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『スト6』『鉄拳8』発表…2023年、“格ゲー”の復権は起こるのか? 人気プロゲーマーに聞く、格ゲー栄枯盛衰「単純な“勝負論”からの脱却が重要」
社会現象たる必然…90年代のゲームセンターには“最先端”があふれていた
現在37歳のふ〜ど氏は当時、小学校低学年。「第二次ブーム直前の世代」だが、『ストII』など対戦型格闘ゲームは楽しんでいたという。
「格ゲーがその頃に大人気だったのは、単純に面白かったからだと思うんです。当時のゲームセンターの最先端で、人は人と対戦するという要素が、ものすごく新鮮だったのではないか。僕は家にテレビがあるような感じで、格ゲーがごく身近にあったという印象。面白かったので。あとはゲームセンターが、間違いなく楽しい場所だったということも、ブームになった要因であると思います」
90年代のゲームセンターには、格ゲーだけでなく、『ビートマニア』や『DDR(Dance Dance Revolution)』『プリント倶楽部』など、社会現象になるような最先端のゲームが次々と登場。エンターテインメントの最先端を生み出していたゲームセンターに人々が集まるのも必然といえた。それら「ほとんどのゲームを遊んだ」というふ〜ど氏が、ハマったのはやはり格ゲーだった。
「ゲームセンターでは学校では出会えない年代の違う人たちとも、格ゲーを話題に話したり、対戦できたりする。そこでできたコミュニティで集まってご飯を食べたり、大会に出るのに一緒に他の県へ遠征に行く。格ゲー熱の高い人との交流が楽しく、世代を越えて熱量を共感できていました。それに、僕はなぜか分からないですけど、小学生の頃からとにかく勝てていた。格ゲーって勝てばお金を払わずに連戦できるんですね。それによって腕が磨かれていく。ただ、それが衰退といわれる要因になったとも言えると思います」
弱肉強食による淘汰に加え、“新鮮で楽しい体験”の多様化も衰退の要因に
「勝てない人は、お金を払って挑戦するんですが、結果強い人の踏み台にされてしまう。いわゆる弱肉強食。弱い人を救済するシステムがなかったことで、そのすそ野の広い方、一般のユーザーが離れてしまったということはあると思います。
あともうひとつ、ゲームセンター自体が衰退してしまったということ。その理由として、家庭用ゲームの発展があると思います。例えば『ファイナルファンタジーVII』、『バイオハザード』など面白く、さらには映像も美しい画期的な作品がどんどん家庭用ゲームで出て来た。しかもそれが当時、非常に新鮮に映った。ゲームセンターに行かなくても新鮮で楽しい体験ができる。そうなると行く必要はなくなりますよね。僕は止めませんでしたけど」
勝てない原因として、ライトユーザーにとってその操作性の難しさがあり、そこが格ゲーの衰退の原因と言えるのではないか。そう投げかけると「個人的にはそうは思わない」とふ〜ど氏は言う。
「ゲームはまず、面白いかどうか。それが“難しさ”よりも重要で最上位だからです。そもそも(操作性を)簡単にしすぎるとやりがいがなくなり、逆にそれで人が離れるという一面もあります。つまり簡単でも難しくても、やりがいがあって面白ければ人は集まる。
実際、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)などは、格ゲーよりもよほど操作が難しく、さまざまな要素を考えなければならないというハードルもありますが、今、大流行していますからね。僕が今10代だったら、格ゲーはやってない。新しい流行のゲーム、例えばFPSの方に行っていたと思う。その理由はやはり、“面白い”から。それが自然です。だから過去の僕が格ゲーにハマったのも自然だったわけです」
「今、10代なら格ゲーはやっていない」と話しながらも、プロゲーマー黎明期から、長年にわたりトッププレイヤーとして業界をけん引し、発展に寄与してきたふ‾ど氏。その根底には、誰よりも格ゲーを楽しむ、という思いが感じられる。今FPSが流行している要因についても、“面白さ”だけでなく、ゲームにおける“勝負論”の変化があったのではないかと分析する。
「格ゲーは常に1対1の勝負。勝っても負けても、すべて自分に責任がのしかかります。一方でFPSはチームで戦うため、負けても『俺悪くねえし』と言えたり、みんなで責任を取ることができる。それが楽しいという時代になった。つまり、その要素が格ゲーの衰退…というより、“切り替わった瞬間”だと思う。ただ、1人でやる格ゲーの方が成長は楽ですよ。チーム戦でチームを成長させるのは本当に難しいですから」
また格ゲーには総合的な強さが重要だとふ〜ど氏は語る。
「例えその場では“勝者”でも、それはその周辺が弱いだけの可能性があり相対的なもの。それは格ゲー界にとっていいことではなく、そもそも格ゲーは全ユーザーが全体的にレベルが上がることで、さらに面白くなる。実際、ゲームセンターでは、攻略法などが皆で話し合われており、その文化を大切にしたいんですよね」
国家間における“勝負論”を格ゲーにスライド? 文化交流を担う“平和の象徴”になる可能性も
さらにその後、eスポーツも注目され始め、見ていて勝敗が分かりやすく、さらに日本人が勝てる格ゲーがピックアップされ、近年再び盛り上がりを見せているが、90年代のように誰もが「格闘ゲーム」をやるような全盛期を再び取り戻せるのか? そんななか2023年、その足がかりになるかもしれない『スト6』がまもなく発売される。既にプレイしているというふ〜ど氏は、『スト6』をどのように見ているのだろうか?
「実際にプレイしてみましたが、『スト6』は革新的なゲームというより、『面白い格ゲーをちゃんと作った』という印象です。これによってプロゲーマーの立ち位置が変わる可能性はありますね。格ゲーは新たなナンバリングが出るとこれまでのノウハウが死んでしまうこともある。新興勢力が台頭してベテランが淘汰される可能性も。でもプロゲーマーにとって最もつらいことは、“クソゲー”が出ること。そうなるとやる人がいなくなって、業界が衰退して、結果僕たちの活動の場も失われてしまう。『スト6』のようなポテンシャルの高いゲームが出るというのは僕たちにとってうれしいことですね」
「(『スト6』の登場で)格ゲー人口が大きく増えるかどうかは正直わからない」と話すふ〜ど氏だが、『スト6』には『スト5』にはなかったストーリーモードや、オープンワールド的システムもあり、自分好みのキャラを育てていけるモードも展開されている。これは格ゲーファン以外にも、とっつきやすい要素といえる。
「ボタン1つで必殺技が出せる初心者に優しいモードもあるようですが、それでもある一定のレベルに達すると必ず壁が立ちふさがる。経験のあるベテランになかなか勝てない→勝てないから楽しくないというロジックは、操作性が簡単になっても必ず出てくる問題です。でも必ずしも勝負論だけではない、ゲームとして楽しいシステムや新要素も入っていそうなので、そこはすごく期待している。新規の人々がこれでどれだけ入ってくるか。プロでなければ、基本ゲームは修行ではなく単なる娯楽なので、新鮮さは重要です」
90年代のような、格ゲーの熱狂時代が来るのか否か?期待はしたいが、過度な期待は禁物というのがふ〜ど氏のスタンス。それは、当時はゲームタイトルも少なく新鮮だったが、今はタイトルも多く、ゲーム以外にも娯楽が多様化しているからだ。一方で、新たな可能性もあると希望も見いだしている。
「みんながやるものをやる時代から、自分が好きなものをやる時代なので、あのような熱狂が来るのは難しい。今はゲームだけでなく、どんなものもブームにはなりにくい時代なのかなと思います。ただ確実に今よりは格ゲー人口、規模は大きくなると思いますし、オリンピックタイトルに選ばれるなど社会現象になってほしいとは思います。
以前、サウジアラビアの国の偉い方とお話させていただいたのですが、格ゲーを“平和のツール”として、国々の交流に使っているらしいんですね。今、戦争とか争いごとがいろいろ起きていますが、格ゲーは見やすいですし、交流のツールとしてはすごくいい。ブームは移り行くものですが、格ゲーは、そうした国の交流などを担っていくような存在にもなる可能性を秘めているといえると思います」
暴力的表現がコンプライアンスに…と過剰なまでに反応してしまう昨今だが、現実世界にある国家間や民族間で起こる“勝負論”を、人と人とをつなぐ文化的交流としての“勝負論”として格ゲーが使用されるのであれば、見方もまた変わるだろう。『スト6』の登場が、格ゲーシーンにどのような影響をもたらすのか? 今後の推移に注目したい。
取材・文/衣輪晋一