リアルタイムPCRでは、蛍光の選び方や実験のデザインだけでなく、試薬の混ぜ方や試薬を添加する順番などプレートの準備で気をつけるべきことはまだまだたくさんあります。今回は、リアルタイムPCRのプレート準備で気をつけるべき4つのポイントについてご紹介します。
試薬の混合
リアルタイムPCR反応液を調製する直前に、すべての試薬を十分に混合し、スピンダウンすることを推奨します。酵素を含むマスターミックスを緩やかに攪拌し、PCRプライマーペアまたはTaqMan Assayおよび融解した核酸試料などを短時間(1~2秒間)ボルテックスします。リアルタイムPCRマスターミックスは一般的に他の成分よりも粘度が高いため、十分に混合することが重要です。混合が十分でないと正確な測定を行えない可能性があります。チューブを緩やかに数回反転させたり、1~2 秒間ボルテックスしたりすることが効率の良い混合方法です。しかし、ボルテックスを過剰に行うと、気泡が発生して蛍光検出が妨害されたり、酵素活性が低下し増幅効率が低下する可能性があります。常に短時間の遠心を行って、反応液を容器の底部に集め、気泡を取り除くことが必要です。
プレートへのローディング
反応プレートおよびチューブへの試薬の添加順序は、実験の性質に基づいて決定します。例えば、20 種類の異なるRNA試料において5個の遺伝子の発現を解析する場合には、先ずアッセイミックスを反応プレートまたはチューブに入れ、そこに試料を添加するのが適切です。一方、5種類だけのRNA試料において20個の遺伝子の発現を解析する場合には、RNA試料を先に入れてアッセイミックスを後から添加するほうが容易です。試薬の添加順序にかかわらず、試料とアッセイのクロスコンタミを避けるためにピペッティング操作の実施計画を立ててください。核酸は親水性であり、アッセイマスターミックスとすばやく混合しますので、核酸を添加した後反応液を混合する必要はありません。
プレートのシーリング
プラスチック製のPCRプレートは、光透過性のキャップ、または光透過性のカバー(片面に接着剤の付いた薄いプラスチック製のシート)でシールします。光透過性カバーの接着面は白い裏紙で保護されています。カバーの端には、ミシン目で線引きした長方形のタブが付いています。カバーの取り扱いにはこれらのタブを使用し、カバー自体には触れないようにしてください。白い裏紙をはがしてカバーをプレートの上の隆起した縁の内側に置いてください。正方形のプラスチック装着ツールがカバーに付属しています。ツールでカバーを擦り、特にプレート上部の四隅に沿ってカバーを貼り付けてください。白の裏紙をミシン目からはがす際に、装着ツールの端でカバーの端を押さえ、カバーが引き上げられないようにします。プレートの上部を観察し、特に四隅に沿ってカバーがプレートにきちんと接触していることを確認してください。プレートをシールしたら、持ち上げて底部を観察し、予期せぬ空のウェル、ウェルの壁に接着した液滴およびウェル底部に気泡などが存在しないことを確認してください。空のウェルまたは明らかに液量の異なるウェルが無いか注意してください。ウェルの内壁に付着した液滴および底部の気泡などがあるときは短時間遠心分離してください。
プレート用遠心機が無い場合、こんな身近なアイテムでもスピンダウンできます。下記の記事をご覧ください。
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バーコードを付けたプレートを用いることも可能です。プレートの上面には書き込みをしないでください。蛍光の励起およびリードの妨げとなる可能性があります。また、インクがリアルタイムPCR装置に付着する可能性がありますので、プレートの底面にも書き込みはしないでください。着色物質または蛍光物質によるブロックの重度の汚染は、リアルタイムPCRデータに悪影響を及ぼす可能性があります。
機器へのプレート挿入
プレートの準備が整ったら、メーカーの説明書に従ってプレートをリアルタイムPCR 装置に設置します。DNAまたはcDNAテンプレートおよびApplied Biosystems™ AmpliTaq Gold™ 試薬を含むプレートは、室温で非常に安定です。これらのプレートは通常の実験室の照明下、室温で数日間、問題なく保存することが可能です。混合物中の蛍光色素が劣化する可能性がありますので、反応液を入れたプレートには直射日光が当たらないようにしてください。プレートを屋外に移動する必要がある場合には、プレートをアルミ箔で覆い、日光が当たらないようにしてください。
交換可能なサーマルサイクリングブロックを搭載した装置を使用される場合は、ブロックが挿入するプレートのタイプに適合することを確認してください。96ウェルのスタンダードブロックと96ウェルのFastブロックは同一ではないことに留意してください。スタンダードの96ウェルおよびスタンダードチューブの容量は0.2mLですが、Fast 96ウェルプレートおよびFast チューブの容量は0.1mLです。Fastモードを使用しない場合においても、Fast ブロックにおいてはFastプレートを使用することが必要です。
ローディング方法は装置のモデルによって異なります。いくつかの装置は引き出しシステムを搭載しており、引き出しを手前に引いてブロックまたはホルダーにプレートを設置し、引き出しを押し戻します。いくつかの装置においては、コンピュータ制御されたアーム上にプレートを設置します。
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