『studyroom』は、toolboxの施工チーム・ツールボックス工事班が、やってみたかったことややったことがない手法に自社購入物件でトライする空間づくりの実験。その第一弾『studyroom#1』では「ReMake」をテーマに掲げ、既存の内装を極力壊さず、手を加えて変えていくリノベーションに取り組みました。今回はついに完成した空間をお披露目!記事後半では工事班のメンバーに現場を振り返っての話を聞きました。

既存内装を“素材”として捉える「ReMake」なリノベでどこまで変わった?

間仕切り壁が視界と光を遮っていたリノベ前。LDKの床はつぎはぎのフローリングでした。

『studyroom#1』の舞台となったのは、築50年超えマンションのメゾネット住戸。現代の暮らしに合わせて間取りと機能をアップデートすることと、開放的で明るい空間にすることをリノベーションの指針にしました。どこが活かされてどう変わったのか、リノベ前とリノベ後を見比べていきましょう。

間取り

まずは間取りから。元々は2LDKで、狭い玄関、冷蔵庫が遠いキッチン、洗面一体型の狭いバスルーム、洗濯機置き場はバルコニーという間取り。リノベ後は、階段を真っ直ぐにして、上がった先を玄関に。バルコニー側の和室はマルチに使える土間に変えました。キッチンはリビングと対面するL型に変更。元浴室にはシャワーブースをつくり、洗面所と洗濯機置き場を確保しています。

壁の位置も水まわりの位置も大きくは変わっていないのに、想像できる暮らしは大きく変わりました。では、実際の空間はどんな様子なのか、BEFORE・AFTERを写真で紹介していきます。

リビング・ダイニング

撮影:中村 晃

階段室は真っ暗、間仕切り壁が窓からの眺めと光を遮っていたリノベ前。それがリノベ後はこの通り劇的に明るく開放的な空間に!押入れを一部解体し、間仕切り壁には開口をつくって、目線の抜けを生み出しました。床も既存を活かしていて、タイル状に溝を彫って塗装することで様変わりしました。

既存フローリングに溝を彫っているところ。(vol.7

耐摩耗性の高い塗料で塗りつぶしました。(vol.8

撮影:中村 晃

間仕切り壁は、間柱と横胴縁を現しにして、視線の抜けをつくりました。間仕切り壁を壊すと周辺の天井や床もつくり直しになるけれど、既存を活かすことで新規の造作を減らしつつ、開放感を生み出すことができました。工事班も想定外だった間柱の横胴縁(横に走る木材)は棚受けとして活用して、小物を飾れるディスプレイ棚にしています。

間仕切り壁の解体時の様子。(vol.2

想定外だった横胴縁は満場一致で活かすことに。

キッチン

撮影:中村 晃

壁付けのI型だったキッチンは、「2つに切断」という斬新なアイデアでL型キッチンにリメイクしました。キッチンを繋ぐ部分にはキッチン家電を置ける収納を造作。作業スペースが広く、リビングとのコミュニケーションも取りやすい今時なキッチンになりました。

キッチン切断も工事班初の試みでした。(vol.3

既存キッチンの面材は交換せずにシートの貼り替えで刷新。(vol.9

撮影:中村 晃

キッチンのリビング対面側は、化粧板を造作して囲みました。付け加えた天板はセメント系左官材で仕上げ、土間や和室に感じる和の要素とリンクさせています。既存のキッチンを使いつつ、レイアウトの変化と要素の組み合わせでここまで変えられるんだという驚きがありました。

左官で仕上げた天板と既存キッチンを合体。(vol.9

既存キッチンの天板を研磨して表情を変える実験にもトライ(vol.7)。

玄関・階段

撮影:中村 晃

リノベ前は階段が壁に突き当たってクランクしていて、暗く閉塞的だった玄関と階段。「この階段をどうすれば開放的にできるの?」と思っていたんですが、出てきた工事班のアイデアは「階段正面の押入れを解体して階段を真っ直ぐにする」というもの。階段を数段新設して直線階段にして、視線が抜ける開放的な場所をつくり出しました。

残すか悩んだ間柱を解体しているところ。

解体したら抜群の抜けが生まれました。

撮影:中村 晃

元々の階段の下り口はどうしたかというと、ここは塞がず、板を渡してベンチコーナーに。元々の手摺をベンチに貫通させて残したのは、かつての階段ルートを感じさせるための遊び心。冷蔵庫置き場だった場所にはカウンターデスクをつくり、ダイニングに居場所を増やしました。

既存の手摺は残すことにこだわった部分。

既存の腰壁を削って背もたれを設置。

寝室・土間

撮影:中村 晃

昭和感たっぷりだった和室も、和の要素を活かしつつリメイク。一番の見どころは、中央を切り抜いて折り上げ天井にリメイクした和天井!和天井からコンクリート躯体が覗く風景が新鮮です。頭上の開放感も生まれました。クローゼットの引き戸に使った障子も既存のもので、バルコニー側の和室にあったものを再利用しています。

職人さんも初めてだった「天井切り」。(vol.3

隙間を塞ぐ板が天井の不陸に合うよう頑張ってくれました(vol.6)。

リビング横にあった和室は、既存の畳を撤去して出てきたモルタルを活かして土間にしました。押入れを解体してつくった玄関には棚を設置。天袋の襖をそのまま活かしたら、躯体現しの天井とのコントラストがユニークな場所になりました。

解体屋さんと「残す、壊す」を相談しながら解体を進行(vol.2)。

解体直後の土間の様子。

撮影:中村 晃

「民藝の器みたい!」と盛り上がって残すことにした壁の模様は、既存の壁紙を剥がして出てきたパテの跡。窓辺の縁側は解体時に出てきた荒板から着想して造作したもので、仕上げに既存の荒板を使いました。縁側があることで、土間の外っぽさが増した気がします。天井中央の板は寝室の和天井の切り抜いた部分。配線を隠しつつ、土間に和の風情をプラスしています。

畳を撤去して出てきた荒板が縁側のヒントに。

寝室の和天井の切り抜いた部分を土間に移設。

バスルーム

撮影:中村 晃

狭小ユニットバスとトイレがあった水まわり。コンクリートブロック壁で囲まれていて、スペースを広げることが難しい中、浴槽は置かずシャワーブースにして、トイレ、洗濯機置き場、洗面所と一体化した開放的な空間に一新しました。床は左官で仕上げ、段差部分にアールをつけてシームレスな広がりを感じられるようにしました。

コンクリートブロック壁の解体は最低限にしました。

シャワーブースは在来工法で造作。

撮影:中村 晃

BEFORE写真は、ブロック壁を部分的に解体した直後の様子。必要な幅だけ壊し、奥の寝室側に飛び出すようにブースをつくって、洗面台を新設しました。照明の上のスペースを活かして寝室側のエアコンを設置したのも工夫したところ。ブロック壁の断面や既存タイル壁は塗装だけに留めて、かつての内装と解体の過程を意匠として活かしてみました。

解体直後は寝室側から見るとこんな感じでした。(vol.2

ブロック壁の断面はあえて見せるスタイルを選択。

『studuroom#1』の内装仕上げの詳細は、imageboxでもご確認いただけます。

実験を通して見えた、新しい空間づくりの可能性

『studyroom#1』での実験の目的は、リノベ済み・リフォーム済み物件の流通も多い今の世の中で、スケルトンからのフルリノベとは違う新しい空間づくりのあり方を探ること。既存内装や間取りを活かしながらも、見違えるほど変わった『studyroom#1』は、部分リフォームの積み重ねでここまで変えられる!という可能性を感じる空間になりました。これまでも部分的には「既存を活かすリノベ」に取り組んだことがある工事班でしたが、住戸丸ごとで取り組むのは初めてでした。

『studyroom#1』のプロジェクトメンバー。左から、工事班の一杉、渋谷、矢板、森村。

「今回のリノベーションの一番のポイントは、やっぱり解体ですね。何を活かすのか、どこまで活かすのか、それを見極めながらの解体に気を遣いました。今回は解体屋さんがとても慎重にやってくれたのでよかったです」(渋谷)

「解体中に荒板を残して縁側にしたいって言い出す奴もいたりしたしね。俺だけど(笑)」(一杉)

「既存を活かすからこそ、残す部分を綺麗にするのが大事だなとも思いましたね。キッチンのコーキングを地道に取ったり、躯体直貼りのクロスをこ削ぎ落としたり、俺、この現場では掃除ばっかりしてました(笑)」(森村)

解体して出てきた胴縁は想定外だったもの。左端に見える縁側は、解体時に出てきた荒板がヒントになって生まれました。(撮影:中村 晃)

極力壊さず既存を活かすリノベにチャレンジすると同時に、部分リフォームの新しい手立てを見つけることも『studyroom#1』の大きな目的でした。

「既存キッチンを切るアイデアは、うまくいかなかった時のために一応別の加工方法も考えてたんだよね。結果は、思いのほかスムーズに切れたんだけど(笑)。フローリングを塗ってみるとか、和天井を切って折り上げ天井にするとか、確立されていなかった手法に積極的に挑戦してみることで、今後実用できそうな手法をいくつか見出すことができました」(一杉)

左・意匠の変更だけじゃない、レイアウト変更の可能性も拓くことができたキッチンリメイク。/右・撤去して躯体現しにするのでもただ塗るのでもない和天井リメイクを実践。

例えば、今回実践した「フローリングを塗装でリメイク」という方法は、今手掛けているリノベ案件で早速、取り入れているそう。「既存キッチンを切る」という方法も、キッチンのレイアウトやサイズを変えたい時だったり、思い入れのあるキッチンを活かしたいという場面に応用できそうだと話します。

「現場で職人さんと一緒に考えながらつくっていくアプローチを実践できたこともよかった。僕たちの経験値では出てこない、プロの職人さんだからこそ出てくるアイデアがたくさんあったし、職人さんにとってもチャレンジングな手法に一緒にトライすることができた。今回の経験から新しいアイデアも生まれてくるだろうし、今後の現場に活かしていきたい」(一杉)

「フローリングを塗ってリメイク」は、塗装職人さんが長年の塗料研究で得た知識と経験から、摩擦に強い塗料を提案してくれて実現。(撮影:中村 晃)

解体に繊細さが求められたり、新しくつくる部分と既存を残す部分の兼ね合いなど、スケルトンからつくるより手間暇がかかる面もある「既存内装を活かすリノベ」。だけど、既存を活かすからこそのオリジナルな空間ができあがる面白さもあります。

「この壁に窓みたいに穴を開けれないかな?」「今あるキッチンをこう変えられないかな?」。そんなふうに、目に見える既存内装を“素材”として見立て、手を加えていく「リメイク」というやり方は、“自分の空間を自分で編集する”空間づくりにトライする身近な方法であるようにも思います。

工事過程の動画を見て当時を振り返りながら「ここ大変だった〜!」と盛り上がる工事班のメンバー。

キッチンや床など、今回実践したリメイクのいくつかは、『How to make』でも詳細をレポートしています。プロの技術力も必要なので「そのまま真似してみて!」とは言い難いのですが、自分なりのリメイクアイデアを見つける参考にはなるはず。今回の『studyroom#1』でのトライが、みなさんの空間づくりの妄想を広げるきっかけになれば幸いです。

メゾネット住戸という特徴を活かして生まれた視界の広がり。個人的にお気に入りの眺めです。(撮影:中村 晃)

先日、一般の方向けの内覧会を開催した『studyroom#1』。一般の方はもちろん、建築の仕事に携わるプロの方にもご来場いただき、たくさんの質問をいただいたりと盛り上がりました。今後も「studyroom」の第2弾、第3弾をやっていきたいと思っているので、どうぞお楽しみに。

『工事班の現場通信』studyroom#1編は今回が最終回。またどこかの現場から、空間づくりの面白さをお伝えできたらと思っています。ご愛読ありがとうございました!

工事過程のダイジェスト動画公開中!

ツールボックス工事班|TBK

toolboxの設計施工チーム。

住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。

 

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テキスト:サトウ