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日本の最高峰の大学 女子学生は5人に1人だけ
東京大学の女子学生の数は、この20年間、全体の20%ほどで推移している。男女の不均衡は多くのトップレベルの大学に共通している。
東京 ー ハヤシサトミは、幼いころから一生懸命に勉強し、学業に秀でていた。父の後を追って、日本の最高峰の学府である東京大学に入学するのは、ごく当然に思われた。
合格が決まるとすぐに、彼女の友人たちは、結婚できないかもと忠告してきた。友人らによると、男性は、東大卒ということに恐れをなすのだ、と。動揺した彼女は、「東大女子は、結婚できるか」とグーグル検索し、それは、一般に知られているステレオタイプであることがわかった。
友人の警告によって入学をあきらめはしなかった。しかし、ハヤシさん(21)は、ほかの女子はどうだろう、と考えた。
彼女が3年前に入学したときには、女子学生は、学部生の5人に1人弱だった。
東大に女子が少ないということは、日本に根深い男女平等の不均衡の副産物である。日本では、女性は、男性ほどに成功することが期待されておらず、時には、女性自身が教育の機会にしり込みすることもある。
安倍晋三首相は、女性活躍を推進し、日本の労働市場における女性参画は米国を上回っていると胸を張る。しかし、会社の重役や政府の最高位の職に就いている女性はまだわずかだ。
齟齬は、学校段階から始まっている。国全体の学部学生では、女子は半数近くを占めるが、最も歴史が古く最高水準の大学では、最も力のある地位に就いている女性が少ないという社会の現状を反映、そして拡大化して現れている。
ほぼ20年近く、東京大学への女子の入学者数は、約20%で推移しており、不均衡は、多くのトップ大学に共通している。国立大学7校の中で、女子の学部生は、わずか4分の1強である。私学の雄である慶応と早稲田では、わずか3分の1強である。
日本の大学は、アジアの選り抜きの教育機関に遅れをとっている。中国の北京大学では女子学生数は半数近く、韓国のソウル大学では40%、シンガポール国立大学では51%である。
東大では、「何か完全にバランスが崩れていることが即座にわかります」と、文学専攻のハヤシさんは言った。「社会では女性が半数なのに、大学で20%しかいないというのは、何か変では」と言う。
学歴志向の顕著な日本では、東大卒というのは、最高峰の証明である。それはハーバード大、スタンフォード大、マサチューセッツ工科大を足して一つにしたことに匹敵し、政界、財界、法曹界、科学の世界への門戸が広く開かれる。
歴代の総理大臣では東大出身が最も多く、最高裁判事の半数以上も東大出身である。また、最多の国会議員、ノーベル賞受賞者が輩出している。
誰の目にもあきらかに「最強の教育が提供されています」と、1996年の卒業生で現在EY Japan社のパートナーであるコバヤシノブコは語る。EY Japan社でも、女性のパートナーは10%以下である。
「東大生はブランド化され、その栄光に無意識にあやかっているのです」と言った。
今年の入学式で祝辞を述べた、上野千鶴子名誉教授(ジェンダー論)は、(大学の)不均衡は、高等教育を超えて蔓延している不平等の現象の一つであると指摘した。
「大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています」と語り、「東京大学もまた、残念ながらその例のひとつです」と加えた。
その意見は、聴衆をいらだたせた。ツイッター上では、男子学生らは、説教をされたと受け止め不満を発信した。「なんで俺たち男子学生を祝福してくれないんだ?」とある学生はツイートした。別の学生は「フェミニストのプロパガンダだ」と評した。
上野氏は、祝辞で、長年にわたり女子志願者の入学試験の成績を意図的に低くする操作をしていた東京医科大学のあからさまな差別にも言及した。
(同大学の)入試課は、女子学生の割合を30%以下に制限した理由について、女性の医師は結婚、出産後に辞める傾向があるためだと説明した。その問題が明るみに出た翌年は、女子の合格率は男性より高い結果となった。
東大が入試結果を操作している証拠はない。むしろ、受験者数に対する女子の合格者数は一定していると答えている。
工学系の数少ない女性教授であり、男女共同参画室の委員を務める熊田亜紀子教授は、「うちは客が少ない店のようなものです」と言った。「現在は、女性客がたくさん来てくれていないのです」と話した。
熊田教授は、いくつかの説も挙げた。若い女性は、学業で成果をあげることは女性らしくないという考えを繰り返し刷り込まれる、と熊田教授は指摘し、人気女性グループのAKB48の曲の「学生時代はおバカでいい」という歌詞を例に挙げた。
また熊田教授は、女性の中には、劣悪な仕事環境のなかでキャリアにまい進することにつながる東大の学位を恐れる女性もいるかもしれないと語った。ある東大の卒業生は、広告代理店でハラスメントの被害を受け、過酷な長時間労働に耐えてきたと同僚に打ち明けた後、自殺を図った。
東大は、若い女性が入試に挑戦するよう勧めるために、女子学生が母校を訪問する取り組みを実施している。大学のパンフレットには「掲載する写真のバランスを取るように心がけています」「女子学生を載せるように配慮しています」と、熊田教授は説明した。
さらに踏み込んだ方策として、大都市で暮らす娘の安全を案ずる親の心配を軽減するために、首都圏以外の出身の女子学生に対する家賃補助制度を設けている。東大は、月額3万円の家賃を(毎年)約100名の女子学生に給付している。それは、男子学生に対する差別であると、異を唱える声もある。
あからさまな女子受け入れのクオータ制は、見込めない。東大の入試課では、アファーマティブアクションは、公平性に欠くとして拒んでいる。
「はたして、成績の劣る女子学生に対してあえて特別枠を設けたいのかどうか」と、熊田教授は述べた。
また、根強い伝統として、東大には例年いくつか決まった高校出身の学生が入学している。2019年入学の4分の1以上の学生は、わずか10校の出身であり、そのうち7校は男子校である。
高校、大学の関係者によると、無意識的か否かに関わらず、保護者は息子に多くを期待する傾向があるという。
「親は息子に対する期待が大きく、最高レベルの成果を出し、できる限りレベルの高い大学を目指すことを望んでいます」と、東大に45名の合格者を出し、うち11名は女子という実績の東京学芸大学附属高等学校の大野弘校長は話した。
「親は、娘に勉強をがんばることを強いるのをよしとせず、結婚して主婦になるほうがよいと考える風潮もある」のです。
もっとも多くの女子学生を東大に送り出している桜蔭高等学校の関係者も、女子のなかにはエリート教育を目指すことに複雑な思いを持っていることもあると話す。
齊藤由紀子校長は、「女性の人生は、ずっと複雑なのです」「誰と結婚するか、結婚するかしないか、子供を産むか産まないかを決めなくてなりません」と話した。
ほとんどの受験生にとって、東大に入学するためには、何年も勉強した上で、一度きりの試験の機会しかなく、高校での成績や課外活動は考慮されない。
大学入試予備校のZ会でも、東大合格者を多く出している。宮原渉部長は、受験を目指す女子は少ないと言う。
「鶏が先か卵が先かを言うのは難しいですが、東大には女子学生が極めて少なく、女子が東大を見て『あの大学に行きたい』とは言いきれないのです」と話した。
理由はどうあれ、「女子は男子ほど野心的ではないのです」と語った。
3年前から、東大は、試験のかわりに論文またはグループ面接を受ける男女各1名の学生の推薦枠を設けている。1学年約3,000名のうち、70名弱がこの制度で入学している。
3年前にこの制度で入学したアダチアイネ(21)は、一度の試験でなく、学生を評価する基準を広げれば、より多くの女子学生を取り込むことができるかもしれないと、言った。
「一人を一つの基準だけで判断するのは、公平ではないと思います」と指摘した。
東大で法律を専攻しているアダチさんは、マイノリティとして厳しい視線を感じることがあると話した。彼女によると、性差別は、微妙な形で起こると言う。
あるとき、彼女と男性クラスメイトが、キャンパス近くのカフェで、ラップトップに向かって、クラブの旅行計画を練っていた。
別のクラスメイトがやってきて、二人の会話を眺め、「上司と秘書みたいだね」とからかった。
「何で私が秘書だと思うの?」とアダチさんは切り返した。「どうして私が上司じゃないの?」
東大の女子学生は、しばしば孤立感を味わう。たとえば、卒業写真撮影のためクラスが集合したとき、女子は、法学部生のスギモトキリ(24)一人だった。
「不愉快だったのは、男子が、私が写真に入ることで、男子予備校の写真には見えず、いい写真に映ると発言したことでした。石のなかの紅一点のバラ飾りのように扱われ、そのような扱いは不愉快でした」
男性の学生は、キャンパスの学生分布を問題とはとらえていない。
工学を専攻しているキタムラヒロアキ(19)は、女性が多くいるクラスと比べても異なる行動をとっているとは考えていない。「女性が少ないからといって、下ネタを話すということもないです」。
しかし、彼は付け加えた。女子学生が増えると、「もっとおしゃれになるかもしれない」。
東大の男子学生のなかには、女子のクラスメイトと交流することを避け、他大学の女子学生が参加している(サークル)活動を好むこともある。
東大大学院生のナカヤマエリカ(24)は、東大の社交ダンスサークル内で、自身と友人以外には、他大学の女子が多かったと語った。
ナカヤマさんは、東大男子は、東大女子をまじめすぎると決めつける傾向がある、と言う。「彼らは、東大女子はかわいさが足りないなどと言っていました」。
「ある男子が、『東大女子はちょっと怖い』と言ったことがあります」と、ナカヤマさんは思い出した。「その場は笑って、やり過ごしましたが、ちょっと傷つきました」。
暗に東大女子を禁止しているサークルもあるが、大学は公式にあからさまな差別をしないよう呼びかけている。30以上あるテニスサークルでは、東大女子を積極的に受け入れているのは2つのサークルのみである。
2年生のサギサカマコト(21)は、彼の友達はインカレサークルのほうが、「もっと楽しい」と言っていたと話した。
彼は、長年カトリックの女子大学と交流しているテニスサークルに所属している。東大女子は、所属していない。
(東大)女子を入れると、そのグループの和が乱れるかもしれないと、言う。「東大女子は他大の女子とあまりうまくいかないのです」「東大女子は、プライドがある」と話した。
男子学生にとっては、変革を起こすインセンティブはほとんどない。キャンパス内の権利擁護は希薄である。学生新聞の調査でさえも、東大女子を阻害しているサークル名を公表しない。
また、女子も声高に言うことに躊躇をする。ナカヤマさんは、フェミニストと思われるかもしれないため、積極的な行動は避けていると話した。
「私に対してなにか影響があるかもしれない」と彼女は語った。人は、「私が男っぽすぎたり、強すぎる振舞いをしていると思うかもしれない」と語った。
教室の中でも外でも、女性は、男性が性的な意味合いのジョークを飛ばしたり、女性の外見に言及する文化に耐えなくてはいけないのですと、ハヤシさんは言った。
「そんな性的なジョークを理解して、コミュニケーションをとることを期待されていて、それができないと、阻害感を感じるのです」
「男性の視点を理解して、受け入れなくてはならないのです」と語った。
取材協力:上乃久子
Motoko Rich is Tokyo bureau chief for The New York Times. She has covered a broad range of beats at the Times, including real estate (during a boom), the economy (during a bust), books and education. More about Motoko Rich
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