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ピル服用中でもコロナワクチンを接種して大丈夫? 専門家らが女性たちの疑問に答える。

アストラゼネカ社の新型コロナワクチン接種後に血栓症を発症した大半が女性であることを受け、世界各地で混乱が続いている。こうした中、イギリスでは女性たちを取り巻く医学研究のジェンダーギャップに注目が集まりつつある。医師や科学者などに、ワクチン騒動の疑問をぶつけた。
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「たくさん女性たちに処方されている医薬品が原因で、私は血栓症を発症した経験があります。報道されている内容の本当の意味を正しく理解しましょう」

そうツイートしたのは、イギリス労働党議員のジェス・フィリップス。彼女のいう医薬品とは、生理痛を緩和したり避妊効果のある低用量ピルのことだが、これは新型コロナウイルスのワクチン騒動にも深く関係している。

今年3月中旬、ドイツ、イタリア、フランス、スペインを含むヨーロッパの主要国で、接種後に血栓ができるなどの副反応が疑われる事例が報告されたことを受けて、オックスフォード大学とアストラゼネカ社が開発したワクチンの使用が中止または制限された。現在、イギリス政府はワクチンによる血栓症のリスクを考慮して、30歳未満の人々にアストラゼネカ社製以外(ファイザー社やモデルナ社など)のワクチンを提供してる。

この動きを見て、女性たちが日々対峙している潜在的なリスクに、今までなぜ世間の関心が向けられなかったのかと多くの女性たちが疑問を抱いている。子宮内避妊リング(IUD)や避妊パッチ、低用量ピルなどには、プロゲステロンとエストロゲンのホルモンが含まれており、血栓症があらわれることがある。しかし、イギリス『ガーディアン』紙が入手した統計によると、2017年から’18年の1年間で、イギリスで医師や薬剤師の処方により避妊している女性のうち、10人に9人がピルを服用している。また、2019年の国連の統計により、世界で推定8億4200万人の女性(15歳から49歳)がホルモン系避妊薬を使用していることが判明した。

あらゆるリスクの透明性を保つこと。

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こうした中で注目を浴びているのが、『The State Of Medicine』の著者である薬理学者、マーガレット・マッカートニーが徹底して行った研究内容だ。マッカートニーの研究によると、ピルを服用する女性の血栓の発生率は、年間1万人のうち約5人、つまり推定で0.05%のリスクであることがわかった。現状の数値では、新型コロナウイルスワクチンに比べて血栓ができるリスクがはるかに高いことを示している。しかし、たとえワクチンの副作用の発現率が低かったとしても、そのリスクを正直に伝え、透明性を保つことが重要だとマッカートニーは指摘する。

「実施された4〜5万人規模の臨床試験は、ワクチンの効果を証明するために必要不可欠なものです。しかし、何百万人もの人々が必要とする薬の安全性を明らかにするのに十分な規模の臨床試験ではありません」

イギリスの医学誌『British Medical Journal』によると、今月8日の時点でイギリス国内でアストラゼネカ社製ワクチンを接種した後に血栓が生じた人数は、2000万人中79人という報告があり、うち19人が死亡している。マクマスター大学准教授で血栓症専門医師のロリ・アン・リンキンズは、こう語る。

「4月7日にイギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が発表した数字によると、アストラゼネカ社のワクチンを接種した100万人中、平均して4人が血栓症を発症しています。この数字から考えると、ピル服用中に血栓ができるリスクは、ワクチンによるリスクの約100倍となります。しかし、世界中の何百万人もの女性がこのリスクに納得した上でピルを服用しているのは、望まない妊娠を防いだり、重い生理痛を抑えたりするメリットが、このごく稀な血栓リスクを大きく上回っているからです」

リンキンズもマッカートニーも、こうしたすべてのリスクをより多くの人に伝えることが重要だと強調する。特に、イギリス政府のアストラゼネカ社製以外のワクチンを提供するという行動は、国民にワクチン接種を促す上で効果的であるとマッカートニーは評価する。

「血栓の発生率が高まる恐れがあることが知られているワクチンや医薬品以外にも、血栓は自然に起こる可能性もあります。ピルの種類にもよりますが、内服している1万人の女性のうち、年間で約5~17人が血栓症を発症しています。妊娠中の場合はさらに高く、妊娠から産後6週間の女性1万人に対して、10~20人が血栓症を発症しているんです」

医療研究の性差に焦点を。

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一方、今回の議論において、新型コロナウイルスワクチンとピルを比較すること自体、あまり意味を持たないという声もある。マッカートニーは、ある面でこの意見に同意を示している。

「ワクチン接種による血栓のリスクは1回限りであるのに対し、ピルの服用や妊娠は当然長期的なものです。懸念される脳静脈洞血栓症といった症状についても、ワクチンが引き起こす可能性のある血栓の種類とは違いがあります。しかし、日常的にどのようなリスクがあるのか、より多くの人に情報を届けることが重要と考えます」

また、リンキンズも同様にピルとワクチンの血栓リスクを比較するには限界があると指摘した上で、こう加える。

「公平を期すため、新型コロナウイルスによる合併症も忘れてはいけません。集中治療室に入院した患者の20人に1人が血栓症を発症するリスクがあるほか、若年者であっても神経系や心血管系に問題が生じたり、死亡する可能性もあるのです」

こうした議論を通じて、多くの女性たちは医学研究におけるジェンダーギャップに焦点があてられることを望んでいる。長い間、男性被験者による臨床試験がベースとなってきたため、女性特有のリスクが見過ごされてきた。今こそ、女性たちが日々対峙しているヘルスケアの問題について社会全体が理解を深めるべきだ。

ピル×ワクチンの血栓リスクは?

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新型コロナウイルスワクチンを接種する30代女性がピルを服用している場合、そのリスクがきちんと考慮されているかどうかも、多くの女性たちが疑問視している点だ。『Invisible Women:Exposing Data Bias In A World Designed For Men』の著者であるキャロライン・クリアード・ペレスはこうツイートした。

「ピルなどの避妊薬を服用している30代の女性が、ワクチンを接種する場合のリスクは? これに関する安全性のデータはあるのでしょうか?」

こうした疑問を投げかけているのは、彼女だけではない。フェミニストで『Five Rules for Rebellion:Let’s Change the World Ourselves』の著者であるソフィー・ウォーカーもこうツイートしている。

「新型コロナのワクチンによって多くの女性たちが苦しんでいる現状を見る限り、いかに政策立案者たちが女性を見過ごしてきたかが、はっきりとわかる。第一に、低用量ピルが初めて女性に提供されてから60年後に、ようやく血栓症が懸念されるようになった。この事実からも、ピルを服用している女性へのリスクが十分に検討されていないということが惨めなほどしっくりくる。ピルとワクチンの因果関係を示せる人がいれば、それをぜひ見てみたい。しかし今のところ、何も見つかっていない」

専門家らは、このことに関する情報が少ないことを認めつつも、いくつか不安を取り除く要素を提示してはいる。リンキンズはこう強調する。

「ピルを服用している女性が、アストラゼネカ社製ワクチンを接種した場合、血栓のリスクが高くなるかどうかは明らかになっていません。今のところわかっているのは、ワクチン接種後に発症する血栓は典型的な血栓ではないということ。ピルによって発症するような凝固系の血栓とは違い、ワクチンによる血栓は免疫系によって引き起こされるものです。そのため、血液凝固系の血栓の既往歴のある人でも、ワクチンを接種することを私は勧めます」

マッカートニーは、この不安に対するさらなるエビデンスが間もなく発表されるだろうと期待する。そしてリンキンズ同様に、マッカートニーも迷わずこう答えた。

「ワクチンを接種してほしい。自分自身や家族のために」

Text: Susan Devaney

From: VOGUE.CO.UK