今夏の東京五輪・パラリンピックを成功させるには、大会の安全確保が欠かせない。そのためにも、主役である選手を新型コロナウイルスの脅威から守る必要がある。
政府が日本代表選手を対象に、ワクチンの優先接種を認める方向で調整しているのは、妥当な判断といえる。
選手には早めに接種を受けてもらい、感染リスクを下げた上で大会を迎えるのが望ましい。
欧米では選手への接種が進む一方で、ワクチンの確保さえままならない国・地域もある。海外の全選手が接種を受けて来日することは期待できない。
加えて、感染力や重症化リスクの高い変異株が世界的に猛威を振るっている。海外選手と接触の機会が多い日本の選手らにとって、心理的な負担は大きく、本番での競技に響きかねない。
大会組織委員会はワクチン接種を前提としない開催準備を進めており、選手らは滞在する選手村で隔離状態に置かれる。選手のワクチン接種は、大会の安全性をより高める安全弁になるだろう。
東京大会に出場する選手らの行動規範をまとめた「プレーブック(ルールブック)」では、少なくとも4日に1度の検査を義務付けるほか、選手村外での飲食や施設の訪問、公共交通機関の利用などを禁じている。
二重三重の対策を講じた上で開催される五輪だということを、国民は理解しておきたい。
7月23日の五輪開幕まで100日を切っている。遅くとも、6月下旬までには2回目の接種を終えている必要があり、結論を急がなければならない。
死亡リスクの高い高齢者より、選手を優先させることには、批判もあるだろう。だが、コロナ禍収束後の社会を見据えれば、東京五輪開催の意味は大きい。大会の運営ノウハウは、スポーツイベントにかぎらず今後の社会、経済活動の新たな指標になるはずだ。
競技現場や選手村での感染リスクをゼロに近づけることは、大会期間中の医療従事者の負担を減らすことにもつながる。
政府や組織委は、選手の優先接種が反対論をあおらぬよう情報発信に努めるべきだ。スポーツ界も罪悪感を持つ必要はなく、胸を張ってほしい。東京五輪・パラリンピックは世界にとって、十分に意味のある大会だからだ。