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効果音サウンドデザイン制作の
実践TIPS つまみ食い
株式会社バンダイナムコスタジオ
中西 哲一
2015/11/13
IGDA SIG-AUDIO #11
中西 哲一
なかにし てつかず
株式会社バンダイナムコスタジオ
サウンド&アニメーション部
ヘッドサウンドデザイナー
1996年ナムコ入社(現バンダイナムコスタジオ)
ACE COMBAT/RIDGE RACERシリーズを中心に、
コンシューマ、アーケード、モバイルなど幅広くタイトル開発に関与。
テクニカルサウンドデザイナとしてプログラマとの橋渡し役。
CEDEC運営委員 サウンド分野担当 (2011-2016)
最近関わったタイトル:
ACE COMBAT INFINITY, ドリフトスピリッツ, Star Wars: Battle Pod,
サマーレッスンデモ, リアルドライブなど
IGDA SIG-AUDIO #11
(自分の)効果音制作のスタンス
「すでにある」 「すぐ見つかる」
• ライブラリが充実している
• 選びやすい環境、蓄積しやすいルール
「すぐに作れる」 「楽に作れる」
• オーダーメイドに対応できる手段をたくさんもっておく
• バリエーションを作りやすい、修正に応じやすい
「サンプリング以外の手段も充実させたい」
• インタラクティブ性の高いものはリアルタイムシンセ化
• プロシージャルでバリエーション自動生成とか?
IGDA SIG-AUDIO #11
効率よくこなしたい
余った時間で
新しい表現手法を開拓したい
参考
(個人的祝!)
リアルタイムシンセ 「エンジンサウンド」 ついにリアルデビュー!
• スポーツ走行体感マシン『リアルドライブ』:東京モーターショー2015
https://www.youtube.com/watch?v=e7F4rNlpM5Y&feature=youtu.be
IGDA SIG-AUDIO #11
本日のメニュー
1. 「効果音の目的と要素分解」
必要とされる効果音をどのように捉え構成するかの考え方について
2. 「いくつかの効果音制作TIPS+実演」
シンセ効果音の作成を実演
3. 「ループについて」
ループポイントの見定め方や、ルーピングテクニックについて
時間があれば実践デモ
IGDA SIG-AUDIO #11
効果音の目的と要素分解
必要とされる効果音をどのように捉え構成するかの考え方について
IGDA SIG-AUDIO #11
効果音作り
答えは無限、解釈は自由
大切なのは 『目的』 を果たしていること
IGDA SIG-AUDIO #11
その音の目的を考える
役割: それは何を伝えるの?何のために?
状況: それはどんなシチュエーションで鳴るの?
優先度: それはどのくらい聞いてもらわないと困る?
この定義が提供するべき音の設計や作り方に大きく影響
IGDA SIG-AUDIO #11
目的によって落としどころが変わる
デフォルメ感をどのくらいにしようか?
大げさな表現 地味な
目立った ⇔ 馴染んだ
個性的・印象的 一般的
IGDA SIG-AUDIO #11
音に表情を加える
• 音楽だけではなく、効果音でも印象・感情の付加要素を加える
• 音程変化や付加音を加える
• 無機質であるべき音と、色があるべき音を使い分けよう!
IGDA SIG-AUDIO #11
ただの爆発音 断末魔感のある爆発音
例:危険を知らせる音
•それは何を伝えるの?何のために?
• プレイヤーの危険度を知らせる
• 回復、退避、必殺技発動などプレイヤーに何らかの次の行動を促す
•それはどんな状況で鳴るの?
• HPが20%を切った時、常に鳴っている
• 周囲では激しい戦闘状態、緊迫した音楽のシーンで発生しやすい
• 発生後に退避した場合、わりと静かなところでも鳴り続ける場合がある
•それはどのくらい聞いてもらわないと困る音?
• どんな時でも確実に認識してもらう必要がある
• しかし他の音(情報)が伝わらなくなるのも困る
IGDA SIG-AUDIO #11
仕様リストに書いてるのは緑文字だけだよ
役割・状況・優先度
例:危険を知らせる音
思考イメージ
• 世界観はややコミカルなので、音色をちょっとだけPOPな感じにしよう
• うるさい状況でも埋もれないように倍音多めな音にしよう
• 危険を感じさせる不協な響きと、緊迫する周期的なリズムでループさせよう
• 状況に入った直後は特に重要なので特徴的なアタックにしよう
• ずっと繰り返しているとうるさいので、しばらくしたら少し音量を下げよう
• HPが10%を切ったらさらにリズム周期を早める仕様を追加で提案しよう
IGDA SIG-AUDIO #11
仕様書に見えない
部分まで想像しよう!
インタラクティブサウンドの設計
1つの音に何レイヤー使う?
• ゲーム機のスペック(処理負荷、メモリ)
• 使用するサウンドミドルウェア
• その音のゲーム内での重要性
• 発生する頻度
• 同時に発生する個数
• 発生する状況の背景(他の音)
IGDA SIG-AUDIO #11
どれだけそれにリソースを
割いてもよさそうか?
同じ爆発音でも
1レイヤーのときもあれば
10レイヤーのときもある
インタラクティブサウンドの設計
インタラクティブ連動させるために使えるゲームパラメータは?
例:速度、エネルギー量、ダメージ量
パラメータで制御するためのレイヤーは?
あらかじめミックスできない要素でレイヤーを構成
繰り返し感を軽減するランダム性
Pitch, Volume ランダムだけで行けるか?
バリエーション波形を複数用意するか?
3D距離表現
距離減衰だけで表現できるか?
LOD(Level of Detail)で複数切り替えるか?
IGDA SIG-AUDIO #11
どこまで分解するか?
全部の音にこだわりすぎちゃうと
いろいろもったいないので、
こだわるべき重要な音を
絞り込もう!
設計に基づいた素材を集めよう
• 手持ちのライブラリやサンプリング素材集?
• フォーリーやフィールドレコーディング?
• シンセで作成?
• シンセをラインタイムで搭載?
• 誰かに依頼?
IGDA SIG-AUDIO #11
集める手段はいろいろ!
ProToolsで調理する?
WwiseやADX2で調理する?
距離感をいじる
• より遠距離にしたいならば・・・
• 高域をローパスフィルタで削る
• リバーブ感を深くする
• 別の音に切り替える
• より近距離にしたいならば・・・
• 低音を強調する
• EQで持ち上げる
• 別の低音レイヤーをさらに足す
• 密度感を上げる
• 質感のある音をレイヤーで加える
• アタック感を強調
• インパクト音を加える
IGDA SIG-AUDIO #11
あらかじめMIXしてしまうか、
ゲームでインタラクティブにMIXするか?
ちなみに遠距離よりも
近距離をこだわった方がいいよ
音を馴染ませる
ハイファイこそが正義ではない。あえて汚しも必要。
• 高域がありすぎて音浮くときはローパスフィルタで少し削る
• 適度な倍音があった方が馴染むので、倍音を足すときもある
• 少し歪ませる
• ノイズを加える
IGDA SIG-AUDIO #11
綺麗すぎる音は浮く
サンプリング音に
シンセ音をまぜるときなど
BGMにもノイズ
まぜるときあるよ
まあだいたい、こんなことを考えながら音作りをしています!
IGDA SIG-AUDIO #11
効果音制作TIPS+実演
シンセ効果音の作成を実演
IGDA SIG-AUDIO #11
Native Instruments MASSIVE
• ゼロから音を作る時に良く使う
• EnvやLFOをフレキシブルにアサインできる
• ノイズがいろいろ便利でおいしい
IGDA SIG-AUDIO #11
Spectrasonics Omnisphere 2
• リッチな響きの効果音を作るときに良く使う
• プリセットのサンプル音源が豊富なのがおいしい
IGDA SIG-AUDIO #11
どのシンセでも共通
1. オシレーター を組み合わせてさまざまな音を出す
2. アンプ エンベロープ で音長、輪郭、減衰を調整
3. ピッチ エンベロープや LFO で音程変化を作る
4. 必要なレイヤーを重ねる
5. フィルタやエフェクト で味付け
6. いろんな音程で鳴らしてみる。もし気に入ったら・・・
• シーケンサーにMIDIで記録
• オーディオとして記録
• Preset として記録・・・
IGDA SIG-AUDIO #11
実演デモ
IGDA SIG-AUDIO #11
気に入ったらSaveしておく
IGDA SIG-AUDIO #11
Save時にTAGをうまく付けておくと
音を探しやすい
IGDA SIG-AUDIO #11
独自のタグも追加
できる。例:UI
TAGはフィルタで絞り込める
IGDA SIG-AUDIO #11
ループについて
ループポイントの見定め方や、ルーピングテクニックについて
IGDA SIG-AUDIO #11
ループ・・・終わらない音
ループの不連続が目立たないこと
音量、音程、それぞれの周期
「感じても構わない周期」
「感じて欲しくない周期」
繰り返していることに気づかれない工夫
IGDA SIG-AUDIO #11
一般的なループ手段
• (ノーマル)ループ
• 単純にループポイントを置くだけ
• できるだけこれで済むことを目指そう
• クロスフェード・ループ
• ループさせたい所の周囲をクロスオーバーラップさせる
• 様々な帯域が混ざったノイジーな音に有効
• オルタネート・ループ
• ループ区間をリバースさせ、後ろにつなげることで連続した周期を作り出す
• 変化が一方通行、ループできそうな区間が短い場合に有効
IGDA SIG-AUDIO #11
ループポイントの探し方
• とにかく選ぶ素材と場所が重要
• 全帯域に対して、音量ムラの少なさ、音程(周期)の安定性
• まずは大まかに当たりをつける
• オーバービューで視覚化した波形を見ながら音を確認
• 音のうねりの少ない場所
• ループチューナーは使わない(自分は)
• 拡大しすぎなので長いうねりが見えない
IGDA SIG-AUDIO #11
ループポイントを目立たせないために
基本中の基本 『ゼロクロス』
• その名の通り、音量ゼロをまたぐ場所にループポイントを置きましょう
IGDA SIG-AUDIO #11
ループノイズを目立たせないコツ
モノラルで構わない音はさっさとモノラル化する
• マルチチャンネルのままだと全チャンネルの位相を考えないといけないし
IGDA SIG-AUDIO #11
しかし!
ステレオループが必要なことが多い!
• 片チャンネルだけならまだしも、左右とも綺麗に繋げるとなると大変
• そこで細かいコツの積み重ねで
『ループノイズが目立たない』 を達成たい!
IGDA SIG-AUDIO #11
ループノイズを目立たせないコツ
音量が小さい場所を選ぶ
• 音量的な周期がある音の場合、小さい部分を選ぶ
• 不連続ができても多少は目立ちにくい
IGDA SIG-AUDIO #11
振幅が大きいと
ころよりも・・・
振幅が小さい
ところ
ループノイズを目立たせないコツ
• 左右ともゼロクロス。位相がだいたい合っているところ。
IGDA SIG-AUDIO #11
左右の位相が
大きく異なる
こっちの方が
合っている
ループノイズを目立たせないコツ
• 左右の位相の多少のズレはペンで書く
IGDA SIG-AUDIO #11
ループノイズを目立たせないコツ
なめらかで傾きがゆるい場所を選ぶ
• 多少のポイント合わせが甘くても目立ちにくい
IGDA SIG-AUDIO #11
急なところ
よりも・・・
緩いところ!
ループノイズを目立たせないコツ
• あからじめ支障になりそうな「ノイズ」や「うねり」は削除しておく
iZotope RX がオススメ!
IGDA SIG-AUDIO #11
ループノイズを目立たせないコツ
時には、あえてノイジーな場所に置く
• ループノイズが目立ちにくいのでごまかせる時がある
IGDA SIG-AUDIO #11
音楽の場合
• クラッシュシンバルやスネアドラムの根本(鳴る直前)
• 多少の段差ができても掻き消してくれる
IGDA SIG-AUDIO #11
ノイジーな部分なので
目立ちにくい
音楽の場合
• 2周目少し先に戻す
• 後半のクライマックスから、序盤の抑えているところに戻ることが多い
その場合、クライマックスの残響が残っていることもあるので、
そこを少し超えたところでループさせる
IGDA SIG-AUDIO #11
ここが本来の
Aパートに
戻ったところ
クライマックスの残響
が消えたあたりで
ループさせる
実践デモ:
難易度の高いループに挑む
IGDA SIG-AUDIO #11
RX4 でノイズ取り
IGDA SIG-AUDIO #11
POPノイズが見える!
範囲を選んで
Spectra Repair /Pattern で消す
IGDA SIG-AUDIO #11
うねりは Spectra Repair / Replace
IGDA SIG-AUDIO #11
その他
• ループ範囲はどのくらいの長さにする?
• 最近は、まず十分長さを確保してます。必要に迫られたら短くします。
• ループエンド以降のデータはどうする?
• ある程度は残しておきます。あとでまたいじることもあるので。
• オーサリングツールやエンコーダーによって、ループエンド以降のデータが
どう扱われるかを調べておきましょう。必要ならば削ります。
IGDA SIG-AUDIO #11
おしまい
IGDA SIG-AUDIO #11

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