モズの『はやにえ』の機能をついに解明!―はやにえを食べたモズの雄は、歌が上手になり雌にモテる―
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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆5/15 NHK「ニュースほっと関西」
◆5/16 朝日新聞、読売新聞(夕)、毎日新聞(夕)
◆7/8 産経新聞(夕)
◆その他、地方紙多数掲載
モズは動物食の鳥類で、捕えた獲物をなわばり内の木々の枝先などに突き刺して「はやにえ」を作ります。はやにえの機能は長い間謎でした。
大阪市立大学大学院理学研究科の西田 有佑 特任講師は、北海道大学大学院理学研究院の高木 昌興 教授との共同研究により、モズのオスは非繁殖期にのみはやにえを作り、そのはやにえを繁殖期が始まるまでにほとんど食べ尽くすことを発見しました。さらに、はやにえの消費量に応じて繁殖期におけるオスの歌の質が高くなり、その結果オスはメスから強く好まれるようになることを野外観察と操作実験により明らかにしました。
本研究の結果は、モズのはやにえがメスの獲得で重要な歌の質を高めるための栄養食として機能していることを示しています。餌をなわばり内に貯える「貯食行動」はモズのほか様々な動物でも見られますが、貯えた餌の消費がオスの性的な魅力を高める効果をもつことが実証されたのは世界で初めてです。
本内容は、2019年5月1日に国際学術誌『Animal Behaviour』のオンライン版に掲載されました。
本研究の概略
モズは動物食の鳥類で、捕えた獲物をなわばり内の木々の枝先などに突き刺して「はやにえ」を作ります(図1)。はやにえを作る理由は長い間謎でした。
はやにえの機能を説明する有力な仮説の1つに「冬の保存食説」があります。はやにえは餌の少ない冬に備えた食糧で、モズははやにえを食べることで冬の飢餓を回避できるという仮説です。もしそうなら、モズは気温の低い(餌の少ない)時期に、はやにえを活発に消費することが予想されます。
そこで、大阪府の里山にてはやにえ調査を行いました。モズのオスのなわばり内の木々などをくまなく見て回り、はやにえの生産時期と消費時期を詳細に調べた結果、モズのオスは非繁殖期にのみはやにえを生産し、そのほとんどを繁殖期が始まるまでに食べ尽くすことが分かりました(動画1)。また、はやにえの消費数は気温が低くなるにつれて増え、一年で最も寒い1月にピークに達することが分かりました(図2)。この結果は、はやにえが冬の保存食であることを示唆しています。
しかし、ここで疑問が生じます。はやにえの主な機能が冬の保存食ならば、1月と同じくらい気温の低い2月にも、もっと多くのはやにえが消費されてもよいはずです。しかし、はやにえの消費量は1月がもっとも多く、2月ではわずかでした(図2)。よって、はやにえには冬の保存食以外の機能も備わっている可能性があると私たちは考えました。
はやにえの消費が活発だった1月は、モズの繁殖が始まる直前の時期です。モズのオスは繁殖期になると、求愛のためになわばり内で活発に歌い始めます(動画2)。私たちの先行研究から、栄養状態が良いオスは早口で(=速い歌唱速度で)歌うことができ(図3;音声1&2)、早口なオスはメスに好まれることが分かっていました。
そこで私たちは、モズのオスははやにえを消費することで、繁殖期の歌の質(=歌唱速度)を高められるのではないかと考え、この仮説を検証することにしました。繁殖期のオスのなわばりを定期的に巡回してオスの歌を録音し、歌唱速度とはやにえの消費量の関係を調べた結果、はやにえの消費量が多かったオスほど歌唱速度が速いことが分かりました(図4)。
さらに、私たちは操作実験を行いました。オスのなわばり内のはやにえを取り除いた「除去群」、通常オスが消費するはやにえの三倍量相当の餌を与えた「給餌群」、はやにえの数を操作しなかった「対照群」を用意して、各群の歌唱速度を比較しました。その結果、対照群と比較して除去群のオスは歌唱速度が遅くなり、逆に給餌群のオスは歌唱速度が速くなることが明らかになりました(図5)。
最後に、各実験群のオスたちにおけるメスの獲得状況(成功率・時期)を観察しました。観察はモズの繁殖期間中(2~5月)に4日に1回の頻度で行いました。モズでは、オスのなわばり内にメスが存在した場合、そのペアはつがい形成したと判断できることが私たちの先行研究で分かっています。観察の結果、対照群と比較して除去群のオスはメス獲得に失敗しやすいことがわかりました(図6)。一方で、給餌群のオスはメス獲得の成功率が高いのみならず(図6)、より早い時期にメスを獲得できる(図7)ことが分かりました。
本研究の結果は、モズのオスのはやにえがメスの獲得で重要な歌の質を高めるための栄養食として機能していることを示しています。
餌をなわばり内に貯える「貯食行動」は、さまざまな動物で見られます。貯えた餌は餌資源の不足を補うための食糧であり、貯食行動は生存に関わる自然選択によって進化したという解釈がこれまでの定説でした。モズにおいても、貯えたはやにえには「冬の保存食」としての機能はありましたが、さらに「歌の質を高める栄養食」としても機能していることを突き止めました。貯えた餌の消費がオスの性的な魅力を高める効果をもつことが実証されたのは世界で初めてです。
今後の展望
貯食する動物の多くで、オスとメスの貯食行動の特徴に性差が見られます。また、オスが求愛に用いる形質(歌や羽色、ダンスなど)の質は、その個体の栄養状態に応じて高くなる性質をもつことが知られています。よって、モズ以外の動物でも、貯えた餌が性的な魅力を高める効果をもつ可能性があり、貯食行動の進化はこれまで考えられていた以上に複雑であると考えられます。
資金援助
本研究は『バードリサーチ研究支援プロジェクト』の資金援助を得て実施されました。
掲載誌
雑誌名:Animal Behaviour
論文名:Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success.
著者:Nishida Yuusuke, Takagi Masaoki
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003347219301113?via%3Dihub