トラック最前線/トラック事業者の心強い味方「トラックGメン」、スタート1年後の成果
2024年09月05日 10:00 / トラック最前線
トラック事業者の労働環境の改善や取引環境の適正化など、物流業界の改善に向けて「トラックGメン」が設置されてから約1年。積極的な活動を続けることで、物流業界内での認知も徐々に向上、期待通りの成果を上げつつある。そこで「トラックGメン」のこれまでの状況と今後の取り組みについて、国土交通省物流・自動車局の三輪田優子貨物流通事業課長と、溝江敬介貨物流通事業課トラック事業適正化対策室課長補佐にお聞きした。(取材日:7月30日)
物流業界の健全化を図るトラックGメン
人材不足やコスト増加、サービスの高度化・複雑化、多重構造など多くの課題を抱える物流業界。さらに2024年4月以降はトラックドライバーの時間外労働の上限が960時間以内に制限され、ドライバー不足が深刻さを増している。これらにより「何も手を打たなければ2030年には3割の荷物が運べなくなる」という試算もある。
では、なぜトラックドライバーが不足するのか。そこには荷主や元請と、トラック事業者の関係が対等ではない業界構造が根本にある。荷主に対してトラック事業者は弱い立場に置かれ、長い荷待ち時間、契約にない附帯作業、どんぶり勘定の運賃等々が当たり前となり、それが商習慣として根付いてしまっている。
そして、当然ながらその最前線に立つトラックドライバーは、労働時間は長く、賃金は低いままの状態が続いている。インフラとして重要な役割を果たしているものの、これでは職業としての魅力は乏しく、採用に苦戦し定着率も低い。ドライバー不足はより深刻なものとなり、将来の物流の維持は困難さを増す。
このような背景から、国土交通省が昨年7月にスタートしたのが「トラックGメン」である。トラック運送における不適正な取引の監視を強化し、問題のある荷主や元請の情報を収集し、悪質な荷主や元請には改善を促す。悪質な荷主、元請を早急に是正することで、歪な商習慣を是正して業界の健全化を図り、トラックドライバーの担い手を確保、物流を継続させていくのが狙いだ。
1年間で「働きかけ」550件、「要請」170件、初の「勧告」も
物流業界の課題、特にトラックドライバーの待遇の改善については、政府でも早くから認識していたといえるだろう。既に2019年から貨物自動車運送事業法に基づく荷主等への「働きかけ」「要請」等による是正措置を講じてきた。
ただ、その活動はあまり活発なものとはいえず、2019年からトラックGメン設置までにおける月当たりの「働きかけ」「要請」「勧告」の平均実施件数は1.8件と非常に少なかった。ちなみに4年間の実績は累計で「働きかけ」が85件、「要請」がわずか4件、「勧告」に至っては0件である。「物流危機」が迫る中、これでは間に合わない。
そこで国土交通省では、全国162名体制からなる「トラックGメン」を設置、荷主等への監視体制を強化した。
実際の活動としては、「目安箱」と呼ぶ悪質な荷主等に関する通報窓口に寄せられた情報や、トラック事業者からの聞き取りなどに基づいて電話調査や訪問調査を実施。そこで違反原因行為の疑いがあれば、荷主や元請に「働きかけ」等、改善を促す。情報収集の一つの手法として、トラックターミナルや高速道路のサービスエリアで、トラックドライバーからの聞き取りなども実施するなど積極的だ。また、トラックGメンを周知するための広報や、トラック事業者や荷主に対する説明会、荷主に対するパトロールなども行っている。
さらに、厚生労働省、公正取引委員会及び中小企業庁、荷主を所管している経済産業省及び農林水産省など関係省庁とも連携して活動を行っている。荷主によっては、国土交通省との関わりがなく、「トラックGメン」といっても、あまりピンとこないケースも少なくない。荷主を直接管轄している関係機関と一緒に対応することで、荷主に対して事の重大さを知らしめるというわけだ。また、荷主企業がそもそもトラックドライバーの労働時間のルールを正しく理解していないケースも見受けられることから、「国土交通省の関係部署や関係省庁と連携しながら周知を図っている」(溝江氏)という。
これらの取り組みの結果、今年6月末までの累計実施件数は「働きかけ」が635件、「要請」が174件、最も重い「勧告」が2件となった。このうち、トラックGメン発足後の件数は「働きかけ」は550件、「要請」は170件、「勧告」は2件。つまり大半がこの1年間だったということになる。
それまでの4年間で「要請」がわずか4件だったことと比較すると、その取り組みの効果が理解できる。さらに「要請」を実施したものの、その後も改善が見られなかった2社に対しては、初めて「勧告」が出され、その社名も公表された。荷主、元請にとって非常に重い処分だが、「要請を受けたことを真摯に受けとめ、問題意識を持って改善に取り組んでいただいている荷主もある」(溝江氏)というように、着実に成果が現れているようだ。
さらに、昨年11月・12月は「集中監視月間」と位置付けて活動を強化。物流業界では年末に向けた繁忙期となるが、それだけに違反原因行為が起こりやすい時期でもある。その時期に集中監視を行うということでも、取引の適正化に向けた取り組みの厳しさが伝わってくる。
ちなみに主な違反原因行為は、「長時間の荷待ち」が53%。「契約にない附帯業務」16%、「運賃・料金の不当な据置き」13%、「無理な運送依頼」8%、「過積載運送の指示・容認」6%、「異常気象時の運送依頼」4%など。特に長時間の荷待ちが圧倒的に多く、過半数を占めているのが特徴である。労働時間の上限規制にも直結するだけに、この解消は急務といえるだろう。
体制を拡充し、さらに取り組みを強化
一方、約1年の活動で見えてきた課題も少なくない。一つは情報の共有化だ。「荷物の出発地と到着地によって担当する運輸局がまたがる場合もある。そこが縦割りだと効果的な指導ができないので、全国共通のデータベースを作ることを考えている」(三輪田氏)。当初はトラックGメンの中での共有でスタートするが、将来的には関係省庁とも連携していきたいとしている。
また、体制強化も大きな課題だ。162名体制で発足したトラックGメンだが、十分にカバーしているとは言い難い。そこで今般の法改正により、全国のトラックGメンに加え、地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)に調査員を新たに設置し、情報収集力を強化する。「まずは情報がないと我々も動きようがない」と溝江氏。「トラック事業者さんが法令違反になるような行為をしている荷主に対して、そのような行為をやめさせるのがトラックGメンの目的。そのためにもトラック事業者さんから、情報を数多く聞き出すことが必要」という。そして、その情報を基に実際に対応するには体制強化が必要だ。
また、提供される情報の内容も重要である。会社名や困っている内容など、具体的な情報がないとトラックGメンも動けないのだが、「情報提供したことが荷主にバレるのでは?」というトラック事業者の不安を解消していくことも課題。「そこが当面の壁だと思っている」と三輪田氏も言う。「誰が言ったか、みたいな犯人探しにならないよう、情報管理はしっかりと徹底して対応しているので、トラック事業者には安心して情報提供して欲しい」。
そのような事情もあり、トラック事業者への周知もさらに進めていく。溝江氏によれば、トラックGメンに対して「自分たちが取り締まられるのでは?」と誤解しているトラック事業者も、まだまだ少なくないという。トラックGメンはトラック事業者の味方であることへの理解が進めば、情報提供もより積極的になり、結果として業界の健全化を早めることになる。
<トラックGメンはトラック事業者の味方。安心して情報を寄せて欲しい、という>
ちなみに、貨物自動車運送事業法附則に基づく荷主等への是正指導(「働きかけ」、「要請」など)は当初は2023年度までの予定だったが、昨年の同法改正により、当分の間、活動継続が決定された。それだけ業界の問題は根深く、またトラックGメンの活動に対しても期待されているということだろう。これまでの商慣習を見直し、荷主とトラック事業者が対等な立場になる、新たな商慣習を確立するまでその取り組みは続きそうだが、そのためにもトラック事業者からの積極的な情報提供がより重要なものとなる。業界の健全化、物流の維持のためにも、ぜひ現場の声をトラックGメンに届けて欲しい。
(取材・文 鞍智誉章)
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