今回から、タンパク質の質量分析に関する基本概要についてご紹介します!
質量分析計の概要
質量分析計は、イオン源、質量分析部、イオン検出部から構成されています。液体や気体状態で質量分析計に導入されたサンプルは、まずイオン源で(気化して)イオン化されます。このときサンプル分子には電荷が生じます。次にこのイオン化された分子は加速化され、質量分析部の磁場や電場を通過する際、質量と電荷(m/z)の違いによって分離されます。質量分析部の種類として、イオンが検出部に到達するまでの時間を検出する飛行時間型 (Time-of-Flight, TOF)、4本の電極で目的イオンのみを通過させる四重極型、イオンを捕獲してから選択的に放出させるイオントラップ型などがあります。質量分析部で分離されてイオン検出部に到達したイオンは、電子増倍管やマイクロチャンネルプレートで電気信号に変換、増感して感度良く検出されます。
非サンプルイオンのコンタミネーションを避けるため、質量分析は高真空下(10-6~10-8 torr)で行われます。非サンプルイオンが混入するとサンプルイオンと衝突してサンプルイオンの進路変更や非特異的な副産物の生成を引き起こしてしまいます。
質量分析計に適当なソフトウェアーの入ったコンピューターと接続することで、検出部のデータを解析し、質量電荷比(m/z)に対するイオンの相対量をプロットしたグラフ(質量スペクトル)を得ることができます。さらにデータベースを用いて、m/zに基づいた分子量から配列を予測・同定できます。
タンデム質量分析(MS/MS)
質量分析を連結したタンデム質量分析では、最初の質量分析によって選択したイオンを断片化し、生成したフラグメントイオンを次の質量分析で検出します。MS/MSは、より複雑な混合物の解析や構造解析に有用です。フラグメントイオンの生成には、不活性ガスと衝突させる衝突誘起解離(CID: collision-induced dissociation)があります。また電子を捕獲させてフラグメントイオンを生成させる電子移動解離(ETD: Electron Transfer Dissociation)や電子捕獲解離(ECD: Electron Capture Dissociation)があります。
クロマトグラフィー分画
生体サンプルには通常さまざまな種類の分子が混在していますが、標的分子に比べて標的以外のタンパク質が大量に存在する場合、標的分子の検出が阻害されることがあります。そこで通常、質量分析に先だって標的分子を他の分子から分画する手法が利用されます。ガスクロマトグラフィー(GC)や液体クロマトグラフィー(LC)はその代表例です。中でも不揮発性の液体サンプルである生体サンプルを分画する場合、HPLC (High performance liquid chromatography)が良く利用されます。LCカラムの直径は小さく(例: nanoHPLC 75 µm)、流速が遅い(例: 200 nL/min)ため微量サンプルの分画に適しています。
定量プロテオミクス
質量分析では、複数の分子が混合しているサンプル中でも微量な分子を検出できますが、解析中にペプチドやイオンを損失してしまうため、本質的な意味での定量は困難です。そこで、標識ペプチドや標準品をサンプルと一緒に解析し、それらをリファレンスに使用することにより、相対定量や絶対定量を行います。相対定量には、安定同位体ラベルしたアミノ酸を利用する SILAC(stable isotope labeling using amino acids in cell culture)や質量数の異なるタグを持つ標識試薬を利用するTMT(tandem mass tagging)といった方法があります。これらの方法では、サンプル中のタンパク質・ペプチドを安定同位体標識することにより、標識していない、あるいは別の標識をしたサンプル中のタンパク質・ペプチドに比べて微量の質量差を生じさせることができます。この質量差を検出することにより標識アナライトと非標識アナライトの存在比を解析します。絶対定量では、安定同位体を含む合成ペプチドを既知量サンプルに添加し、このペプチドを内部標準品としてサンプル中のペプチドの定量を行います。
次号では定量プロテオミクスについて掘り下げます!その後、質量分析前のサンプル調製についても掘り下げてご紹介いたします!
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