本誌2022年5月号で、白河市の結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」の経営者が奇妙なM&Aで突然代わったことを報じた。同式場は昨年11月から営業を停止。不動産が金融機関で競売にかけられ、市内外の3社に売却されていたことが分かった。
2024年3月号 【鹿島ガーデンヴィラ】「奇妙なM&A」の顛末
2024年5月号 【ルシアンホールディングス】事件屋に乗っ取られた「鹿島ガーデンヴィラ」
不動産が市内外の4社に競売で売却
鹿島ガーデンヴィラ(以下、鹿島ガーデンと略)は元白河商工会議所会頭・和知繁蔵氏が創業した老舗の結婚式場。繁蔵氏が第一線を退いたあとは長男・裕幸氏が引き継ぎ、婚礼、宴会、会合などの会場として市民や政財界人から利用されてきた。
そんな鹿島ガーデンに異変が起きたのは2021年10月。運営会社の㈱ピーアンドケーカンパニーから和知裕幸社長ら役員が一斉に退き、新たに代表取締役=福地一信氏、取締役=佐々木辰尚氏、廣田彰人氏、会計参与=税理士法人明清が就任したのだ。
このころ、結婚式場はコロナ禍で経営が危ぶまれ、ピーアンドケー社も赤字決算が続いていた。そうした中で県外に住所を置く人たち(※)が突然経営に入り、取引先にさえ役員変更を一切知らせなかったため、市内では奇妙なM&Aという見方が浮上。「和知家から福地氏らに急ぐように株式が売られたようだ」との話も漏れ伝わった。
※福地氏と明清は茨城県水戸市、廣田氏は神奈川県横浜市に住所がある。
当時、記者が和知裕幸氏に話を聞くと「ピーアンドケー社は私の手から離れており、あれこれ言うのは控えたい」とコメントしたが、新経営陣に関するデータを集めると不可解な事実が次々と明らかになった。
詳細は2022年5月号の記事「白河・老舗結婚式場で不可解な役員交代」に譲るが、簡単に言うと
①福地氏は東京都千代田区の不動産業㈱ルシアンホールディングスで代表取締役を務めているが、同社が設立されたのは福地氏がピーアンドケー社の社長に就いた直後だった。
②ルシアン社の取締役には前出・佐々木氏と廣田氏、会計参与には明清が就いている。
③本誌が調べただけで、同じ顔ぶれが役員に就いている会社が栃木、神奈川などに複数あった。
④これら企業群を束ねているのは廣田氏とみられる。
⑤企業群の業種を見ていくと不動産業、土木業、ホテル業、マンション管理業、食品輸出入業で、結婚式場の運営実績は見当たらない。
ただ、鹿島ガーデンの従業員によると「福地社長が『山形県内の結婚式場を買収した』と言っていた」というから、これから運営実績を築こうとしていた可能性もある。
とはいえコロナ禍で苦戦し、借金も残っていたはずの結婚式場をなぜ買収し、どう立て直すかは非常に興味深かったので、記者は当時、廣田氏や福地氏に電話やファクスで取材を申し込んだが、一切返答はなかった(メールはアドレス不明)。
関係者によると、社長の福地氏が鹿島ガーデンに来ることはほとんどなかったという。ただ、コロナが落ち着くと宴会や会合が入るようになり、従業員同士で現場を切り盛りしながら運営を続けていたという。給料はきちんと支払われていたようだが「次第に遅配・欠配するようになっていた」との話も聞かれた。
「宴会や会合で入ってきた売り上げは会社の通帳に入金せず、従業員が手元に現金で置いていたという。入金すると廣田氏や福地氏に押さえられ、取引先への支払いに影響が出る恐れがあったからです」(関係者)
そうやって細々と営業を続けていた鹿島ガーデンだったが、昨年11月末に突然営業を停止したのだ。
白河商工会議所の関係者が言う。
「会議所でも会合などで世話になっていた。従業員が今どうしているかは分からない。この間、新しい役員に会ったこともない」
2月上旬、鹿島ガーデンを訪ねると自動ドアは全て閉ざされ、建物内に入ることはできなかった。
不動産登記簿を見ると、2022年5月号でリポートしたあとに新たな動きがあったことが確認できた。ピーアンドケー社や和知繁蔵氏の名義になっていた土地建物が金融機関から差し押さえられ、競売で売却されていたのだ。
不動産登記簿によると、2022年6月から10月にかけて、担保権者の東邦銀行、福島銀行、白河信用金庫が差し押さえ、福島地裁郡山支部で競売開始決定。23年6月から11月にかけて栃木県大田原市の㈱日興商事、群馬県伊勢崎市の合同会社再開発機構、白河市の丸昌不動産㈲にそれぞれ売却されていた。
また、肝心の鹿島ガーデン本体の土地建物は2022年8月に福島銀行、同年10月に白河信金が差し押さえ、同地裁で競売開始決定。今年1月に白河商議所の鈴木俊雄会頭が社長を務める㈱アクティブワンに売却されていた。
「駐車場は更地なので手をかけずに新たな使い道を検討できるが、建物があるとリニューアルして再開するのか、解体して別の建物を建てるのか、いずれにしても余計なお金がかかってしまう。話によると、鹿島ガーデン本体も最初の競売では買い手がつかず、金額を下げて行われた二度目の競売でも買い手が現れなかった。さらに金額を下げた三度目の競売で鈴木会頭が買ったそうだ」(市内の事情通)
2月中旬、再び鹿島ガーデンを訪ねると車が数台止まっており、作業着姿の男性2人が話し込む姿があった。声をかけるとアクティブワンの社員だった。
「そのまま使えるのか、修繕が必要なのか、業者と一緒に建物内を確認していたところです。建物は今後どうなるのかって? 私は一社員なので分からない。詳しくは社長(鈴木会頭)に聞いてほしい」(社員)
会議所にアポイントをお願いしたが調整が難しいと言うので、アクティブワンのホームページから鈴木会頭に取材を申し込んだが、期限までに返答はなかった。
「鈴木会頭は、大きな会合を開ける会場が市内に少ないという理由から鹿島ガーデンを復活させたいようです。『和知繁蔵さんには大変世話になった』と個人的な思いもあるようだ。ともかく、会頭として市全体のことを考え、身銭を切った形です。市や金融機関から、鈴木会頭に『何とかしてほしい』と相談がいっていた可能性もある」(前出・事情通)
「真の目的」は不明
ちなみに鹿島ガーデン本体の南西側の駐車場は前述・丸昌不動産が取得したが、十文字光伸社長は「(鈴木会頭が)施設を再開させるなら引き続き駐車場として使っていただきたい。何年も動きがなければ宅地開発を考えたい」と話している。本体の南東側の駐車場は前述・再開発機構が宅地として一括で売りに出している。
気になるのはピーアンドケー社の今後だ。法人登記簿を見ると役員は前述・福地氏らで変わっていない。不動産が競売にかけられたということは金融機関への返済が滞っていた証拠で、経営破綻したと考えるのが自然だろう。廣田氏や福地氏に話を聞けないか、前述・ルシアン社や関連企業に電話したが、すべて不通だった。
結局、何の目的でピーアンドケー社を買収したのかよく分からない。あらためて和知裕幸氏にも取材を申し込んだが「私は何も知らない」と断られた。
そうした中、廣田氏らが買収したとされる山形県新庄市の結婚式場の元役員に話を聞くことができたが、元役員いわく「廣田氏らは元経営者を連帯保証人から完全には外さず、借金の一部を負わせているが、自分たちが金融機関に返すべき分は返している。結婚式場は借地に建っているが、地主には地代も払っている。ただ、結婚式場はずっと閉まったままで、何の目的でM&Aを仕掛けてきたかは未だに分からない」。
廣田氏らの「真の目的」は謎のままである。