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政府は24日にも「地方創生」の「基本的な考え方」を決定

石破茂首相が看板政策に掲げてきた「地方創生」の具体策がいよいよ動き出す。「新しい地方経済・生活環境創生本部」は、24日にも長期的な理念をまとめた「基本的な考え方」を決定する予定だ。さらに政府は、来年夏に今後10年間で集中的に取り組む具体策などを示す「基本構想」をまとめる方針である。

既に明らかになった「基本的な考え方」の骨子案では、2014年に本格スタートした地方創生について、「東京一極集中の大きな流れを変えるには至らず、若者や女性が地方を離れる動きが加速した」と指摘した。さらに、危機意識が浸透せず、人口減少を前提とした地域の担い手の育成・確保や労働生産性の向上が不十分だった、と総括している。

こうした点を踏まえ、地方移住や企業移転により東京圏への過度な一極集中の弊害を是正するとし、若者や女性に選ばれる地域をつくると明記している。そのために、「地域間・男女間の賃金格差の是正」、労働時間が通常の正社員より短い「短時間正社員」などによる「非正規雇用の正規化の推進・待遇改善」も挙げた。最低賃金の引き上げにも言及している。

また、オンライン診療やドローン配送など新技術の活用を通じて地方の生活環境改善も進めるとしている。

地方の稼ぐ力を高めるために、農林水産品や食品のブランド創設や海外展開を促すことや、人材や資金などの支援を通じて新興を育てる「スタートアップ・エコシステム」について拠点都市での環境整備に取り組む考えも明記された

新たな地方創生は国全体の成長戦略、構造改革でもある

他に注目されるのは、国と地方の役割分担も明確にしている点だ。「国は財政や人材、情報の支援を充実し、地方の課題を起点とする規制改革を進める。地方は自ら行動を起こし、自主的・主体的に取り組む」と明記している。また国は地方自治体への人材派遣などに取り組むと明記された。

こうした点から明らかなように、石破茂首相が目指す地方創生は、従来のような地方経済の活性化にとどまらない。賃金格差の是正、非正規雇用の正規化など、国全体の労働市場改革、働き方改革も対象となる。また、東京一極集中の是正や少子化対策も含む、非常に幅の広い取り組みであり、まさに国全体の成長戦略、構造改革と位置付けることができるものだろう。さらにそれに加えて、国と地方の役割分担を見直すという行政改革の要素も包含している。

地方経済活性化にインバウンド需要の積極活用も

難しいのは、実際にどのようにして地方経済を活性化し、地方にビジネスを生み出し、地方の魅力を高めることで若者や女性、あるいは企業を地方に呼び入れるかだ。農林水産品や食品のブランド創設や海外展開だけでは、そこまでの影響力を発揮するのは容易ではないだろう。

その経済規模が年間8兆円を上回る、まさにトップの成長分野であるインバウンド需要を、地方経済の活性化に最大限活用することも検討して欲しいところだ(NRIジャーナル「東京一極集中の是正と成長戦略の大結集」、2024年11月08日)。

さらに、地域経済の活性化に際しては、各地域に見合った特色のある産業振興策を各地方自治体が知恵を絞って打ち出すことを期待する一方、インバウンド需要の地方誘導などでは、国が強いリーダーシップを発揮することが必要となるだろう。地方創生の成功の鍵の一つは、国と地方の役割分担を新たに明確にしたうえで、それに基づき双方が強く連携をしていくことだ。


(参考資料) 
「賃金や働き方改革 デジタル環境整備 地方創生の理念骨子案」、2024年12月20日、東奥日報
「賃金格差是正など柱に 地方創生 「基本的な考え方」原案」、2024年12月19日、読売新聞
「働き方改革やデジタル技術を活用―地方創生の長期的な理念、骨子案」、2024年12月19日、共同通信ニュース
「地方創生「東京一極集中の弊害是正」 政府考え方骨子案」、2024年12月18日、日本経済新聞電子版
 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。