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確定拠出年金(DC)制度の運営管理機関の集まりである運営管理機関連絡協議会は毎年12月上旬に前年度の「確定拠出年金統計資料」を公表している。昨年までに公表された資料により、企業型DCと個人型 DC(iDeCo)ともに運用の保守性から徐々に脱却しつつあることなどが明らかになっている。今月公表された2024年3月(2023年度)版の統計を基に、DC制度の利用状況に関する分析を行ったところ、①加入者数は増加しているものの、その増加率は60代を除くと徐々に低下してきている、②一人あたり平均掛金については企業型DCでは増加が続いているが、iDeCoでは頭打ちになっている、③若年層を中心に運用の積極化が進み、企業型DC全体では元本確保型商品からの資金流出が見られることなどが確認された。

加入者数の増加率が鈍化

DC制度の加入者数は、増加が続いているものの増加率は次第に低下してきている(図表1左図)。2023年度末(2024年3月末)の企業型DC加入者は830万人(前年度比+25万人)、iDeCo加入者は329万人(同+39万人)で、前年比増加率はそれぞれ、3%、13%となった。企業型の場合、2017年度くらいまでは毎年10%近く加入者数が増加してきたが、その後増加率は次第に低下し、2020年度以降は年間3%程度となっている。一方、iDeCoは2017年に年金制度のある企業の従業員や専業主婦等も加入可能となったのをきっかけに、加入者数が急増し、2017年度は1年間で倍近くにまで増えた。iDeCo加入者数の増加率はその後も毎年20%を上回っていたが、2023年度になって半分近くに低下している。年齢階層別に加入者数の増加率を見ると、若い層ほど増加率が低くなっている(図表1右図 )。2023年度1年間の加入者数増加率は50代では17%であったが、年齢が若い程増加率が低く、20代では3%となっている。若年層の間では新NISAに関心が集中し、iDeCoへの注目度が低下しているようにみえる。なお、図表1右図の通り、60代のiDeCo加入者数の増加率が81%に達している。これは、60歳未満とされていたiDeCo の対象年齢が、2年前(2022年5月)より「65歳未満」に引き上げられたためで、60代のiDeCo加入者は2023年度末までに14.6万人(前年度比+6.5万人)まで増えている。

図表1 確定拠出年金(DC)加入者数の推移と増加率(前年同期比)

ペースが鈍化したとはいえ、加入者数の増加は続いているため、DCの加入率は上昇している。図表2は職業別にDC加入率(企業型DCもしくはiDeCoに加入している人の割合)の推移をみたものだ。4つの職業区分のうち最も加入率が高いのは民間企業社員で直近では25.1%と、4人に1人がDCに加入している。2017年にiDeCoの加入可能範囲が拡大され、それまで加入できなかった「勤め先に企業年金のある企業の従業員」も加入できるようになったことが、民間企業社員のDC加入率の上昇ペースを加速している。2番目に加入率が高いのは公務員等で、iDeCoへ加入可能になった2017年以降では、加入率の上昇幅が4つの職業区分の中で最も大きい。直近の加入率は14.3%で、既に7人に1人以上が加入していることになる。3番目が自営業者等で、国民年金を納付している者のうち4.4%が加入しているに過ぎないが、加入率は2017年以降、上昇している。所得がないため、加入の大きなメリットとされる所得控除を適用できない専業主婦・主夫のDC加入率も、徐々に高まっているが、2.0%と低位にとどまっている。

図表2 確定拠出年金(DC)の加入率

一人あたり平均掛金の増加が続く企業型DC、横ばいが続くiDeCo

2012年頃までDCの加入者一人あたり平均掛金は企業型DCに比べiDeCoの方が約30%多かった。それが、2013年頃から両制度間の差が狭まってきている。企業型DCにおいて一人あたり平均掛金が徐々に上昇しており、その原因は、①拠出限度額が2010年と2014年に引き上げられていることや、②加入者によるマッチング拠出が2012年から可能となり、実際にマッチング拠出を行う者が増えている ことなど が挙げられる。その一方で、iDeCoの一人あたり平均掛金は横ばいとなっている。iDeCoの場合は、2010年以降拠出限度額が引き上げられていないことに加え、2017年以降の制度変更で新たに加入可能となった者の拠出限度額(職場に企業年金のある者の拠出限度額は年額14.4万円)が低く設定されたことなどがその原因と考えられる。

図表3 DC加入者の一人あたり平均掛金額(年額)

積極化に向かうDC運用

DCにおいてかつて見られた資産運用の保守性は顕著に脱出の傾向が見られ、積極化している様子が確認できる。図表4左図は企業型DCにおける元本確保型のみで運用している者(掛金が拠出されている加入者のほか、60歳以上の受給待機者や年金受取を選択している受給者も含む)の割合の推移を示したものだ。比率は年々低下し、2024年3月には前年から2.7%低下し24.2%となった 。また図表4右図は元本確保型のみで運用している者と投信でも運用している者のそれぞれの人数の推移を示しているが、これをみると、元本確保型のみで運用している者は直近1年間で15万人減少し210万人に、投信でも運用している者は45万人増加し658万人に達していることが分かる。

図表4 企業型DCにおける運用状況

また、運用残高をみると、直近1年間で投信残高は急増している(図表5)。その一方で、元本確保型商品の残高に関しては、企業型では減少し、iDeCoでは微増に留まっている。昨年度の元本確保型商品の利回りが概ね0.4%であったことを考慮すると、企業型では元本確保型商品から1,700億円程度の資金が流出し、またiDeCoでも元本確保型商品への資金流入が800億円程度にまで落ち込んだことが分かる。この結果、資産運用残高に占める投信残高の割合(投信比率)は企業型、iDeCoでそれぞれ、67.3%、73.2%に達し、2020年3月以降の上昇が更に加速している。

図表5 確定拠出年金の運用商品別残高

若年層で顕著に進む運用の積極化

DCにおける運用の積極化は、若年層を中心に一層進んでいる。図表6は年齢別に投信比率を示したものだ。これをみると分かるように、20代の投信比率は、企業型DCの場合は63%(昨年比+9%)、iDeCoの場合は80%(同+7%)と、最も投信比率の高い年齢階層の一つになっている。かつて(例えば2015年3月)は、20代は、その上の年齢層に比べ長期の運用が可能なのにもかかわらず、投信比率は低く、運用の保守性が目立っていた。それが、最近数年間で劇的に変化してきている。

図表6 DCの投信比率(加入者・運用指図者の年齢別)

以上の様に、加入者の増加は続いており、元本確保型商品のみで運用する者の割合が減少すると共に制度全体の資産に占める投信残高の割合が高まっているなど、DC全体としてみると、年金運用として好ましい方向に変化しているようにみえる。だが、同時に、加入率は未だ低い水準であるにもかかわらず、加入者数の頭打ち傾向が見えてきている。また、運用状況に関しても、元本確保型商品しか保有していない者が200万人以上いるなど、無関心や判断の先送りなどにより年金資産の運用を放棄している加入者が少なからず存在することが想定される。多くの人々が高齢期に豊かな生活を送ることを可能とするためには、企業経営者や個人のDC制度に対する認知度を一層高めていくことや、資産運用にさほど関心のない加入者にも自身の運用状況を把握し再考する機会を設けていくことなど、より難易度の高い課題への対応が待ち構えている。

【コラム】

新聞報道によると、今後政府はDCの拠出限度額を月額7千円引き上げ、6.2万円(年額74.4万円)とし、iDeCoについては独自の拠出限度額を廃し、国民年金2号被保険者(民間企業社員や公務員)については、月額6.2万円から勤め先の企業年金の掛金額を差し引いた金額を新たな拠出限度額とするとのことである。現在、特にiDeCoでは拠出限度額まで拠出している者の割合は高く、50%を超えている。このため、報道通りの見直しが行われた場合、iDeCoの一人あたり掛金が上昇していくことは間違いない。一方企業型DCの場合は、掛金額が拠出限度額に近い者の割合はそれほど高くはないが、拠出限度額に合わせて制度設計を行っている規約 が4分の1に達していると言われている。そのような企業を中心に事業主掛金の引き上げが行われるものと想定される。

図表7 拠出限度額もしくは拠出限度額に近い金額まで拠出している者の割合

プロフィール

  • 金子 久のポートレート

    金子 久

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    1988年入社、システムサイエンス部及び投資調査部にて株式の定量分析を担当。1995年より投資情報サービスの企画及び営業を担当。2000年より投資信託の評価やマーケット分析のためのデータベース構築、日本の資産運用ビジネスに関する調査、個人向け資産形成支援税制、投信に関する規制などを担当。その間2005年から1年間、野村ホールディングス経営企画部に出向し、アセットマネジメント部門の販路政策などを担当。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。