【決戦は明日】“兼業プロ”から格ゲー一本へ転向、世界大会優勝へ プロ格闘ゲーマー・翔を支える「経験の活かし方」
発売2年目となった今も格ゲーシーンをけん引する格闘ゲーム「ストリートファイター6」。今シーズンは20代プレイヤーの台頭が目覚ましいが、eスポーツチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」に所属する翔さんはそうした世代の筆頭格だ。ゲーム一本ではない“兼業プロ”のスタイルから2023年に専業プロゲーマーに転向すると、サウジアラビア・リヤドで行われた世界大会「Gamers8 2023」のスト6部門で見事優勝し、カプコン主催の公式プロチームリーグ「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」にも初参戦。最終戦となる10節を2024年11月19日に控え、チームはプレイオフ進出を賭けた“勝負の一戦”に臨む。そんな翔さんに、専業プロ転向のきっかけや、専業一年目に直面した体調管理の課題、ストレス解消法まで現在地をインタビューした。
Division S 順位(第9節終了時点・残り1節)
1位(225ポイント):Good 8 Squad
2位(225ポイント):Saishunkan Sol 熊本
3位(215ポイント):FUKUSHIMA IBUSHIGIN
◆「プレイオフ」進出ボーダーライン◆
4位(200ポイント):忍ism Gaming
5位(135ポイント):名古屋NTPOJA
6位(115ポイント): DetonatioN FocusMe
専業プロになったきっかけは“スト6でのスタートダッシュ”
――翔さんは2023年に兼業プロから専業プロゲーマーに転向されました。あらためて経緯を教えてください。
【翔】もともと学生時代から格闘ゲームにのめり込んでいて、これで生活していくのは夢だなと思っていました。ただ、専業プロはやっぱりゲームするだけじゃなくて、たとえば発信していく活動だったりが必要で、個人的にそこがすごく苦手で難しいかなと思っていたんです。
けれど、心のどこかで「もっとゲームに専念できたら」と思っていたところにスト6がリリースされることになって。ナンバリングが変わるタイミングはトッププレイヤーも手探りから始まるので、このタイミングを逃したら自分の年齢を考えたとき、次のチャンスはないなと思ったんです。ストV時代も、どうしても専業プロ、トッププレーヤーとの差がなかなか埋まらないなってずっと感じていて、そこを埋めるにはスタートダッシュがすごい大事だなって思ったので。ここで挑戦しなかったらずっと後悔するなと思って挑戦しました。
――翔さんをはじめ、今期のスト6では20代のプレイヤーが結果を出しているように感じます。こうした現状にはどんな思いがありますか?
【翔】すごくいいことだと思っています。格闘ゲーム業界って初期からのプレイヤーが今もずっと活躍している状態がずっと続いているんですが、どこかで年齢的な理由で引退という話が出始めてもおかしくない年齢層にもなってきていて。レジェンドたちが引退したときに、この業界がどうなるかはまったく未知数ですね。
一方で、9月に25歳以下限定の「若人杯」って大会があって、若手トッププレイヤーの中でアマチュアのあでりいさんという方が優勝するって面白いことも起きているんです。海外を含めて若手の成長で格ゲー業界が今盛り上がってきているのは間違いないですし、僕自身強い人と対戦したい思いがあるので、今後も含めてこの状況は楽しみです。
――いま注目している若手プレイヤーは?
【翔】IBUSHIGINに所属していたひかるくん(現:エヴァ:e)は、勝負強くて、負けそうになっても最後までやるべきことをちゃんとやっているみたいなところがすごいですね。それと攻略がすごく深くて、1を聞いたら10返ってくるみたいなプレイヤーです。深く細かく調べた上で理解していて、しっかりとした自分の考えを持っているなと思います。教え方もわかりやすくて、言語化能力も高いなと。
――言語化という話が出ましたが、翔さんはそこが苦手分野だったそうですね。
【翔】そこは社会人を経由したのがすごく大きいなって思いますね。それこそコミュニケーションってすごく大事ですし、やっぱり苦手なことでもやらなきゃいけなかったり。電話対応もしていたんですけど、そこでまったく知らない人と喋る機会も増えたので、それはいい経験になったかなと思います。
――経験という意味では、翔さんがSFLのプロフィールで座右の銘に選んだ「人間万事塞翁が馬」にも繋がるように感じます。
【翔】実は座右の銘は最近までなかったんです。言葉として認識してなかったというのが正しいんですけど。SFLの質問の中に座右の銘の項目があって、僕は寿司が好きなので寿司に関係した言葉はないかって調べたんです。するとスシローの現在の社長の座右の銘が「人間万事塞翁が馬」だったんです。意味を調べてみたら、自分の「人生や考え方」と一致したんです。
――どんな経緯でそうした考え方になったのでしょうか?
【翔】学生時代、学校に行ってなかった経験があったり、社会人で辛いことも多かったり、でも結果的にその経験が生きるみたいなことはあって。ゲームに関しても、大会に負けたらその経験は今後も生きていくものだし、そこで終わりなわけじゃない。勝ったとしても次の大会はあって。「結果は結果だけじゃない」という考え方はもともとずっと思っているところですね。
遠征での失敗も…プロゲーマーの体調・メンタル管理法
――IBUSHIGINでの活動についても聞かせてください。福島を拠点に活動されていますが、地元を盛り上げるためにご自身はどう貢献できると考えていますか?
【翔】うーん、どうしたら貢献できるかというのは正直難しいところですね。一つ、こういうゲーミングスペースには地元の子どもたちが遊びにきてくれたり、保護者だったりも一緒だったりで、そこからゲームを知ってくれたり、IBUSHIGINを応援してくれたりもあるかなと思っています。
ただ、結果を出すのはすごい大事だなと思いますね。やっぱり「世界一を取った人がここにいる」って地域の皆さんにも話題に上げてもらえているので、さらに結果を出していけば活気がまたどんどん出てくるのかなとは思います。
――タイトルがスト6になってからもさまざまな大会で活躍されていますよね。今後結果を出したい大会はありますか?
【翔】やっぱりカプコンカップです。ずっと見てきましたし歴史もある大会なので。まずは出たいですし、結果を出したいなと思います。
――今まで出場したなかで「いい意味・悪い意味」それぞれで印象に残っている大会は?
【翔】いい意味で印象に残っているのは、スト6なら南アフリカで開催された「Red Bull Kumite 2023」です。スト6がリリースされてすぐ(※発売日は2023年6月2日、Red Bull Kumite 2023は7月1日・2日)だった中で短い期間で頑張って、日本予選から南アフリカの現地予選、そして本戦に出場とちゃんと結果(3位タイ)を出せて。そこから「EVO 2023」(5位)、「サウジアラビア eスポーツ ワールドカップ」(9位)と結果が出せているので、(起点となったRed Bull Kumite 2023は)思い出深いですね。
悪い意味では、「Ultimate Fighting Arena 2023」(フランスの大規模ゲーム大会)です。招待してもらってフランスに行ったんですけど、それがドミニカの大会の直後で。ドミニカから一度日本に帰ってきて2、3日で今度はフランスという結構ハードなスケジュールで、案の定体調を崩して……(笑)。大会の2日目以降はずっとホテルで休んでいて、そこからは体調管理には気をつけるようになりました。
――ちなみに、その経験から学んだ海外での体調管理の方法はありますか?
【翔】極端を言えば「海外に行かない」ですね(笑)。専業プロ初年度だったのでスケジュール的に行ける大会は行こうと思ってたんですけど、やっぱりしんどかったので。そういう無理はよくないなって思いましたし、逆に言うと体調を崩していなかったら今が怖かったですね。
――リフレッシュやストレス解消法はありますか?
【翔】カードゲームが好きで、最近はポケモンカードゲームをやっています。新しいカードが出るたびにパックを買って、レアなカードが出るかどうかみたいなところも結構面白かったり。今はルームシェアをしているので、部屋のみんなでやったりもして、そういうのが息抜きになっていますね。
それこそIBUSHIGINはもともとFPSのチームなので、一時期はVALORANTやAPEXも結構やってました。人数がチーム内で揃うので、ちょっと前は初心者も交えてVALORANTで5vs5やったり、そういう交流もあります。
――個人の大会だけでなく、チーム・個人ともに初参戦のSFLも進行中です。今後の意気込みを教えてください。
【翔】SFLは、今がどうこうではなく次の試合に集中する、その積み重ねでいい結果が出ればなと。チームは一時期2位だったんですが今は3位で最終節の結果次第でプレイオフ進出が決まります(2024年11月18日現在)。でもそれも「人間万事塞翁が馬」だと思っているので、気を抜かずに頑張りたいと思います。
【最終節】Division S・第10節
2024年11月19日(火)18時40分よりYouTubeにて放送
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