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学校給食無償化の費用は年間約4,900億円

臨時国会の会期末を前日に控えた12月23日に、立憲民主党と日本維新の会、国民民主党の野党3党が、公立小・中学校の給食を無償化するための法案、「学校給食法改正案」を衆議院に共同提出した。

学校給食無償化は、共産党も掲げる政策であり、野党間での共闘が最も容易な政策の一つと言える。必要な費用は年間約4,900億円で、2025年度予算案に反映させて2025年4月からの実施を目指す。

また、与党としても、「103万円の壁」対策の基礎控除などの引き上げ幅を巡って国民民主党と合意点がなかなか見出されない状況のもと、来年度予算の成立で一部野党の協力を得るために、野党が主張するこの学校給食無償化を受け入れることが選択肢となっている。

20日に自民・公明両党が決定した「予算編成大綱」には、日本維新の会の求めに応じる形で高校授業料無償化に関する文言も盛り込まれており、それとともに公立小・中学校の給食費無償化が実現する可能性が出てきた。

4割以上の自治体が既に学校給食無償化を実施

学校給食法に基づき、小中学校等、特別支援学校、夜間定時制高校の学校設置者には、給食実施の努力義務が課せられている。幼稚園など、高等学校(夜間定時制高校を除く)は対象外だ。また、経済的困窮者の家庭の学校給食費は基本的に無償である。学校給食の実施に必要な施設・設備に要する費用と人件費は、学校設置者の負担となり、食材費は保護者の負担となる。

完全給食(パン又は米飯+ミルク+おかず)の給食費(食材費相応)の2023年月額平均は、小学校で4,688円、中学校で5,367円、夜間定時制高校で5,344円である。都道府県間ではそれぞれ1.4倍弱の開きがある。

1794自治体中775自治体が学校給食無償化を実施している(2023年9月時点での実施予定)。その財源について自治体の回答(複数回答)を見ると、第1が、自己財源(ふるさと納税、寄付金以外)、第2が地方創生臨時交付金、第3がふるさと納税、第4が都道府県からの補助、となっている。

自治体による学校給食無償化の目的についての自治体の回答(複数回答)を見ると、第1が保護者の経済的負担の軽減、子育て支援、第2が少子化対策、第3が定住・転入の促進、地域創生となっている。

公立の義務教育諸学校及び特別支援学校(幼稚部、高等部)の給食費(食材費相当)の合計額は、文部科学省の推計で4,832億円となった。

国の支出で学校給食無償化を図ることに一定の合理性

「義務教育は、これを無償とする」と、憲法26条第2項には定められている。教科書代についても、「教科書無償給与制度」に基づいて無料となっている。

しかし、図書、文房具、ランドセル、学級費などの学校納付金、修学旅行や遠足、給食など学習費全体の保護者の負担額は、文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、公立小学高で年間35.3万円に及ぶ。このうち給食費は3.9万円であり、学習費全体の11.1%に及ぶ。

義務教育は無償としながらも、実際にはこのように教育に関わる様々な支出があり、保護者の負担は大きい。給食費もその一つだ。これらは「隠れ教育費」とも呼ばれる。

「義務教育は無償」という憲法の定めに照らしても、無償化を地方自治体の予算に任せるのではなく、国の支出で学校給食無償化を図ることには一定の合理性があるだろう。

他方、年間約4,900億円とされる学校給食無償化の財源については、しっかりと議論を進める必要があるだろう。年間6,000億円程度とされる、日本維新の会が求める高校授業料無償化と合わせると、年間の予算増加額は1兆円を超える。

国債発行による安易な穴埋めがなされるリスク

先般の衆院選挙で与党が過半数を失った結果、税制改正、予算など様々な法律は、野党の協力なしには実現できなくなっている。それが、新たな常識、ニューノーマルになっているのである。

そうした中、与党が議席の過半数を占めていた際には実現されなかったものの国民が望んでいるような政策が、新たに実施されやすくなった、というプラス面が指摘できるだろう。

他方で野党が与党に対して、政策協力と引き換えに様々な政策の実現を要求するようになっている。103万円の壁対策としての巨額の所得減税などもその一つだ。そうした結果、財政拡張傾向が一層強まる恐れが出てきている。そして、それに対して十分な財源確保がなされない場合には、国債発行でその穴埋めが進められるリスクが高まる恐れもある。しかしそれは避けるべきだろう。

国債発行は、低所得者も含む幅広い国民の将来の税金で賄うことを前提とするものであり、将来の国民の手取りを減らすことにもなってしまう。将来まで見据えれば、野党各党が目指す低所得者層の負担軽減、手取りの増加には逆行してしまうのである。
 
(参考資料)
「学校給食実施状況調査(令和5年5月1日現在)」、2024年6月、文部科学省

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。