近年、ビッグデータの活用が進む中で、AI(人工知能)技術の一つである機械学習が多くの分野で注目を集めています。マーケティング、投資、不正検知、自動運転など、さまざまな分野で活用が進んでいます。特に機械学習は、企業が競争力を高めるための重要な武器となっています。
とはいえ、「機械学習」という言葉を聞いても、具体的にどのように活用するのかイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか?
本記事では、初心者向けに「機械学習モデル」の基礎知識を解説します。Pythonを用いて分類モデルや回帰モデルを活用するための第一歩を踏み出しましょう。
<目次>
機械学習とは?AI技術の一種
・機械学習の分析手法「教師あり学習」と「教師なし学習」
・機械学習5つの特徴
機械学習の開発に使用されるプログラミング言語
・機械学習に最適なプログラミング言語はPython
・Pythonを使った機械学習で実現できること
「教師あり学習」に最適なモデルは「回帰モデル」と「分類モデル」
・回帰モデルとは?メリットとデメリットも解説
・カテゴリー分けには分類モデルが最適
「教師なし学習」に最適なモデルは「クラスタリング」と「主成分分析(PCA)」
・類似度に基づきグループ分けを行うクラスタリング
・主成分分析
機械学習とは?AI技術の一種
機械学習(Machine Learning)とは、コンピュータがデータから学習して、自動的にパターンやルールを見つけ出し、未来の予測や意思決定を行う技術のことを言います。
機械学習は人工知能(AI)の一分野として位置付けられており、従来のプログラムが「明示的に指示された手順を実行する」こととは異なり、機械学習では「データを基に自分で答えを導き出す」能力をコンピュータに持たせています。
本章では、機械学習の分析手法、特徴などについて詳しく解説します。
機械学習の分析手法「教師あり学習」と「教師なし学習」
機械学習は、データからパターンを学習し、新しいデータに基づいて予測や判断を行います。その手法は、大きく「教師あり学習」と「教師なし学習」の2つに分類されます。
厳密に言うと「教師あり学習」と「教師なし学習」の中間に位置する「半教師あり学習」などもありますが、本章では、「教師あり学習」と「教師なし学習」について解説します。
教師あり学習は、入力データ(特徴量)とその「正解」(ターゲットラベル)がペアになっているデータを用いて、モデルを学習させます。目的は、正解データをもとに新しいデータに対して正しい予測を行うことです。
一方、教師なし学習は、入力データに「正解」がない状態でデータの構造やパターンを見つける手法です。モデルは、データの特徴や潜在的な関係性を探索するために使用されます。
例えば、電子メールのスパム判定や工業機械の故障予測などは正解がわかっているため、教師あり学習が最適です。
また、画像認識や購買データの分析、自動車運転の開発などデータ内に存在する未知のパターンを見つけ出す場合は、教師なし学習が適しています。
機械学習5つの特徴
機械学習の主な特徴は次の5つです。
-
- 自動的に反復学習する
機械学習モデルは、データを用いてアルゴリズムを繰り返し学習し、精度を向上させます。これにより、新しいデータや条件が追加されても、モデルが適応して学習を続けることが可能です。 - データの分類や予測し意思決定する
機械学習は、膨大なデータを処理し、その中からパターンや傾向を見つけることで、分類や予測を行います。この結果を基に、ビジネスでの意思決定等をサポートします。 - 開発者がすべての動作を決める必要がない
従来のプログラムでは、すべての条件や動作を開発者が明示的に指示する必要がありました。しかし、機械学習ではデータとアルゴリズムを基に自動的に最適なモデルを構築するため、手動で詳細なルールを設定する必要がありません。 - 人間では難しい作業や複雑な問題でも正確な解析や予測が可能
人間は感覚的な判断が得意ですが、大量のデータや複雑なパターンを解析するには限界があります。一方、機械学習モデルはビッグデータや微細な違いを効率的に処理し、高い精度で解析や予測を行うことができます。 - 膨大なデータや複雑なパターンを高速に処理できる
従来の手作業やルールベースのシステムに比べ、機械学習は大規模で複雑なデータセットを短時間で処理する能力を持っています。これにより、大量のデータを扱う分野で大きな成果を発揮しています。
- 自動的に反復学習する
前述したように、判断する際の着目点についてはあらかじめ人間が決めておかなければなりません。一方で、実際の判断は決められたアルゴリズムによって反復学習するため、高速での意思決定が可能です。
また、人間は直感的な判断が得意ですが、複雑なパターンや膨大なデータを正確に解析することは苦手です。この点で、機械学習は人間が苦手とする部分を補完し、ビジネス分野では効率的な意思決定や予測を実現することが可能となり、非常に有用なツールとなっています。
機械学習の開発に使用されるプログラミング言語
機械学習モデルはプログラムによって作られています。開発に使用される主な言語は、以下のようなプログラミング言語が挙げられます。
- Python
- R
- Java
- Ruby
- SQL
- Hadoop
- C
- C++
- JavaScript
- PHP
上記のプログラミング言語のなかでも、もっとも需要の高い言語がPythonです。どうしてPythonの需要が高いのでしょうか。
機械学習に最適なプログラミング言語はPython
TIOBE指数では、2024年12月時点でもっとも人気の高いプログラミング言語がPythonだと発表されています。
TIOBE指数はプログラミング言語の人気度を示す指標として扱われており、Pythonはとくに機械学習やディープラーニングの分野においてよく利用されていることがわかります。
AI分野において、Pythonの需要が高い主な理由は以下の3点です。
- シンプルで読みやすい構文
- 強力なオープンソースコミュニティ
- 豊富なライブラリとフレームワーク
Pythonは直感的で簡潔な構文を持っているため、初心者からプロフェッショナルまで幅広い層が利用しやすい言語です。他の言語( C++やJava)に比べて短いコードで同じ処理を実現できるのが特徴です。機械学習のような複雑なテーマにおいて、コードが読みやすいことは開発の効率性を高めることにも繋がります。
また、Pythonのコミュニティは非常に活発なことも選ばれる理由の1つです。Stack OverflowやKaggleでは、オンラインでの質疑応答が充実しており、利用者が多いです。また新しいアルゴリズムや技術が素早くライブラリに実装されている点もエンジニアにとっては魅力的と言えるでしょう。
さらにPythonは、機械学習に特化したライブラリやフレームワークが充実しており、これにより機械学習プロジェクトを簡素化しています。代表的なライブラリでは、NumPy、Pandas、Matplotlib / Seabornなどがあります。また学習用ライブラリも充実しており、Scikit-learn、TensorFlow / PyTorch、Keras、XGBoost / LightGBMなどがあります。
Pythonを使った機械学習で実現できること
Pythonを使った機械学習では、主に以下のようなものが実現できます。
- 画像認識
- 音声認識
- 自然言語処理
- 異常検知
- ゲーム開発
- IoT開発
- Web上の情報収集
- 予測など
具体的な応用例としては、自動車の自動運転や顔認証、株価や仮想通貨の値動き予想、ブロックチェーン開発などです。また、YouTubeやInstagram、Pinterestなどの動画共有サービスや画像共有サービスもPythonで開発されています。
Pythonで開発したアプリケーションはOSの種類を問わないため、PCやスマートフォンなど異なったデバイスでも大きな仕様変更をせずに利用可能です。
機械学習の仕組みと6つのプロセス
機械学習の仕組みは、コンピュータがデータからパターンを学び、それをもとに新しいデータに対して予測や判断を行うプロセスです。
機械学習プロジェクトを成功させるためには、データを処理してモデルを作成するだけではなく、ビジネス目標の明確化やデータの理解も不可欠です。
したがって機械学習モデリングの一般的なプロセスは、大きく分けると以下の6つに分類できます。
- ビジネス理解/ゴール設定
ビジネスで解決すべき課題や達成すべき目標を明確にします。その上で、機械学習を導入することで、どのような効果が期待できるのかを検討し、評価指標(KPI)を設定します。 - データ理解
利用可能なデータ(例: 売上データ、顧客属性、気象データなど)を把握します。またデータの構造を理解するために、データの形式・特徴量(カラム)・欠損値などを分析する必要があります。「良いデータ」とは、正確で、一貫性があるデータです。この段階でデータが不足している場合、追加のデータ収集が必要になることもあるので慎重に作業を進める必要があります。 - データ準備と前処理
データ理解をもとに、機械学習モデルに適した形にデータを整えます。具体的には、データクレンジングと呼ばれる欠損値の補完、不正データの除去作業を行う必要があります。また数値スケールの正規化やカテゴリデータのエンコードを行う必要があります。その上で、特徴量エンジニアリングを行い新しい特徴量を作成し、モデルの性能向上を図ります。 - モデルの選択と学習
目的に応じたアルゴリズム(回帰や分類)を選び、トレーニングデータを使ってパターンを学びます。 - 評価検証
学習したモデルがどれだけ正確に予測できるかを評価します。回帰の場合には、平均平方誤差(MSE)や分類の場合には 正解率、F1スコア、ROC曲線などで評価することが可能です。 - 適用
モデルの予測精度を監視し、必要に応じて再学習します。モデルの結果が十分なものであれば、結果を用いて意思決定を行い、ビジネス価値を創出します。
機械学習のプロセスにおいてもっとも重要なポイントはモデリングです。モデリングの方法には「回帰モデル」「分類モデル」「クラスタリング」「主成分分析」などがあります。機械学習の目的によってモデルが異なるため、最適な手法を選択しなければなりません。
上記4つのモデルのなかでも、基礎となる方法が「回帰モデル」と「分類モデル」です。したがって、まずは「回帰モデル」と「分類モデル」の内容を最低限把握しておくことをおすすめします。
「教師あり学習」に最適なモデルは「回帰モデル」と「分類モデル」
教師あり学習は、すでにある正解となる入力データとそれに対する出力を用いてモデルを訓練することで、合理的に予測する方法です。
教師あり学習に最適なモデルとして、「回帰モデル」と「分類モデル」があります。それぞれについて詳しく解説しましょう。
回帰モデルとは?メリットとデメリットも解説
回帰モデルは、オブジェクトに関連付けられた連続値属性を予測する際に最適な方法です。つまり、統計的手法によって推計する方法ともいえます。
たとえば、「数字」や「順序」などを当てたい場合には回帰モデルが最適です。具体的な活用事例としては薬物反応や株価予想、機械の異常検知アプリケーションなど。数字を活用するような判断に利用されています。
回帰モデルのメリットは、主に以下の3点です。
- 数字を活用するため根拠を示しやすい
- グラフで表せるため視覚的に分かりやすい
- データがないところでも予測可能
一方、回帰モデルには以下のようなデメリットがあります。
- 専門的な知識が必要となる
- ビッグデータを手作業で扱う際にヒューマンエラーが起きやすい
回帰モデルによる機械学習を行う際には、メリットとデメリットを考慮する必要があります。
カテゴリー分けには分類モデルが最適
分類モデルは、オブジェクトがどのカテゴリに属しているかを判断するのに最適な方法です。
たとえば、動物の画像から「犬」や「猫」などの分類を当てたり、乗り物の画像から「自動車」「バイク」「自転車」などの分類を当てたりする場合に利用できます。
具体的な活用事例としては、スパム検出や画像認識のアプリケーションなどです。
分類モデルのメリットは、カテゴリー分けができる点です。一方、分類モデルにはデメリットもあります。分類モデルは回帰モデルが得意な数値予測といった連続値の予測ができません。
したがって、カテゴリーの分類が必要な場合には分類モデルを利用するべきです。
「教師なし学習」に最適なモデルは「クラスタリング」と「主成分分析(PCA)」
教師なし学習は教師あり学習とは異なり、正解となるデータを与えずに学習させる方法を指します。データに内在する隠れたパターンや固有の構造を見いだせるのが大きな特徴です。
正解か否かが明確でない場合に、一連の入力データから判定するために用いられます。教師なし学習で特に有名なモデルが「クラスタリング(clustering)」と「主成分分析(PCA)」です。それぞれの概要と活用方法を見ていきましょう
類似度に基づきグループ分けを行うクラスタリング
クラスタリングは、データを共通の特徴を持つグループ(クラスタ)に分ける手法です。これは、データ間の類似性や距離に基づいて行われ、クラスタ内のデータは類似性が高く、異なるクラスタ間では類似性が低いことを目指します。
クラスタリングでは、以下のようなアルゴリズムが一般的です。
- k平均法およびkメドイド
- 階層クラスタリング
- 混合ガウスモデル
- 隠れマルコフモデル
- 自己組織化写像
- ファジィc平均クラスタリング
- 減法クラスタリングなど
- アルゴリズムは目的に応じて選択する必要があります。
クラスタリングの主なメリットは、以下の3つです。
- 最適なターゲット市場を選択できる
- 競合との差別化を図れる
- 効果的にテストマーケットを選定できる
一方、計算量が多いため、ビッグデータの処理には不向きな点がデメリットになります。
主成分分析(PCA)
主成分分析は、次元削減を目的とした教師なし学習の手法です。高次元のデータを、情報の損失を最小限に抑えながら低次元空間に射影します。これにより、データの特徴を簡潔に表現できます。
主成分分析の主な特徴として、以下の3つが挙げられます。
- 高次元データの視覚化が可能
- ノイズの影響を低減し、モデルの性能を向上させることが可能
- データの相関関係を分析するのに役立つ
主なデメリットは以下の2点です。
- 各主成分の持つ意味は分からない
- 寄与率が低すぎて役に立たないこともある
寄与率とは、主成分がデータ全体を何%説明しているかを示すものです。扱うデータによっては、寄与率が低くなることがあります。
まとめ〜機械学習モデルを学んでビジネスを加速〜
本記事では、機械学習について詳しく解説しました。機械学習モデルは自動車の自動運転、顔認証、株価や仮想通貨の値動き予想などさまざまな分野で活用されています。今後はさらに活用される分野も増えるでしょう。
機械学習の開発言語としては、Pythonをおすすめします。その理由は、多くの人にとって理解しやすく、開発コミュニティがある点です。ぜひ、Pythonを使った機械学習モデルのアプリを作ってみてください。
機械学習モデルには「教師あり学習」と「教師なし学習」「強化学習」があります。基本の機械学習モデルは、「教師あり学習」に最適な「回帰モデル」と「分類モデル」です。
機械学習モデルは、サービスの品質向上や業務効率化に活用できます。さらに知識を深め、ビジネスを加速させる一助にしてください。