UTokyo Compass
UTokyo Compass 3年経過成果報告
2021年9月に基本方針UTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」を公表してから3年が経ちました。
前回経過をご報告した2023年10月以降も、本学はUTokyo Compassに掲げた目標の達成に向け、様々な取組みを進めてきました。 2023年に設置したCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)及びCIO(Chief Investment Officer:最高投資責任者)に加え、多様な財源調達を促進するため、2024年4月には新たにCDO(Chief Development Officer:最高渉外責任者)として三島龍氏を執行部に迎えました。今後、こうした専門家の知見を活用しつつ、自律的な財務基盤の構築を進めてまいります。
社会や産業界との連携も着実に進展しています。2023年11月にはキヤノン株式会社及びキヤノンメディカルシステムズ株式会社と、2024年4月には東日本電信電話株式会社との協定を締結するなど、組織対組織の産学協創を引き続き進めるとともに、GX(Green Transformation)に向けた連携に関する協定を文京区や北海道大学と締結しました。また、2024年5月には、複数の大学や企業と共同で、様々な社会課題の解決を目指すスタートアップを支援する新しいイノベーションエコシステムづくりを目指す一般社団法人WE ATを設立しました。
さらに、本学の構成員や卒業生をはじめとする関係者が共有するスポーツに関するビジョンとして「東京大学スポーツコンパス」を制定したことや、世界に開かれた大学として本学のビジュアルアイデンティティの確立・普及を目的としてVisual Identity Guidelinesを制定したこと、本学が実施しているリカレント教育プログラムを集約・発信するためのポータルサイトを開設したことなども、大学と社会とをつなぐコミュニケーション活動の強化に資するものです。
研究面では、チリ共和国・アタカマ地方において大型赤外線望遠鏡を運用するための東京大学アタカマ天文台 (TAO) 望遠鏡サイトが完成し、2024年4月には記念式典を開催しました。TAO計画は最先端研究の推進にとどまるものではなく、次世代の研究者育成や、本学の国際的プレゼンスの向上にも大きく貢献するものです。現地、地域の皆さまのご協力とご尽力に改めて感謝申し上げるとともに、未来に向けて現地コミュニティとの一層の協力関係を築くべく、思いを新たにしています。
また、毎年10月に京都で開催される「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」との連携及び協力に関する覚書を2024年5月に締結し、2024年10月に開催された年次総会では本学からも多数の研究者が参加しました。連携協力を具体的に進めるための学内体制も整えており、これを通じて引き続き人類の発展と調和した科学技術の適切な発達に寄与してまいります。
UTokyo Compassの重要な柱である「多様性と包摂性」をより一層推進するため、バリアフリー支援室と男女共同参画室を発展的に統合し、多様性包摂共創センター(IncluDE)を2024年4月に設置しました。同センターには多様性と包摂性に関する研究者が参画し、この分野における研究を推進するとともに、その成果を教育や実践に還元します。これを通じてジェンダー・エクイティ及びバリアフリー等に関する全学的な取組みの強化を進めます。
公表の際のメッセージにおいても述べましたように、UTokyo Compassは不変とするものではなく、絶えず改善し充実させていくものであると考えています。そのため、2024年5月には、UTokyo Compassの進捗状況を踏まえ既存計画を発展させる改訂を行うとともに、新たな計画として「HR経営:プロフェッショナル人材の量的・質的向上にかかる環境整備」「研究インテリジェンス組織の整備」「College of Design(仮称)の開設 」を加え、「UTokyo Compass 2.0」として公表しました。新たに盛り込んだ取り組みを通じ、本学の教育研究活動のさらなる発展を追求してまいります。
私の総長としての在任期間も3年を超え、任期の折り返し地点を過ぎました。これまでの取組みにより築いた基盤を推進力として、「世界の誰もが来たくなる大学」の実現に向けた計画を一層加速させていきます。今後も UTokyo Compass の成果を随時お届けしていきますので、変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2024年12月 藤井 輝夫
UTokyo Compass 2.0に寄せて
3年前にUTokyo Compassを「東京大学ならではの創造的な挑戦の航路」を指ししめす新たな憲章として公表した際、「現代的で地球的な諸課題を前に大学の可能性を問いなおし、これまでの在り方を設計しなおすことをも厭わない」ことを掲げました。
今回のUTokyo Compass 2.0は、その公約を踏まえた増補であり、改めての決意表明です。
この3年を振りかえってみただけでも、私たちが生きている世界はますます複雑になり不安定さを増しています。気候変動や国際紛争、飢餓、貧困、感染症など地球規模の問題のみならず、それぞれの地域における未曽有の困難や分断の顕在化など、課題が次々と生まれています。そうしたなかで、人はどう生きるかという哲学も改めて問われていくでしょう。これらの課題は、既存の手法や態勢では解決できません。新たな発想での学知の活かし方や方法知の開発が、必須のものとして求められています。これを専門的かつ多面的、複合的、そして根本的に究め提供できる場こそが大学であると私たちは考えます。
今回の増補では、こうした問題を解決するための学知・方法知の中心に、「デザイン」ということばを据えています。これは解決策を設計し、美しく整えるという意味のみでのそれではありません。むしろ、課題を見つめ、役立つ考え方を探り出し、関係する人びとと対話しながら、その解決に向けた道筋を工夫していくというプロセスを創出することです。
大学での学びにおいては、与えられた課題を創意工夫でこなしていく努力や、既存の知識や技術の蓄積の刷新に取り組む探究も大切ですが、自らの目的に応じて、あるいは世界が悩んでいる課題と向かいあって、必要な知を編み合わせていくことが求められています。それぞれに異なる「誰のために、何のために、どのように」の理想を素材に、ともに協力して目指すべき目標を立ちあげるのもデザインなら、解決に向けて人びとが前向きに関わっていける仕組みを創出し、組織していくこともデザインです。
これまでの学校制度における学びが、知を供給する側によって設計されてきた現状も、その限界が問われています。需要する側に立つ学生の視点から、場としての大学の研究・教育を点検したとき、課題と真摯に向きあうためには文理の壁や専門の隔たりを取り除き、学問と社会のつながりを意識する環境をさらに充実させることが望ましいと考えます。
地球社会の課題に一人きりで、あるいは単一の学問分野だけで取り組むことは不可能です。そこでは、多様な人びとの連携が必須となります。課題に主体的に取り組む多様な背景や特性を持つ学生や研究者が国内外から集まり、必要な知をつないでいくとともに、専門知を深める探究において相乗効果が生まれるような環境を、大学として整備していきます。そこでの点と点をつなぐ協創をつうじて学知の卓越性が向上していくことになります。
このUTokyo Compass 2.0では、財務経営本部のCFOオフィスへの発展や、専門的人材の量的・質的向上、コミュニケーション戦略本部(仮称)の設置など、自律的で創造的な大学活動のための基盤整備を盛りこみました。また、事業としてのカーボンニュートラル達成のロードマップを見直し、社会課題解決に資するデータ活用基盤を整備し、学際研究推進のためのコミュニティの創成に力を注ぎます。さらに多様性包摂共創センターを設置してインクルーシブキャンパスの実現を推し進め、研究インテリジェンス組織の整備やデジタル図書館などの研究資源のDX化をつうじて多様な学術の振興に取り組み、グローバル教育センターでは世界で活躍できる人材の育成に資する全学的な教育支援を展開します。
今回の「具体的な行動計画」の増補において、主軸となる方向性として挙げられるのは、スタートアップを「社会的価値の開拓者」と位置づけた総合的起業支援体制や、専門性に加えて幅広い教養と高い倫理性と課題に向きあうデザイン力を有する人材を育成する新たな学部教育の試みとしてのCollege of Design(仮称)の開設、経営力の確立などを含む「新しい大学モデル」の構築と実現、「学術長期構想」にもとづく学部教育改革のなかでも取り組んでいる入学者選抜の多様化です。これまでも学校推薦型選抜や、外国学校卒業学生特別選考、国際化推進学部入試(PEAK)など、多様化の試みを推進してきましたが、入学者の多様性をより一層高めるべく検討を重ねていきます。それは大学以前の教育まで含めてどのような改善が望ましいのかという議論に新たな視点を提供することになるでしょう。
私たちがこの創造的な挑戦を続けるためには、本学を取り巻く社会の一人ひとりからの共感や賛同・支援が欠かせません。新設する教育組織や研究組織の充実のため、それを可能にする財務基盤としての基金(大学運営基金(仮称))をさらに拡充・運用していきます。これに並行して、基金を活用した経営のための新たなガバナンス構造を整えます。
いまここに盛りこんださまざまな取り組みをつうじて、東京大学をハブとした世界的なネットワークが力強く発展し、東京大学がさらに活性化していく、そうした好循環をつくりだす意志を込めて、UTokyo Compass 2.0を公表します。
2024年5月31日 藤井 輝夫
UTokyo Compassの過去の成果報告
UTokyo Compassとは
UTokyo Compassでは、「知 をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、
目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、
優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組むことを掲げています。
「UTokyo Compass」の概要
関連情報
「UTokyo Compass」パンフレット
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