Irreversibility / Syun'ichi SUGE felt-tip pen, 2012.
あなたの目の前にある、台の上に置いてあるサインペンは、フタが外されたまま置いてあります。
そのため、目で見ることはできませんが、今まさにペン先からインクが蒸発しています。
つまり、これを読んでいるあなたは、この周囲だけインク濃度が上がった空気を吸っているということになります。
量としては極々僅かなものですが、一度この文を読んでしまうとつい意識してしまい、思わず今、呼吸を止めてしまったのでは無いでしょうか。
私たちは、「目で見えないもの」は「存在していないもの」として見落としがちです。それは、私たちが視覚に認知の大部分を頼っているということでもあります。
一方、今のあなたがそうであるように、さっきまで「存在していない」としていたものでも、一度「ある」と意識してしまえば、もう「知らなかった」自分には戻れないのです。