今回はThermo Scientific™ NanoDrop™微量分光光度計で精度よく吸光度測定を実現するためのTipsをご案内します。
NanoDrop微量分光光度計は微量のサンプルで吸光度測定が可能な機器ですが、微量サンプルゆえに生じる問題もあります。第9回のNanoDrop道場では微量サンプルを用いての吸光度測定で、精度よく測定するためのTipsを3つご案内します。
▼こんな方におすすめです!
・吸光度測定を実施されている方
・超微量分光光度計をご利用・ご検討の方
Webサイト(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)にある動画資料も併せてご参照ください。
使用するサンプル量が吸光度に与える影響
NanoDrop微量分光光度計では1 µLのサンプル量から吸光度測定することが可能です。もしサンプル量が1 µL以下だった場合、吸光度は正確に測定できるでしょうか?今回、PV-1検証試薬を用いて、通常の1 µL使用に加えて0.5 µL、0.8 µLを台座にアプライし正確性・再現性について検証しました。
それぞれの測定結果を図1に示します。
結果、1 µLまたは0.8 µLのアプライ量では性能評価をパスできましたが、0.5 µLのアプライ量では性能評価をパスできませんでした。
検証データの詳細から0.5 µLアプライ量の測定において、1 mm光路長での測定データにて、正確性を示す%Error、再現性を示しStandard Deviationの値が大きく性能評価をパスできなかったものと示唆されます(表1参照)。
使用サンプル量 | 1 mm | 0.2 mm | 0.1 mm | 0.05 mm | 0.03 mm | |
1 µL | % Error | 0.1 | 0.4 | 5.3 | 0 | 2.4 |
Standard Deviation | 0.004 | 0.002 | 0.002 | 0.002 | 0.002 | |
0.8 µL | % Error | 0.1 | 0.4 | 6.1 | 1 | 3.7 |
Standard Deviation | 0.003 | 0.001 | 0.002 | 0.001 | 0.001 | |
0.5 µL | % Error | 33 | 1.6 | 0.3 | 0.4 | 3 |
Standard Deviation | 0.177 | 0.001 | 0.001 | 0.001 | 0.002 |
サンプル量が少ない場合、Thermo Scientific™ NanoDrop™ One / OneC微量分光光度計で最も長い光路長である1 mmにて上下台座間で十分な液柱を形成することができず、安定した測定ができなかったことが示唆されます。つまり台座にアプライするサンプル量が少ない場合、1 mm光路長で測定する吸光度範囲(10 mm光路長相当で吸光度12.5)では、安定した吸光度測定を困難にすることを示唆します。
通常1 µLのアプライ量で測定する際に少ないサンプル量となる要因の1つは使用するピペットの精度が考えられます。
校正が十分ではないピペットを使用した場合、1 µLをサンプルリングしたつもりでも、1 µLに満たない少ない量がサンプリングされている可能性があり、吸光度が低いサンプルの測定時に吸光度が安定しない可能性がある為、注意が必要です。
またサンプルが粘性を有するような場合、1 µLの正確な秤量は困難になります。このような粘性を有するサンプルの場合、1 µLではなく2~3 µLを用いて吸光度測定を実施することを推奨します。
ご参考までに1 µL以上のサンプルを用いた場合、吸光度への影響はありません(表2参照)。
使用サンプル量 | 1 mm | 0.2 mm | 0.1 mm | 0.05 mm | 0.03 mm | |
1.5 µL | % Error | 0.5 | 0.9 | 3.9 | 0.1 | 2.9 |
Standard Deviation | 0.002 | 0.001 | 0.002 | 0.001 | 0.001 | |
2 µL | % Error | 1.2 | 0.8 | 6.6 | 1.7 | 4.9 |
Standard Deviation | 0.004 | 0.002 | 0.001 | 0.002 | 0.002 |
サンプル乾燥による吸光度への影響
NanoDrop微量分光光度計での吸光度測定は1 µLからの測定が可能ですが、微量サンプルのため、台座上にアプライしたサンプル乾燥の影響を受けやすくなります。実際にPV-1検証試薬を下部台座に1 µLアプライし、アームを下ろして測定まで5秒・10秒静置後に測定を行いました。それぞれの測定結果を図2に示します。
測定の結果、下部台座にアプライ後に5秒間・10秒間サンプルを静置後、アームを下ろして測定を行った結果、性能評価をパスすることができませんでした。
5秒静置で示されております「Conditional Pass」の表示は10回の連続測定にて、正確性・再現性の基準値がわずかに範囲外であったことを示します。検証データの詳細から、サンプルを静置することによるサンプル乾燥は再現性には大きな影響を認めませんでしたが、正確性が基準範囲を逸脱したため性能評価をパスできなかったことが確認できます(表3 参照)。つまり、大きく温湿度変動のない測定環境での測定では、同じ時間静置させてサンプルを乾燥させた結果、高い再現性データは得られましたが、サンプル乾燥に伴い、サンプル濃縮が生じた結果、測定吸光度に影響が生じた可能性が示唆されました。
静置時間 | 1 mm | 0.2 mm | 0.1 mm | 0.05 mm | 0.03 mm | |
すぐに測定 | % Error | 0.4 | 1.1 | 3.3 | 0.2 | 1.9 |
Standard Deviation | 0.003 | 0.001 | 0.002 | 0.001 | 0.001 | |
5秒静置 | % Error | 3.2 | 2.3 | 2.1 | 7.4 | 12 |
Standard Deviation | 0.009 | 0.003 | 0.002 | 0.001 | 0.001 | |
10秒静置 | % Error | 6.1 | 5.7 | 0.6 | 9.5 | 13.9 |
Standard Deviation | 0.005 | 0.002 | 0.002 | 0.001 | 0.001 |
以上の結果から、微量サンプルでの吸光度測定を実施する場合、台座へのアプライ後は迅速に測定することが推奨されます。
連続測定による再現性確認方法
吸光度の正確性と再現性を確認する為、同じサンプルを複数回にわたって測定し、その吸光度情報をもとに正確性・再現性を検証する例があります。このような連続測定による正確性・再現性の検討を実施する場合、同じサンプルの吸光度測定でも、測定後は台座を清拭し、再度サンプルをアプライして、吸光度測定することを推奨します。もし、吸光度測定後に台座を清拭することなく、同じサンプルを連続で測定した場合、吸光度への影響はあるでしょうか?このような連続測定法はアームを上げないため、サンプル乾燥の影響は最小限に抑えられることが期待されます。実際に同じdsDNAサンプルを1 µL台座にアプライし、サンプルを交換せずに10回連続で測定しました。
10回分の測定結果の吸光度スペクトルは以下のようになりました(図3参照)。
吸光度スペクトルでは10回の連続測定によって大きく値がぶれるようなことは確認できませんでした。次に測定回数ごとに1回目の測定結果からの変化率を濃度(ng/µL)、260 nm吸光度、280 nm吸光度、230 nm吸光度についてグラフ化しました(図4参照)。
NanoDrop One /OneC微量分光光度計では10 mm換算吸光度で「2」以上の吸光度測定において再現性は±2%の誤差となり、変化率として102%までが再現性が担保される範囲と想定されます。連続測定5回目までは再現性が担保される範囲内での値が得られており、6回目以降は変化率102%を超える範囲で測定されました。結果、5回目までのサンプルを交換しない連続測定にて再現性の高いデータを得ることが可能と考えられます。
ただし、測定環境や台座環境、サンプル種類によっては、より少ない測定回数でも再現性が担保される測定範囲を逸脱する可能性もある点、注意が必要です。
一方で、測定毎にサンプルを交換し、10回連続で測定した場合は、濃度が100 ng/µL以下のサンプルでも、10回の測定すべて基準となる濃度、吸光度に対する変化率が小さくなります(図5参照)。
よって、同一サンプルを用いて機器の正確性・再現性の検証においてはサンプルを交換して検証いただくことが最適な方法と考えます。
まとめ
今回はNanoDrop微量分光光度計で精度よく吸光度測定を実現するための3つのTipsについてご案内しました。NanoDropの測定サンプルは数µLの微量サンプルとなることが多いため、サンプル乾燥やサンプルリングにも注意いただくことで精度よく測定を実施することが可能となります。使用するピペットの校正に関しましては測定誤差を生じさせる要因の1つとして考えられるため、機器のみではなく、サンプリングに要するピペットについても正確に定量するための定期的な点検を推奨します。また機器の正確性・再現性評価のための連続測定の最適な方法についてもご案内させていただきました。サンプルを交換することなく連続した測定でも、ある程度の正確性・再現性は得られることが期待されますが、測定ごとに交換いただく方がより精度が高い検証が可能となります。
このシリーズではThermo Scientific NanoDrop微量分光光度計による吸光度測定に関わる情報やTipsをご案内していく予定です。以下リンクより「NanoDrop」に関連するブログ記事をご覧いただけます。
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/tag/nanodrop/
NanoDrop One / OneC微量分光光度計について新しく動画マニュアルをご用意しました。
Webサイト(thermofisher.com/jp-nanodrop-setup)にある動画資料も併せてご参照ください。
またNanoDrop微量分光光度計シリーズにご興味のユーザーさまは以下リンクよりデモのご依頼も可能ですのでご活用いただければと思います。
研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。