精鋭部隊の女性隊員、離島奪還訓練へ
多様性模索する自衛隊
中野さわか1尉(42)、丸山ひかり2曹(38)、黒澤琉菜士長(20)は昨年11月、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」で鹿児島県の徳之島へ向かっていた。輸送艦「しもきた」とともに長崎県の佐世保基地から沖縄県の与那国島と入砂島を経由し、着上陸訓練に参加するためだ。
3人は陸上自衛隊の水陸機動団に所属する女性隊員。同部隊は離島が占拠された場合に奪還するのを主な任務として2018年に新設された。隊員はおよそ2400人、女性はこの3人を含め約40人しかいない。
水機団は有事となれば真っ先に最前線へ出ていくことが求められる精鋭部隊だが、多様性という点ではスピード感に欠ける。周辺国の中国、ロシア、北朝鮮の脅威が高まる一方、少子化高齢化で隊員の確保が年々難しくなる日本の自衛隊全体が直面する問題だ。
「我が国全体として少子化の傾向が強まってくる中で、優秀な人材を安定的に将来にわたって確保するためには、女性の活躍というのは非常に重要な要素になってくる」と、11月の訓練当時に水機団の団長だった梨木信吾陸将補は入砂島でロイターに語った。
女性採用の課題
女性自衛官は過去10年間でおおよそ倍増した。それでも日本の同盟国である米国には遠く及ばない。自衛官23万人に占める女性の割合は8.7%と米軍の半分、水機団に限ると1.6%に過ぎない。水機団に相当する米海兵隊は約1割が女性だ。
「水陸機動連隊と聞くと、同じ陸自でも第一線ですごく体力と知識と技術がある男性が活躍しているというイメージが強いので、女性がそこで活躍できるのか不安がる人もいると思う。自分も実際にそうだったが、周りの人に1つ1つ教えてもらいながらスキルアップを重ねている」と、後方支援業務に携わる丸山2曹は話す。
おおすみ艦内で女性は珍しい存在だ。飛行甲板で基礎体力のトレーニングに励む隊員の中に女性の姿はなかった。丸山2曹と黒澤士長は、艦内の小さなジムでウェイトリフティングをする男性隊員に混じって体を動かしていた。
相次ぐセクハラ問題
隊員不足に直面する自衛隊は、女性に優しい戦う組織だとアピールする一方、立て続きに起きたセクシャルハラスメントが世論の注目を集め、イメージを損ねてきた。
木原稔防衛相は10月、海自の女性隊員が同僚の男性からセクハラを受けたことを巡り、報告を受けた幹部が被害の事実を上級部隊に伝えなかった上、女性の意思に反して男性と面会させたことが判明し、厳しく対処していく考えを示した。さらに12月、陸自の女性隊員に性的暴行を加えたとして福島地裁が男性隊員に有罪判決を下した。
「こういったものがハラスメントに該当するんだということを含めて、教育を継続的に一人一人に伝わる形で、力を入れてやっていくことが大切。女性自衛官がしっかり活躍していける組織だと全面的にアピ―ルすることで、これからも自衛官になりたい思う人から見ても魅力的に感じると思う」と、中野1尉は言う。
自衛官の夫との間に2人の娘がいる丸山2曹は、育児のサポートをさらに充実させてほしい話す。「働きながら結婚して子どもを育てる隊員が増えると思う。男性よりも子どもに近いところで育児が求められるのが現実だ。今後も快くサポートしてもらえると仕事もしやすく、家庭も守りやすくなる」と話す。
階級や部隊ごとに居住区を割り当てられる男性隊員とは異なり、3人の女性隊員は階級に関係なく、おおすみの女性乗員たちと船首近くの区画で寝泊まりする。男性隊員はその区画に近づかないよう指示を受けている。
狭い通路の左右には三段ベッドが並び、隊員らのスーツケースなどが置いてある。水機団に入って2年足らずの黒澤士長は、近くに相談相手を見つけるのは重要だと話す。
「自分の小隊はいろいろ気遣ってくれる」とした上で、「女性が少ないのは仕方ないが、その中でも自分が相談できる相手を見つけるのは大事だと思う。相談できる人を1人でも作ったほうがいい」と語る。
整備担当の黒澤士長が働く車両甲板には洗濯機が並び、男性隊員らが仕事着や下着、ウェットスーツを干していた。
フォトログ
写真:加藤一生
取材:Tim Kelly
写真編集・デザイン:Eve Watling、Maye-E Wong
原文編集:Gerry Doyle
日本語版作成:金子かおり、照井裕子、久保信博