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2024.12.19

渡辺将人総合政策学部准教授が第46回「サントリー学芸賞」を受賞

渡辺将人総合政策学部准教授が、第46回「サントリー学芸賞 社会・風俗部門」を受賞しました。
公益財団法人サントリー文化財団は、広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動を、著作を通じて行った個人に対して、「政治・経済」「芸術・文学」「社会・風俗」「思想・歴史」の4部門に分けて、毎年「サントリー学芸賞」を贈呈しています。
1979年の本賞創設以来、第46回(2024年度)までの受賞者は387名を数え、これらの受賞者の業績は、主題への斬新なアプローチ、従来の学問の境界領域での研究、フロンティアの開拓などの点で高く評価されています。第46回は2024年12月9日に都内で贈呈式が開かれました。

受賞著書

台湾のデモクラシー : メディア、選挙、アメリカ
渡辺将人著

言語の本質_書影

渡辺将人准教授の受賞者挨拶(贈呈式)

この度は大変名誉な賞をいただきまして誠に有難うございます。今年は、本書とも補完的関係にある『アメリカ映画の文化副読本』という本も上梓させて頂き、同姓同名の映画評論家と台湾研究者とアメリカ研究者が別々に存在するのか、アメリカ政治研究を幕引きしたのか、等々様々な戸惑いのお声も頂戴しました。しかし、本書こそアメリカ研究にして台湾研究であり、地域研究の中に別の地域研究があるという意味でも、 映画も台湾もある種の「原点回帰」でございました。この越境的試みをご評価いただいたことに深く感謝申し上げます。

すべてを繋ぐ接点は「選挙」、その中にある「メディア」でございました。選挙とは面白いもので、平時には見えないアイデンティティや対立があぶりだされます。それらがむき出しになる選挙区対応を早い段階に現場で経験できたことで、私のような凡才がどれだけ現地に長く滞在しても見えないものを可視化する手がかりが得られました。

保守かリベラルか、緑か藍か、という分断社会では、当事者ではないことは「観察上の強み」になることがあります。アメリカは誠に多様な社会ですが、エスニック集団同士は実に蛸壺的で他の集団の内側のニュアンスには理解が及びにくい逆説性もあります。言語も宗教も多様なアジア系はその典型例で、アメリカの分断の中に台湾の分断が二重に持ち込まれています。台湾政府による人口統計には漢民族が95%以上、それ以外では先住民である原住民に加えて新住民しか記載はなく、漢民族の内訳/割合まで記しません。客家に関しては別の調査もありますが、要は政府としてそこには判断を示さない、本人の「名乗り」「アイデンティティ」に任せる、尊重することが台湾の複雑な事情をむしろ反映しているとも言えます。こうした異なる文脈における多様性に対する想像力では、アメリカ流の国勢調査分類からの連想が逆に妨げになることもあります。その相互の誤解と向き合うことが、華人社会やタイワニーズと私の四半世紀に及ぶ関係でもありました。

折しも東アジアでは同じく民主化を経験している韓国が揺れ動いていますが、台湾にとっても「戒厳令」という言葉は他人事ではない記憶と結びつきます。アジアのデモクラシーが踏ん張れるのか、本書がそうした議論を深める契機にもなればと願っておりますし、翻訳版で中国語圏の皆さんにもお届けできることをその意味でも嬉しく思います。本書にはアメリカ篇の原稿の全てを盛り込めませんでしたが、引用できなかったものの参考になった米台取材先も記載しました。また、私はある種の「あとがき作家」といいますか、今回もあとがきには特別な想いを込めましたので、どうぞご多忙な方は末尾からでもご笑覧いただいても、これまた著者冥利に尽きます。本書がこの種の新しい研究の広がりに繋がればと願いながら、お礼の言葉とさせていただきます。大変有難うございました。

渡辺将人准教授のコメント

「三田評論」(2024年8・9月合併号)でも記しました通り、日本の政治学・地域研究を牽引する慶應義塾で、学際研究の最先端SFCから本書を世に問えるご縁は誠に光栄至極です。本書は狭義のアメリカ政治とアジア政治、比較政治学と地域研究を横断する研究ですが、デモクラシー研究、メディア研究をめぐる新しい総合政策学の「知」を湘南藤沢キャンパスの同僚の皆様と渡辺将人研究会と共に発信していく端緒としたく存じます。

サントリー学芸賞 受賞者一覧・選評
サントリーニュースリリース「第46回 サントリー学芸賞決定」
台湾のデモクラシー : メディア、選挙、アメリカ(慶應義塾大学KOSMOS)
渡辺将人総合政策学部准教授 教員プロフィール

発信元:湘南藤沢事務室 総務担当