが適切だろう。

Bingチャット検索。チャットであることが全面に出ている。

こちらもテストを兼ねながらの公開であり、機能の中にはプレビューのものもある。

初期には招待制だったが、今は特に待つことなく使えるようだ。

本格的な利用には、Microsoftアカウントでのログインが必要。PCの場合、Microsoft Edgeからのみアクセスが可能だったが、現在はChromeからも利用できる。その他、ブラウザの機能拡張を使ってアクセスする方法もあるが、マイクロソフトは「ブラウザの制限を解除する」方向にある、と見てよさそうだ。

ChatGPTやBardと「生成AIのネット検索」は違うもの

さて、SGEとBingチャット検索はどう違うのだろうか?

実はこの2つ、構造は非常に似ている。

まず本質的に、どちらも「生成AIで検索している」のではない。検索はどちらも、それぞれが持つ、これまでも使ってきた検索エンジンを利用している。

検索エンジンには、以前より色々な形でAIが使われている。ただ、生成AIの導入はまた別の話だ。

これは、「ChatGPT」やGoogleの「Bard」と比較するとわかりやすい。

ChatGPTやBardと、検索への生成AIの導入との違い。どこで主に生成AIが使われるのかが異なる

よく言われることだが、ChatGPTやBardのような、生成AIを使ったチャットサービスは、質問にも答えてくれるが「検索エンジン」ではない。

Bardの利用画面。答えを返してくれるが、検索エンジンと同じものではない。

学習済みの内容から回答に相応しいデータを作り出すので、学習内容に含まれないものは正確でない回答、ハルシネーション(事実誤認のままユーザーに誤った情報を提供してしまう問題:幻覚)が起きやすくなる。ChatGPTとBardでは性質が異なるので、正確さなどについてはまた別だし、Bardの方が新しい話への回答は正しくなる傾向にあるが、どちらにしろ、あくまで「質問や命令から文章などのデータを作る」のがチャットサービスであり、検索エンジンのように「質問に関連する情報を出す」ものではない。

一方でBingチャット検索やSGEは、あくまで「検索」として作られている。入力された文章は検索エンジンに流す前提で分析され、検索エンジン経由で結果がリストとして出てくる。それをさらに生成AIが処理し、「まとめて読める回答」としてアウトプットする。

生成AIによってまとめ直すのでハルシネーションの影響はゼロにならないが、回答の内容は最新のネット検索結果をベースにするため、生成AIの学習内容に依存することなく回答を出せる。また、文章の生成にどのサイトを使ったか、という情報も取得できるので、内容の根拠となった情報がどこのものかを提示することも容易だ。

SGEはどんなソフトウエア構成なのか、正確にはアナウンスされていない。しかしBingチャット検索は、GPT-4に加え、マイクロソフトが独自開発した「Prometheus」を使い、検索と生成AIの仲立ちをしているという。

Bingチャット検索では「Prometheus」がOpenAIの技術と組み合わせて使われている

なお、生成AIでの検索では「文章で検索できる」ところが重要だ。ここにも両社は生成AIを使っているようだが、そもそも現在の検索エンジンでも、日本語による「文章検索」は可能だ。

その上で、Bingの方が「チャットサービス的」であり、長文入力を想定している部分はある。

SGEとBingチャット検索はどう違うのか

ただ、SGEの見せ方とBingチャット検索の見せ方はかなり違う。

Bingのトップページで検索結果を出した場合、現在は左側に一般的な検索を出し、右にチャット検索の結果が出る。そして上の「チャット」ボタンをクリックすると、チャットを軸にした画面になる。それが前掲の操作画面だ。

Bingのトップページからは「チャット」で入力できることが強調されている。
検索結果を表示すると、右側に「チャットでの結果」が出てくる。ただしこの部分は、表示に相応の処理時間がかかる

このチャット画面だけを見ると、ChatGPTやBardにより近いサービスに感じるのだが、実際には前述のように、結構異なる。

ただ、Bingチャット検索には「会話のスタイルを選択」という機能があり、生成される文章を「創造的に」「バランスよく」「厳密に」の3つから選んで作るようになっている。

Bingチャット検索では、「創造的に」「バランスよく」「厳密に」から返答を選べる
「バランスよく」を選んだ場合と、「創造的に」を選んだ場合の回答量の違い。同じ質問で全く違う回答が出る

これは、検索エンジンでありながらChatGPTなどに似た方向性を目指したもの、と言える。

さらにEdgeを軸にクリエイティブ系の機能を「意図的に混ぜる」ことで、生成AIに対する全面展開を強調する意図もあるのだろう。

それに対してSGEは、検索結果の最上位に、生成AIの結果が出る。

SGEでの回答例。最上部に生成AIによる「まとめ」が出るが、右には内容の元になったサイトのリンクが表示される

この際、生成AIの結果を作るボタンが出てから生成される時もあれば、自動的に出てくる時もある。ボタンが出ないこともある。

違いは、生成AIで作った内容の信頼性が高いと考えられるかどうかに関連しているようだ。ただ、自動的に出てくるものにハルシネーションがないか、というとそういうわけではない。

どちらのサービスもそうだが、現在は検索結果の上方に、最もよく見られていて妥当と思われる結果が出るようになっている。これは生成AIの関わっていない情報だが、「AI」はもちろん使っている。

Googleの場合「強調スニペット」と呼ばれるもので、検索後の利便性を高めるために用意された機能だが、SGEでの生成結果はその上に出る。おそらく、将来的には強調スニペットをSGEで置き換えるつもりなのではないか、と考えられる。

従来から検索最上位には「強調スニペット」が出るが、SGEでは生成AIの後ろに出る

「革新」と「ビジネス秩序」と「正確さ」のバランスが課題

生成AIを検索に用いることの課題は主に2つある。

1つは、ハルシネーションに代表される正確性。そしてもう1つは「ウェブのエコシステム」への影響だ。

生成AIで検索結果をまとめて読めるようになると、それ以降のページへのアクセス数が下がる。それは広告とコンテンツに大きな影響を与えるし、Google自体の広告ビジネスにも影響が出る。

そこでどうバランスを取るのか?

Googleは強調スニペットの置き換えやショッピングとの連動などで、ウェブのエコシステムに大きな影響を与えないように生成AIを導入しているのだろう。

一方でマイクロソフトは「攻める」立場でもあるので、より大胆な形での統合を進めている。ハルシネーションの影響について、マイクロソフトは明らかにGoogleほど保守的ではない。

ただ、サービス開始から時間が経つにつれ、デフォルト設定である「バランスよく」から得られる回答は、かなりシンプルで保守的なものに変わってきている。そうやって走りながらバランスを取っていく、というのがマイクロソフトの戦略と考えられる。

Googleは生成AIの導入を急いでいる。できるだけ多くの利用データを集め、どのようなバランスで生成AIを検索に導入するのか、勘所を見つけようとしているのだろう。マイクロソフトと同じやり方ではあるが、より多くのユーザーを抱えるGoogleは、より素早く利用データを集められる。だから、保守的な解答からスタートしても、よいバランスに届く時間を短縮できる……と考えているのかもしれない。

そしてまた、Googleはコアな大規模言語モデルについても、PaLMからPaLM 2、さらに「Project Gemini」へと継続的に切り替えていく想定になっている。

現状、PaLM 2はGPT-4にくらべ賢くない、と言われるが、この先はどうなるかわからない。

Bingチャット検索が登場以降、そちらを検索に使う人も増えている。筆者も用途によっては使い分けている。現状、SGEとBingチャット検索では後者の方が回答は充実している、と筆者は感じているが、調べ方などにも左右されるので、正確なところは評価し難い。また、回答が出てくるまでの速度はSGEの方がかなり速く、使い勝手も悪くない。

どちらにしろ、Googleの方も「武器」が揃ったことになるので、ここからの競争はさらに激しくなる。年末まででも、両者はまだまだ発表を残しているのではないか……。筆者はそう予測している。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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