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2024.11.05

アーバンリビングラボを拠点にした共創的まちづくりの展開|環境情報学部長補佐 厳 網林

この記事では、厳研究室が参画したアーバンリビングラボを報告し、GISを基軸にしたデジタル技術による共創的まちづくりのアプローチとその展開を報告します。

共創的まちづくりへの参加
現代都市は人口集中、交通渋滞、気候変動対応、持続可能な居住など、さまざまな複雑な課題を抱えています。これらの問題は、いろんなステークホルダーが関与するため、学術研究だけで解決策を見出すことは難しいと考えられます。まちづくりは、地域の多様な主体が協力し、共創的なアプローチを採ることで解決策を模索することが多い。アーバンリビングラボ(ULL)は共創的まちづくりの拠点として、世界的に注目されています。

ULLは都市を「生きる実験室」として、政府、企業、研究機関、コミュニティ、市民が一緒に製品やソリューションを企画、設計、実験するためのプラットフォームです。最初は1990年代にアメリカで生まれましたが、その後北欧、そしてグローバルに広がり、いまは世界に400以上設立されていると言われています。日本にも2000年代後期に最初に藤沢市に設置され、その後、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センターが「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」、経済産業省が「ヘルスケア」に関連する活動をULLとして取り入れました。

ULLのモットーは「Co-Design」「Co-Produce」「Co-Delivery」です。まちづくりの中では、商品の企画やテストに加え、都市再生や生活環境の整備、Well-Beingの向上といったソフト面の取り組みも含まれます。Living Lab 鎌倉、東急WISE Living Lab、東京建物シティラボなど、その事例にあたります。

厳研究室は、JST/Belmont Forum国際共同研究事業「持続可能な都市化に向けてのグローバルイニシアチブ―食料・エネルギー・水のネクサス」(SUGI)の一環として、2018年から東急WISE Living Labに参加し、食料・エネルギー・水のネクサスを通じて、東急WISE Living Labの共創プロジェクトに参加し、郊外まちの脱炭素化と持続可能性を共同で研究してきました。この活動実績をもとに、2024年6月15日に横浜市青葉区で、日本環境共生学会第27回地域シンポジウム「住み続けられる郊外まちの共創」を企画・開催しました(図1)。80名の方々が参加され、共創的まちづくりの進め方を共有し、学び合う機会となりました。


GISによるまちづくり手法の開発
SFC研究所は、地域まちづくり団体からの要請を受けて2018年に品川区大井町駅近くに「みらいのまちをつくる・ラボ」を設立しました。このラボでは、大井町を拠点にして、環境、建築、都市計画、テクノロジー、コミュニティといった複合的な視点から、未来のまちづくりを実践する研究プロジェクトを展開しています。

大井町は、品川副都心へひと駅、羽田空港までは20分、郊外の住宅地へも20分程度という好立地にあり、東京の玄関口として重要な役割を果たしています。JR東日本が広町地区に巨大オフィスビルを建設し、2025年度末に開業予定です。それによって同地域は南東京エリアのビジネス拠点へと変貌すると予想されます。それでも、地域には子育て世代を含む地元住民が昼間人口の半数を占めています。一方、大井町駅前には生活関連商業施設が多く集まっていることから、同地域は生活の拠点としても重要な役割を果たしていることが伺えます。

「みらいのまちをつくる・ラボ」で、厳研究室はSDGs.11の実現に向けて、住みやすく働きやすい都市環境の整備に取り組んでいます。特に、歩行環境やバリアフリー環境の改善を重視し、GISを活用した参加型まちづくり手法の開発に力を入れました。この手法は、観察、点検、測定、デザイン、情報共有に沿った形で、デジタル技術を活かした共創的まちづくりの展開を支援するものです。「みらいのまちをつくる・ラボ」で、厳研究室はSDGs.11の実現に向けて、住みやすく働きやすい都市環境の整備に取り組んでいます。特に、歩行環境やバリアフリー環境の改善を重視し、GISを活用した参加型まちづくり手法の開発に力を入れました。この手法は、観察、点検、測定、デザイン、情報共有に沿った形で、デジタル技術を活かした共創的まちづくりの展開を支援するものです(図2)。

新型コロナウイルスの影響で一時期対面活動は制限されましたが、オンラインワークショップや少人数での現地活動を通じて、活動を続けてきました。


フーチャーシティデザインスクールへの発展
まちづくりの主役は地元住民や企業、事業者です。一方、大学が持続的に参画するのも意義が大きい。教室での教育活動とリビングラボでのまちづくり実践を結びつけることで、知識の蓄積と伝承が進みます。また、エビデンスに基づいた科学的な検証とサポートが行われ、デザインワークショップや住民ワークショップを通じて、より高いレベルの研究と実践が可能になります。

このたび、東京都から「令和6年度地域を主体とするスマート東京先進事例創出事業」という公募があって、SFC研究所が品川区、NPOまちづくり大井と一緒に、「デジタルエリアデザインin大井町〜歩きやすいまちから歩きたくなるまちへ」をテーマに提案し、採択されました。

これを受けて、大井町を活動拠点に、コンソーシアム「フューチャーシティデザインスクール」(FCDS)を設立しました。FCDSでは、まちづくりの理論と実践を学び、都市空間のウォーカビリティを高め、未来型のまちづくりモデルを提案していきます。また国土交通省の「まちなかウォーカブル推進プログラム」や3Dデジタルシティプロジェクト「Plateau」、東京都データプラットフォーム(TDPF)とも連携して、研究成果を後半に広げていくことを目指しています。(図3)


以上、厳研究室が関わったアーバンリビングラボの3つの事例を参画、開発、展開という3つの段階を踏んで、紹介しました。SFCにおいて多くの研究室がこういった実践的教育・研究のアプローチを取り入れており、それぞれ優れた方法と実績をお持ちと思います。研究会、発表会など、そういった交流の機会を通して学び合い、SFCらしい共創的アプローチの方法論へ発展できるよう期待します。

厳網林 環境情報学部長補佐/環境情報学部教授 教員プロフィール