クレジットカード会社などに「VISA」ブランドを提供するビザ・ワールドワイド・ジャパンは18日、「キャッシュレス決済」に関する戦略発表会を東京都内で開き、銀行口座から即時決済する「デビットカード」の国内の発行枚数を今後3~5年で5倍にし、決済の取扱高も6倍に増やす計画を明らかにした。安渕聖司社長は「支払いの世界の明日をつくっていきたい」と述べた。
現金で支払う習慣が根強い日本では、キャッシュレス比率は約20%と世界的にみても低水準だが、外国人観光客の増加などを受け、取り組みを強化する。
同社によると、日本では5千円以下の決済は今も9割以上が現金という。一方、同社のアンケートでは77%の人が、「小銭がかさばる」「レジに長蛇の列ができる」などといった理由で現金決済にストレスを感じているといい、キャッシュレス化が広がる土壌はあるという。
その上で、今後はデビットカードによる決済を増やしていくと表明。指輪や時計、手袋型などのウエアラブル端末をかざすだけで決済できる仕組みにも力を入れるほか、個人間の送金を可能とするような決済手段なども提案していく方針だという。
五輪でインフラ整備
ビザ・ワールドワイド・ジャパンが新たな戦略を示すなど、日本でも「キャッシュレス化」が加速する機運が高まってきている。経済産業省も今月11日に現金以外の決済比率を80%に引き上げることを目指す提言を取りまとめるなど本腰を入れ始めたが、まだ統一的な取り組みにはつながっておらず、“後進国”から脱却するには課題も残されている。
機運が高まっている最大の要因は2020年東京五輪・パラリンピックの開催だ。海外の多くの国ではキャッシュレス決済が一般的で、外国人の受け入れに決済のインフラ整備は不可欠だからだ。
日本の決済比率18%
経産省によると、15年の時点で各国のキャッシュレス比率を比較した場合、韓国が89・1%、中国が60%、カナダが55・4%だったのに対し、日本は18・4%にとどまる。現金を好む国民性▽偽札の流通や盗難被害が少なく、現金への信頼性が高い▽ATM(現金自動預払機)の普及で現金が簡単に引き出せる-などが主な理由だ。
ただ、各国がキャッシュレス化を推進するのは利便性の問題だけではない。現金を取り扱うことで発生する経済的な損失は小さくなく、国内の現金の流通や管理にかかる費用は年約8兆円という試算もある。資金の流れが追いやすくなるため、犯罪抑止や脱税防止に役立つことも期待されているのだ。
「統一的な仕組みを」
このため、民間でも三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクは、2次元バーコード「QRコード」の決済について、規格統一やシステム開発で協力する方向で議論を進めているほか、楽天や無料通信アプリのLINE(ライン)などIT大手もQRコード決済の普及に乗り出している。
ただ、キャッシュレス決済に詳しい野村資本市場研究所の淵田康之研究理事は「キャッシュレスを普及させるには統一的な仕組みが不可欠だ」と話す。さまざまなサービスが乱立する状況では、利用者の利便性は高まらないためで、「国などが主導することが必要」と指摘している。(蕎麦谷里志)