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トムス・エンタテインメント竹崎忠社長スペシャル・インタビューVol.1

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トムス・エンタテインメント竹崎社長スペシャル・インタビューVol.1

当サイトのリニューアルを記念して、今回はアニメ制作会社【トムス・エンタテインメント】の竹崎忠社長にインタビューをさせていただきました。エンタテインメント業界が大きな変化を求められているこの時代に、トムス・エンタテインメントは、「アニメSDGs -2030年までに持続可能な日本アニメ産業の未来を創る-」という構想を掲げ、さまざまな課題に取り組まれています。このインタビューではアニメ業界の現状と、トムス・エンタテインメントが求める未来についてうかがいました。4回の連載でお届けします!

トムス・エンタテインメント
公式サイト

※シリーズものとしての総称は“ ”、具体的な作品名を指すところは『 』で括っています。

日本アニメ産業全体を視野に入れた【アニメSDGs】のはじまり

マイソン:
トムス・エンタテインメント(以下、トムス)さんは1964年に設立され、長い歴史があります。ここまで続いてきた背景に何が一番寄与しているのでしょうか。

竹崎社長:
1964年の8月に放送された“ビッグX”という作品を作ったのが、トムスのアニメ第1作でした。実は1964年の8月って僕の誕生日と同じなんです。だから会社の歴史が捉えやすくって(笑)。その後58年間、途切れることなく、ずっとアニメを作り続けて、今や膨大な数の作品ライブラリができています。それが、トムスという会社です。その代表といえる長寿作品が “ルパン三世” ”それいけ!アンパンマン””名探偵コナン”で、”名探偵コナン”は1996年1月からアニメ放送が始まったので、26年以上も続いています。26年間、ほぼ毎週テレビアニメを作って、並行して毎年1本映画を作ることを安定的にできているのは、もちろんコナンの人気があってこそですが、これだけのアニメを作る制作体制をきちんと構築できているという点で、うちの会社もそれはそれでよくやっていると思ってます。もちろん、うちの会社だけが優れているわけではなくて、こんなにおもしろい作品を作り続けている原作者の青山剛昌先生が一番凄いし、小学館や読売テレビも含めて本作に関わるすべての会社が素晴らしいチームワークで本作に取り組んでいることも大きいです。トムスは東映アニメーションなどと並んで老舗のアニメ制作会社の1つで、ある程度制作の規模感をずっと維持できている会社だからこそ、長期シリーズを作り続ける傍らで、新作も作れる。それだけ制作の母体を抱えられるっていうのが会社としての強みだし、だからこそ、ここまでたくさんの作品を作り続けてこられたのだと思います。

映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』より

これはよく話すのですが、”名探偵コナン”は毎年1本映画を作っていて、最近だと毎年90億円ほどの興行収入を稼いでいます。確かに映画1本で200億円とか稼ぐ作品もありますが、たとえそんな大ヒット作を生み出す監督の作品でも制作のペースは3年に1本といったところで、そこを”名探偵コナン”の場合は、毎年コンスタントに90億円とか稼ぐわけで、この「毎年」っていうのが映画館にとっても配給会社にとっても経営的にすごく大切なことなんですね。映画界にとって、間違いなく、なくてはならない作品に成長したなと感じています。もちろん、この90億円という数字は映画を観てくださるファンの皆さんのおかげでできている数字であって、逆にこれだけ熱く応援していただいているってことは、1作ダメなのを作ってしまったらそこで終わりじゃないですか。だから、常に期待を超える作品を、去年観た人がガッカリしないクオリティの作品を作り続けなければなりません。これは制作スタッフにとって凄まじいプレッシャーになっていて、それを背負いながら少しでもおもしろい作品を作ろうと日々取り組んでいるスタッフにはリスペクトしかありません。映画も、テレビアニメもポンポン簡単に作れるものじゃないけど、その両方をコンスタントに作り続けている”名探偵コナン”や、同じく34年もこれを続けている”それいけ!アンパンマン”の制作チームを見て、自社ながら凄い会社だなって思います。

マイソン:
本当にスゴいですよね!”それいけ!アンパンマン”は小さい子ども達が絶対に通っていく道ですよね。

竹崎社長:
そうなんです。僕は2008年からトムスの社外取締役になって、2015年に完全にトムスに移ったんですけど、アニメにも流行り廃りがあるなかで、トムスっていう会社は、最先端のエッジが効いた作品を作る会社というよりは、昔から続く王道の作品をメインにバラエティ豊かなアニメ作品を作る会社なんですね。過去作品の傾向を自分達で分析したところ、まず1本の軸としてスポ根ものがあるのかなと。“巨人の星”“アタックNo.1”“エースをねらえ!”“あしたのジョー”、最近だと“弱虫ペダル”とか。あとは”ルパン三世”“スペースコブラ”、『AKIRA』といったアウトローものもあります。それと“ど根性ガエル”“じゃりン子チエ”“とっとこハム太郎””それいけ!アンパンマン””名探偵コナン”といったファミリー向けもあって、とにかく作品のバリエーションが豊かな会社なんですよね。全体的には、誰でも親しみやすい昔ながらのファミリーアニメが制作のベースにあるのだと思います。ただ、いろんな作品を作っているものですから、逆に「特徴がない」って言われたりすることもあるんですけど。

僕が社長に就任した頃、トムスの作品のカラーってどうあるべきなんだろうって皆で話し合ったことがあるんです。過去にいろいろな作品を作っている会社だし、ここから先は尖った作品も作ろうといっても今までの作品を否定するつもりもないし、そこでいきなり会社のカラーが変わるわけでもない。それなら、今まで持っているバリエーションに加えて、新たに尖ったものもできますよという作品の幅をもっと拡げていく方向性でいけばいいんじゃないかなという話でまとまりました。よりカラフルになるってことですね。

トムス・エンタテインメント竹崎社長スペシャル・インタビュー
応接室には、ズラリとアンパンマン達が並んでいました。お地蔵さんのようでとってもカワイイ!

(トムスが属する)セガサミーホールディングスは、「感動体験を創造し続ける 〜社会をもっと元気に、カラフルに。〜」というスローガンを掲げていますが、トムスではそれを受けて、「世界を夢中にさせるアニメーション創造企業 〜アニメで世界をもっと元気にカラフルに〜」をスローガンとしています。いろいろなカラーの作品を作って、それを世界のあちこちの国に届けて、感動してもらったり、笑ってもらったり、元気になってもらったり、さまざまな形で人々の心を動かせる会社でありたいと思っています。これまでの58年間の歴史と蓄積があるからこそ、こういった打ち出し方ができるんですね。”ルパン三世”は50年以上、”それいけ!アンパンマン”は34年、”名探偵コナン”は26年という長寿シリーズで、それが今も走り続けているのがこの会社の特徴であり、最大の強みなのかなと思います。

マイソン:
今のお話をお聞きしていると、長年いろいろな作品を手掛けてきたからこそ、会社の構想として掲げていらっしゃる【アニメSDGs】にも取り組める立場にあるのかなと思いました。

竹崎社長:
そうですね。僕がトムスに移った時、当時の制作の責任者に、「劇場オリジナルアニメを作れないかな? SF作品は作れないかな?」って相談したことがありました。すると、「ひとつの制作会社の中でも班ごとに特徴があるんだ」と言われました。例えば、”名探偵コナン”を作ってきたチームには、”名探偵コナン”を作る熟練のスタッフが集まっているわけです。このチームに次に何か別の作品を作ってといったら、”名探偵コナン”に近いテイストの作品は作れても、“ガンダム”みたいな作品は作れない。つまり、あるクリエイティブの方向性でまとまってきたチームには、それぞれの色があって、得意不得意も異なるんだということですね。それでもロボット系アニメが作りたいと思った時には、社外にいるロボット系アニメが得意な人達と組んで作るしかないねと。でも、それはその通りで、全部を自社だけでやろうとするのではなくて、うちが得意じゃない作品はそれが得意な人と組んでやればいいというスタンスを取るなら、トムスが世に送り出す作品のバリエーションがもっと増えて、もっとカラフルな世界を作るのに貢献できるんじゃないかなと考えています。もちろん、トムス以外の会社からさまざまな作品が発信されていくこともいい。だからこそ、自社のことだけでなく日本アニメ産業全体を視野に入れた目標を持つべきだと思って「アニメSDGs 2030年までに、持続可能な日本アニメ産業の未来を創る」なんて取り組みを始めたのです。

ゲーム業界出身者としては、アニメ業界の構造がいびつに見えた

トムス・エンタテインメント竹崎社長スペシャル・インタビュー
本社のロビーにはさまざまな作品のスタンディーなどが並びワクワクします。

マイソン:
竹崎社長がアニメ業界で問題視しているポイントは何でしょうか?

竹崎社長:
アニメ業界に限らずですが、作っている人達へのリスペクトが足りないんじゃないかと思うことがあります。これは誰が悪いという話じゃなくて、これまでの歴史というか経緯というか、その中でできてしまった構造的な問題だと捉えています。もともと作る人には情熱はあるけどお金がなくて、一方で作れないけどお金は出せる人がいて。お金を出せる人から制作費を出してもらうことでやっとアニメが作れた。作ったアニメをお金に換えるところは作る人にはできなくて、お金を出した側はビジネスができた。その結果、制作を発注する側と受託する側という役割分担ができてしまったのだと思います。結果的に、作る側は「仕事をください」ってお願いする下請けのようなスタンスになってしまったんです。でも、作る側はクリエイティブな仕事をしているわけで、0から1を生み出している。本来作る能力を持った人がいなければ売るものができないわけで、どっちが上とかないし、作る人をきちんとリスペクトし、彼らが仕事をしやすい環境を整えたい。

僕は、トムスの前にセガで仕事をしていました。セガはゲームの会社で、ゲーム産業って作り手に対するリスペクトがすごく大きいんです。主導権は作り手側にあるというか。かつてセガとソニーと任天堂が家庭用ゲーム機の覇権争いをしていた時に何が起こったかというと、“バイオハザード”の取り合いとか、“スーパーロボット大戦”の取り合いとか、人気作品をどのプラットフォームが獲得するかで勝負が決まるみたいなところがあったんです。

映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』より

それって何かというと、コンテンツそのものが主役で、プラットフォームよりもコンテンツのバリューのほうが高いってことなんですね。だから、ゲーム業界では、良い作品を自社のプラットフォームに持ってきたいという考えから、プラットフォーム側はクリエイターをリスペクトするし、クリエイターに対して「お願いします!」という姿勢になるんです。でもアニメ業界に移ってきた瞬間に、作る側が仕事をくれる人に「ありがとうございます!」って感謝する立場になって逆転現象が起きてしまう。(実は最近になってアニメの世界でも少しずつ状況は変わってきていますけどね。)

僕は最初、営業の現場を仕切る責任者としてトムスに入りました。でも、制作会社の主たる営業は仕事を発注してもらうための営業がメインで、ほとんどの作品において、予算と納期が決められた仕事をこなして納品して終わり。そこから先は発注した人がビジネスをする。ビジネスが大成功しても多くの作品では(すべてではありません)作った側への収益配分はなされない。もちろん、アニメ作品はすべてが成功するわけじゃないから、お金を出す人は最初に大きなリスクを背負っている。それはその通りなんだけど、制作会社は会社を経営するのに十分な利益が取れるような潤沢な制作費をもらっているわけではないし、できるだけ良い作品を作ろうとするから時には赤字で制作してしまう。こういった考え方や収益配分構造っていびつで、おかしいんじゃないかって考えたのです。でも、最初は社内の一部からも「その考え方がおかしい」と言われました。だって、業界全体がそれを当たり前としてずっとやってきていたから、非常識だというわけです。そんな「何なんだ、このアニメ産業の構造は!?」っていう状態から僕はスタートしました。この状況を何とかしなきゃアニメ産業の未来はない。これを解決するために何らかの手を打たなきゃいけないと考えるようになったんです。

2022年10月7日取材 PHOTO&TEXT by Myson

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トムス・エンタテインメント制作のアニメ

映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』

『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』
2022年4月15日全国公開/11月7日まで再上映中
2022年11月9日レンタル開始・ブルーレイ&DVD発売
東宝
公式サイト 

©2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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  2. 「第6回大島渚賞」
  3. 映画『悪い夏』北村匠海
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