BEAUTY/WELLNESS

アラフォーが脳の曲がり角。人生100年時代に脳を老化させないため、今日からできること​​【ヴォーグなお悩み外来】​​

誰もが抱えるものから人には聞けないものまで、あらゆる悩みにその道のエキスパートが回答。第85回は、分かりやすくてポジティブになれる解説でメディアなどでも引っ張りだこの脳科学者・西剛志先生が登場!「脳のピーク年齢は、 情報処理能力が18歳、人の名前を覚える力が22歳」とされるなか、30代や40代の人たちがどのように脳の老化に備え、パフォーマンスをあげればいいのかアドバイスいただいた。

実はアラフォーが脳の曲がり角

Portrait of a tired young woman working late at night.

年を重ねると私たちの脳は老化する。それは70代など高齢者になってから起こるのではなく、30代や40代からじわじわと始まる。「私たちの脳は30代から少しずつ萎縮が始まっており、40代くらいが脳の曲がり角といってもいいと思います」と、西剛志先生。個人差はあるものの、私たちの脳のピーク年齢は以下だと紹介する。

情報処理能力 18歳
人の名前を覚える力 22歳
顔を覚える力 32歳
視覚の認知能力 40歳
集中力 43歳
相手の気持ちを読む力 48歳
語彙力 67歳

思ったよりも脳の老化は早い!? そして、最近注目されているのが、脳の老化と聴覚の関係だと先生は指摘する。「耳が悪くなると脳の老化が早く進むということが明らかになっています。私たちは聴覚を通して、起きているときも寝ているときもたくさんの刺激を脳に与えています。これが脳の老化を防いでいるので、耳が悪くなって刺激が加わらないと、脳の認知機能が落ちやすくなるのです」オンライン会議の普及などで、「イヤホン難聴」が問題視されている昨今。脳の老化防止のためにも、耳は大切にした方がよさそうだ。

脳の老化は遅らせることができる

Photo:Getty Images

「脳の老化は、日々の習慣の改善により遅らせることができます。そして若いうちから対策すればするほど、効果が見られると思います」と、先生は頼もしいメッセージを伝える。「例えば相手の気持ちを読む力のピークは48歳だとお伝えしましたが、これは個人差が大きいことも分かっていまして、48歳から60歳くらいまで結構幅があります。つまり、人によっては60歳がピークなんです」。どのように年齢差が生まれるのだろう?「1つは経験値の違いですね。意識的に相手の気持ちを考えたり、相手のことを理解しようと常に思って習慣化している人は、老化を後ろ倒しにできると言えます」

相手の気持ちを読む力に限らず、脳のピークを長く保てる人は、脳の衰えを緩やかにしたり、脳を若返らせたりする工夫を日常の中で無意識に行っていると先生は指摘する。

新しいことにチャレンジ&つながりを大切に

Photo:Getty Images

では、年を重ねても脳が老化しないために、日常でどのような工夫をすれば? 食事、睡眠、運動という健康の基本を心がけるのに加えて、先生は「新しい体験の数を増やすこと」とアドバイス。

「新しいことにチャレンジするのは脳の機能維持に効果があります。何か新しいことを始めると、脳の神経ネットワークが新しく生まれ、これは何歳になっても起きることが分かっています。神経のネットワークの数は、新しいことにチャレンジし続ければ、年齢を重ねるごとに増やすことができるのです」。大きなチャレンジではなく、小さなものでOKと先生は続ける。

「今まで買ったことがないブランドの洋服や化粧品を試してみるなど、ちょっとしたことで十分です。自分が好きなことや趣味のなかで新しいことをしてみてください。好きなことをすることも、脳に刺激を与え脳の若さを保つことにつながります」。さらに、「周りの人たちとつながりを感じること」も、脳が老化させないために大切だそう。

「つながりを感じた瞬間に脳内ではオキシトシンが出て、脳を活性化させます。また、誰かとつながりを持つことは、脳の前頭前野を活発に利用するので、脳の老化が減少する可能性があります」。ただし、苦手な人や嫌な人とのつながりは脳のストレスになり逆効果なので、要注意!「無理をすると脳はストレスを感じ、そのストレスは脳の老化を早めます。新しいことにチャレンジするのも人とつながりを持つのも大切ですが、“自分が楽しめる無理をしない範囲でする”ことがポイントです」。心地よく楽しく生きることが、脳の老化防止には良いようだ。

43歳を過ぎてもパフォーマンスを上げるには?

Photo:Getty Images

ところで、「脳の集中力のピークは平均すると43歳」というのを、あなたはどう受け止めるだろう。意外と遅い?それとも早い? いずれにしろ、40代はまだまだ働き盛りの年齢。43歳を過ぎたからといって、集中力がなくなって仕事のパフォーマンスが下がるのは困るはず。何か今日からできることは?

「仕事を単純作業と複雑な作業に分けてみてください。そして単純作業の場合は、時間を区切るのがおすすめです。タイマーを使って、30分などに区切るのです。そして30分経ったら、どんなに仕事が捗っていてもいったん切り上げるようにしてみてください。途中でやめざるを得なくなると、脳は仕事がしたくてたまらなくなり、かえって集中力ややる気が持続するのです。そして5分くらい休んだら、また30分仕事をする、というのを繰り返します」

一方、クリエイティビティを求められるような複雑な作業の場合は、タイムプレッシャーがあると生産性が下がる。違うアプローチが有効だと先生は話す。

「まず、必要だと思われる情報をインプットしてよく考え抜いてください。その後、あえて仕事から離れ、心地の良い場所に身を置くなどリラックスできる環境を整えます。コーヒーを飲んだり、仕事とは関係ないSNSを見たりするのもいいでしょう。その快感のなかで、脳はデフォルト・モード・ネットワークという状態に入ります。このとき、自分の意志としては仕事のことは考えていませんが、それまでにインプットした情報を脳が自動的につなげてくれます。そして、ふっと自然にアイデアが湧き上がり、集中モードに入ることができるのです。私も仕事に集中できないときは、一旦あきらめて、犬の散歩をしたり温泉に行ったりします。そうすることでリラックスでき、その後に寝転びながらスマホにアイデアを書き出すと良い案が生まれ、集中できるようになります」

chatGPTやAIに対抗する人間の脳の力

Photo:Getty Images

chatGPTなどの人工知能の進化が注目されている。人生100年時代を生き抜くために、私たちはAIと上手く共存しつつ、自分の脳とどう向き合えば良いのだろうか?

「AIは過去のデータから思考をすることはできますが、入力されていない情報から新しいものを産み出すことは今のところできません。そこはやはり人間の脳ならではの力だと思います。また、AIは質問に答えることはできますが、自ら問いを作ることはできません。問いを作る力も、人間に最後に残された領域だと考えます」

話を聞いたのは……

西剛志先生
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。博士号を取得後、特許庁などを経て、うまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。自らの難病の経験などから、脳の働きの素晴らしさを再認識。脳科学者の観点から悔いのない充実した人生のあり方を提案し、多くの人に支持されている。
『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)、『世界一やさしい 自分を変える方法』(アスコム)​​など著書多数。https://nishi-takeyuki.com

Photos: Getty Images Editor: Kyoko Takahashi, Kyoko Muramatsu