中日の某主力選手に確認したら、やはり同じ意見だった。
「実感として少ないですよね。去年と比べて。空席が目立っているのは、試合直前のセカンドアップのときに感じますよね」
ナゴヤドームの観客の入りの話である。ところが、今季のドームの平均観客数は、9月1日現在で3万280人(小数点以下切り捨て)で、昨年の2万9033人を上回ることは確実という。
今季の戦いぶりと、空席の目立つドームに足を運んだことのある方は、『ウソだろ!』と叫びたくなるはずだ。数字のからくりがある。シーズンチケットがどんな形であれ売れれば、実際観戦に来ていなくても実数としてカウントされる。
この数字の報告を受け、中日球団の上層部が「ファンから支持されている」と考えるなら、笑止千万であろう。
一方、快進撃を続ける広島である。本拠地のマツダスタジアムのチケットは連日完売が続く。9月1日現在で1試合平均が3万234人。これでも、中日の観客動員数より低い。キャパシティの違いがあることは認めるが、明らかに違和感がある。さらにファンの温度差は、説明するまでもないだろう。
「強いからでしょ」
そういう声もドラゴンズの球団内部から聞こえるが、この球団とファンの一体感は、一朝一夕に形成されたわけではない。そこには、球団と選手の地道な努力がある。
マツダスタジアムで恒例となっているファンの楽しみがある。勝った試合のヒーローとの写真撮影会。これは2004年の球界再編のときに、球団消滅の危機に立たされた球団と、黒田や新井の選手会が話し合いの場を持ち、『自分たちにできることはないか』と、お互いが歩み寄り、今はなき、市民球場で始められた新たな試みだった。
それだけではない。今年は、新井の2000安打のカウントダウンで、残り数字をあしらったTシャツ販売で盛り上がった。だが、2005年にすでに兆しはあった。この年、前監督の野村謙二郎が大台に向けて、カウントダウン。野村は、球団担当者にこんな提案をしたという。
「私事なんだけど、みんなでお祝いする仕掛けができないですか」
考え出されたのが、元祖カウントダウンTシャツだった。1安打減るごとに、Tシャツに数字をアイロンプリントして、その都度、球場で限定数を抽選で配布したという。発案者の野村もすごいが、それに応えた球団職員の心意気には、拍手を送りたくなる。
そんな熱意が、今の中日球団に、選手にあるだろうか? ちなみに、その年まで、広島は7年連続でBクラスに低迷。今の中日と比べるまでもなく弱かった。しかし、ファンは見捨てず、選手に声援を送り続けた。『弱いのは俺たちの責任』と歯を食いしばってバットを振る選手がいたからだ。ファン目線で、野球と向き合ってきた選手がいたからだ。
残念ながら、今の中日にそんな熱を感じる動きは少ない。お家騒動に愚痴をこぼし、現実に目を背けているだけでは、ファンは確実に球場を離れていくであろう。(長谷川稔)