最高裁は10月25日、戸籍上の性別を変更する上で生殖機能の喪失を要件にした性同一性障害特例法の規定を憲法違反と判断した。いわゆる「手術要件」を巡り、性同一性障害の人々でも「過酷な断種手術で人権侵害」と撤廃を訴える声や、「手術を受けることで女性として社会に受け入れられた」と堅持を求める声で割れている。見過ごされがちなのが、市井の女性の権利だ。性別変更を法的に可能にした特例法自体に反対を唱える女性有志「女性の権利と尊厳を取り戻す会」の青谷ゆかり共同代表は「男性は女性にはなれないはずだ」と訴える。
──特例法の廃止を訴えている
「要件を満たしても、骨格など体のつくりや遺伝子は男性と女性で異なる。男性器がなくても生物学的な男性と、トイレや銭湯、脱衣所、女子大など女性限定のスペースで望まぬ共有を強いられることに羞恥と恐怖を感じる女性がいることを知ってほしい」
《特例法は平成16年に施行された。複数の医師から性同一性障害の診断を受けた上で、家事審判を経て性別変更するためには、①18歳以上②結婚していない③未成年の子がいない④生殖腺がないか生殖機能を永続的に欠く状態⑤変更後の性別の性器に似た外観を備えている─の五つの要件を満たす必要がある。③は施行当初、「子供がいない」だったが、平成20年、現行の要件に緩和された》
「施行以降、特例法は要件が撤廃される方向に向かっている。最高裁は今回、④の要件も違憲とした。最終的に自己申告に基づき性別変更を可能とする『ジェンダー・セルフ・ID制』になるのではないか」
──特例法の廃止を掲げ、街頭でデモ活動を行っている
「デモの経験がなかった女性たちが手弁当で声をあげている。中には過去に男性から性加害を受けた人もいる。私もSNS(交流サイト)でLGBT関連の情報に接し、関心を持つようになった。最初はトランスジェンダーの女性が自身を女性と主張するならいいじゃない、と思っていた。でも、トランス女性の中には、女性に性的指向が向いたまま、女性トイレや女湯で撮影した自身の痴態などをSNSに投稿する人がいることを知った」
──どのような投稿なのか
「女湯の入浴体験のレポートを女性客の体を揶揄した表現を用いながらSNSに投稿し、『おっぱい天国』などと女湯を表現するトランス女性もいる。一般に女性はそんな言い方をしない。男性ならではの表現だ」
「男性が女性用の服を着て、メイクをするのは個人の自由だ。ただ、男性はあくまでも男性で、女性にはなれない。生物学的男性が女性スペースを利用することには明確に線を引くべきだ。学校や職場など公共トイレは今でこそ男女別が当たり前だが、昭和の時代は違った。女性専用のトイレは先人が勝ち取った権利でもある」
《青谷氏らが10月中旬に東京都内でデモを実施した際、参加者が何者かに付きまとわれたり、無断で動画を撮影されたりした。同下旬のデモでは青谷氏らに抗議する集団が現れ、「トランスヘイトを振りまくな」「帰れ、帰れ」など罵声を浴びせた》
──デモ活動が「トランスジェンダーへのヘイトスピーチだ」と批判される場合もある
「そもそも『トランスヘイト』の言葉が何を指しているのかが分からない。トランス女性に女性スペースに入らないでほしいと主張することは、トランス女性に対する差別なのか。市井の女性の不安を訴えているだけだ。論理が飛躍している」
──性別適合手術を経て戸籍を女性に変更したトランス女性が手術要件の堅持を訴える声もメディアで取り上げられるようになった
「最近までトランスジェンダーの権利を過度に主張する人々の声ばかりが報じられていた。それに比べれば前進だが、市井の女性の声をもっと聞いてほしい。性別適合手術などを経て男性器を無くせばいいではないか、という空気があるが、性器だけが男性と女性の違いを分けるものではない。政治は女性の不安を切り捨てないでほしい」