落下率と衝撃荷重は、クライミングにおける墜落を物理的に考える上で重要な概念です。クライミングにおける墜落を理解するためには、物理の基本を思い出す必要があります。それは「物体が落下すると、その物体は運動エネルギーを持つ」ということです。
警告
- 以下の補足情報を読む前に取扱説明書をよく読んでください
- ここで紹介する技術を使用する前に、取扱説明書の内容を十分に理解する必要があります
- これらの技術を身に付けるためには、トレーニングが必要です
- これらの技術を自身で実践する前に、使用方法を熟知していて責任能力のある人に相談してください
衝撃荷重
クライマーの墜落によって生じたエネルギーは、ロープの伸び、ビレイヤーの移動、クライマーの身体によって吸収されます。その際、ビレイシステム全体に加わる力を衝撃荷重と呼びます。クライマーにとっては、墜落が止まる際に受ける衝撃がこれに当たります。
ペツルはクライマー、ビレイヤー、中間支点それぞれにかかる衝撃荷重に着目しています。
この値は、エネルギーを吸収する上で重要な要素である、ロープの伸び、ビレイヤーの移動、クライマーの身体、器具とロープの摩擦等と関連しています。
ロープのスペックとして示されている衝撃荷重値は、規格試験の条件下でクライマーの代わりにおもりを使用して計測された値の最大値です。
理論上の落下率
落下率は、クライミングにおける墜落の重大さを表すときによく用いられます。
ダイナミックロープでは 0 ~ 2 の値になります。
落下率はロープの長さに対する落下距離の比率です。
繰り出されたロープが長ければ長いほど衝撃が吸収されるため、クライミングにおける墜落の重大さは、墜落の距離のみでは決まりません。
ここに挙げる2つの例では、墜落の重大さが異なります。自由落下する距離、吸収するエネルギーは同じですが、衝撃を吸収するシステムに違いがあります。
例1
ロープの長さ = 10 m、落下距離 = 4 m、落下率 = 4/10 = 0.4
繰り出されたロープが長いほど墜落によるエネルギーを吸収するため、ロープの長さは重要です。この場合、墜落、衝撃荷重ともに重大なものではありません。
例2
ロープの長さ = 2 m、落下距離 = 4 m、落下率 = 4/2 = 2
繰り出されたロープが短いため、吸収力が低くなっています。この場合、墜落は重大です。
さらに詳しく
理論上は、落下率が大きいほど、墜落によって生じるエネルギーも大きくなります。落下率により墜落の重大さを測る方法は、ダイナミックロープを使用した時にのみ有効です。ロープが長いほど、より多くのエネルギーが吸収されます。理論上の落下率はかなり単純なもので、ロープドラッグ、ビレイデバイスのタイプ、ビレイヤーの移動等の重要な要素が考慮されていません。次の項目ではこれらの要素についても解説します。
実際の落下率
理論上の落下率では、ロープと岩やクイックドローとの摩擦は考慮されていません。これらの摩擦は、墜落のエネルギーがロープ全体に伝わらない原因となります。したがって、墜落のエネルギーはロープの一部分(下図の実線部分)だけでしか吸収されません:この部分を「有効なロープの長さ」と呼びます。そのため、実際の落下率について考えることが重要となります。クライマーがロープドラッグを減らすための注意を怠ると、実際の落下率は容易に大きくなってしまいます。この例では、クライマーにとって重大な墜落となります。