紆余曲折を経て2022年に就任した3代目社長がICT活用による不退転の業務改革を進め、住まいのこれからの「基本性能」を追求する 白石建設(群馬県)
2024年11月18日 06:00
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地元で80年近く木造戸建て住宅の専門メーカーとして堅実に事業展開してきた株式会社白石建設は、人口減や戸建て住宅需要の減少など厳しい経営環境の中、住宅フランチャイズを展開するエースホームに加盟。これまでの個別仕様住宅から標準仕様による優れた「基本性能」の提供に転換した。仕事の標準化とスピード感を求めてICT活用による業務改革に奮闘している。(TOP写真:白石建設の施工現場。太陽光発電パネル設置の省エネ住宅も有力商品として期待している)
大工の祖父が終戦直後に創業 父が法人化し、旺盛な住宅需要を追い風に事業拡大 木造戸建て住宅メーカーとして地元で高い評価
白石典之代表取締役の祖父は大工だったが、日本各地の都市が空襲で焼け野原だった1946年に個人商店を創業。戦後の旺盛な住宅需要で好調な業績が続き、父の昌一氏が1973年に株式会社白石建設を設立した(代表取締役は祖父)。設立直後に起きた第一次石油危機で景気は減速したが、製造業の工場建設ラッシュとともに分譲地の造成が急ピッチで進み、戸建て注文住宅メーカーとしての誠実な仕事ぶりが地元で高い評価を得るようになった。
1995年には昌一氏が代表取締役に就任。積極的な事業展開を進めて、桐生市や太田市など地元の住宅展示場にも出展し知名度も向上。2008年には3代目となる典之氏も入社した。しかし、典之氏が入社するまでの道のりは平たんではなかった。
大学は建築学科を選択したが建築に興味湧かず回り道 32歳で後継ぎを決心し帰郷 建築現場や営業など何でもこなし経営の勉強をした
「家業を継ぎたくはなかったし、建築には興味がなかった」。白石社長は高校時代を振り返ってあっけらかんと話す。当時は分子生物学に興味を抱き、京都大学理学部に進学したいと考えていたが、父親から「会社はどうするのか、お客様はどうするのか」などとプレッシャーをかけられて、志望を変更して京大工学部建築学科に入学した。親の意見を聞き入れて妥協した格好だが、自分でも建築学科に入ったら興味が湧くかもしれないと思っていた。
しかし、そうはならなかった。「学生時代には建築学の著名な教授の授業を受けたし、有名建築家事務所でアルバイトもしたけれど、ピンとこなかった。やっぱり自分には合わないと改めて思った」という。
とはいえ、建築学科を卒業して就職したのは関西の分譲住宅メーカーで、希望した設計部門ではなく営業に配属されモデルハウスで見学者の案内を担当。充足感のないまま、面白そうだと思って大阪の不動産投資会社に転職したが、売上至上主義の仕事に疲れ果てた。その後、実家の会社のことやお客様のことが頭をよぎるようになり、このままで本当によいのだろうか、と考えるようになった。「内心、ずっと気になっていたのかもしれませんね」と社長。そして32歳になった時、生まれ故郷の太田市に帰って、会社を継ごうと決心した。
その気持ちを父親に伝えた時は、「当たり前のような顔をされて、拍子抜けした」と笑う。建築現場やモデルハウスの案内などいろいろな仕事をこなしつつ、社長の仕事をみながら経営についても勉強を続けた。
地元では誠実で丁寧な仕事ぶりが高く評価されていることを実感 マンパワー依存で競争激化の中、社長交代は会議で突然告げられた
入社してみると、誠実で丁寧な仕事ぶりが高く評価されていると実感する一方、オーナー社長の意見が強く、社員から意見を言い難い空気が気になった。担当者が一人で設計から見積り、現場監督まで仕事を担うマンパワーに頼りすぎてスピード感が足りず、人口減少や大手メーカーの県内進出など競争が激化する中で売上は減少傾向にあった。
40代になった典之氏は県内の業界団体などで同年代の経営者が増えるのを見て自身も早く経営を引き継ぎたいと意欲を燃やすが、「なかなか父親から交代の話はなかった」。そんなある日、「税理士との決算会議の場で、いきなり社長が『交代するから』と話したので驚いた」という。事前に打診なり何か話があったわけではなく、急に社長交代を告げられた典之氏は、あまりにも急で「心の準備ができていなかった」が、次第に「ようやく来たか」と気持ちが高ぶるのを覚えた。
今後、家に求められる「基本性能」(高気密、高断熱、高耐震構造)を備えた住宅メーカーの加盟会社へ 社内の意識改革で本格展開を目指す
2022年に就任した白石社長は、入社以来、将来の経営を担うために勉強を続けるうちに「いい家に求められる普遍的な定義は『基本性能』だ」という信念を抱くようになった。基本性能がしっかりした住宅を、スピード感を持って売るために「標準仕様」の必要性を痛感。大手建材メーカーが開発した「スーパーウォール工法住宅」を白石建設の戸建て住宅の標準仕様にしようと考えた。
スーパーウォール工法とは天井、壁、床を一体化したモノコック構造による高気密、高断熱、高耐震構造を備えた住宅だ。従来の施工方法に比べて割高になるが、光熱費等のランニングコストを削減し、トータルコストでは安くなり、お客様にメリットが有った。しかし、営業担当から「高くて売れない」という意見も出た。見積り額が他社よりも安い事が重要であり、トータルコストの安さを訴求するにはお客様への説明が一手間も二手間も掛かるからだった。
そこで白石社長は住宅フランチャイズを展開する「エースホーム」に加入。住宅の基本性能を維持しながら価格も手ごろで、「これなら売れる」と判断した。当初は「設計の自由度が制限される」と危惧していたが、標準仕様をベースとしながらもカスタマイズのしやすさに納得。営業担当の反応も上々で、白石社長は主力商品として育てていく自信がついた。
2027年には独自仕様と合わせて24棟の販売計画を立てた。「計画を達成するには、本部と協力してフランチャイズに適した設計や売り方を吸収しなければならない。今は以前のやり方が混在していて、このままでは販売も収益も伸ばせない」と気を引き締める。エースホームの標準仕様を活かして、デザインや設計から見積までカバーする営業スタイルに変える必要があり、時間はかかるが白石社長は「やれる」と確信している。
ICT積極活用で業務改革を後押し 現場のカメラ確認と施工管理システムを連携し情報共有 電子受発注や勤怠管理システムの実用化も視野
設立以来の事業変革を後押しするため、ICTの積極的な活用に乗り出した。これまでも設計業務で不可欠な建築CADや、住宅メーカー向け営業支援システムを利用しているが、現場の負担軽減にも本腰を入れようと計画中だ。その一つが現場に頻繁に足を運ばなくてもカメラを通して必要な状況把握ができるモニタリングシステムだ。工程の進捗状況や写真・図面・書類まで一元管理する施工管理システムと連携することで現場作業の負担軽減と情報共有による効率的な施工管理が行えるようになる。
「見積システムも利用しているが、電子受発注システムまでやりたい。近いうちには勤怠管理システムも入れる予定だ。スマートフォンの出退勤を打刻できるようになれば、GPS機能で、時間や場所の正確な勤務管理ができ、労働環境の改善に役立てられるようになる。現場と事務処理双方で書き込みや集計の負担軽減も期待している」。現在、一部の若手従業員に法人契約した業務用スマートフォンを試験的に貸与しているが、「近いうちに個人のスマホをすべて法人スマホに切り替えて、スマホの業務活用を広げていく」と話す。
業務のICT化に欠かせないセキュリティ対策にも積極的に取り組んでいる。すでにUTM(統合脅威管理)によるネットワークセキュリティ対策を施しているが、今後はさらに建築分野に強いシステム開発会社の製品を中心にクラウド化によるセキュリティ対策も推進してく方針だ。社内に設置しているサーバーシステムのクラウド化も検討している。「サイバー攻撃や災害に対する事業のレジリエンス(復元力)を考えると急ぎたい」。技術系経営者だけに、業務とICTの一体化による効率化や生産性向上の半面、リスクヘッジの重要性を強く意識していることが分かる。
戸建て住宅業界の将来を危惧 木造建築の機能強化により高機能賃貸住宅や工場など非住宅分野への進出を検討 経営改革に取り組む
白石社長がリスクヘッジを考えているのは、戸建て住宅業界の将来についても同じだ。「人口減少の加速が予想されるため、住宅だけではやっていけなくなる。耐震性能や中高層など木造建設の機能強化が進んでおり、高機能賃貸住宅や工場など非住宅分野への進出を考えなければならない」
47歳で社長に就任した時には「もっと早く交代してほしかった。あと13年で60歳になってしまう」と焦りを感じた白石社長だが、頭の中には、今後のための経営改革と白石建設の未来図ができているようだ。
企業概要
会社名
株式会社白石建設
住所
群馬県太田市大原町108
電話
0277-78-2819
設立
1973年6月
従業員数
16人
事業内容
戸建て住宅新築工事、リフォーム工事など
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