日本電信電話(NTT)は15日、マイクロマシン技術を用いて作製した微細な板バネを振動させ、複数の論理演算を同時に実行できる新しいデジタル演算の手法を開発したことを発表した。1個の基本素子だけで論理回路を構成できる可能性を持つ世界初の技術とのこと。 現在のコンピュータは「トランジスタ」が演算素子として広く使われているが、NTTでは、トランジスタに比べ100分の1以下の消費電力で演算できる可能性を持っている「ナノマシンコンピュータ」の研究を続けている。今回NTTの物性科学基礎研究所が開発した手法では、「マイクロマシン技術」(MEMS:Micro-electromechanical Systems)を用いて作製した、厚さ1.4ミクロンの板バネ素子をたった1個だけ使用。光ファイバー通信で使われる、異なる波長の波に異なるデジタル情報をのせて伝送する「波長分割多重」(WDM:Wavelength Division Multiplexing)技術と同様に、複数のデジタル情報を、異なる周波数を用いて振動に対して入力する。 これにより、複数の論理演算を同時に実行することに成功した。基本論理演算となるAND、OR、XOR、さらにはそれらの複合演算の動作が確認されたという。トランジスタを用いた演算装置では、基本論理演算を行うトランジスタ同士を配線で繋げ、複雑な回路を構成するが、今回開発した手法では、新たな周波数振動を次々と作り出すことで、20個以上のトランジスタを複数連結した複合論理回路と同等の演算機能を、たった1個の板バネ素子で実現できたとのこと。 今後は、より大規模な任意論理回路への適用可能性や、動作速度、消費電力などについて確認を行い、実際のコンピュータとしての実用可能性を検証していく。今回得られた成果は、消費電力の低さや耐環境性の強さが期待されている「ナノマシンコンピュータ」を実現するために必要な基盤技術の1つとして、英国の電子版科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載される予定。