PayPayで「デジタル給与払い」年内開始 厚労省指定
QRコード決済最大手PayPayは9日、厚生労働省から給与をデジタルマネーで払う事業者の指定を受けたと発表した。2024年内に希望するユーザーを対象に給与受け取りのサービス提供を始める予定だ。デジタル給与払いは多様な働き方の後押しにつながる。
労働基準法は、給与の支払い方法について通貨(現金)が原則と定めている。1975年から銀行口座、98年から証券総合口座への振り込みを認め、23年4月にスマートフォン決済アプリや電子マネーに入金するデジタル払いを解禁。厚労省はサービス運営を希望する資金移動業者の申請を受け付け、9日に初めて指定した。
企業が従業員にデジタルマネーで給与を支払うためには労使協定の締結が必要となる。PayPayは9日から対応を希望する事業者と従業員向けの専用ページを公開した。
事業者は従来と同様に銀行口座宛ての振り込みをすることで、従業員のPayPayアカウントに給与を支払えるようになる。事業者側は追加の送金システム開発やPayPayとの契約は不要だ。
まず8月14日からソフトバンクグループ(SBG)10社の従業員、約4万4000人を対象にサービスの提供を始める。年内に一般向けのサービス提供につなげる。PayPayのユーザーは6400万人超で、潜在的な利用者の裾野は広い。
PayPayで受け取れる給与の上限は20万円とした。アプリ上で家族などにお金を振り分けてもらうことや、グループの資産運用や保険サービスの支払いに充ててもらうことも想定している。
デジタル給与払いの懸念点は、資金移動業者が破綻した場合の対応だ。PayPayは三井住友海上火災保険を第三者保証機関に指定し、破綻した場合にユーザーに6営業日以内に弁済できる仕組みを整えた。
日本では給与の支払いは月1回払いが一般的だが、デジタル払いが広がれば将来的には週1回や隔週の支払いが増える可能性がある。単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」などにとってはメリットだ。転職者にとっては会社ごとに異なる銀行口座を作る手間を省ける可能性がある。
PayPay以外ではauペイメント、楽天グループの「楽天ペイ」、リクルートと三菱UFJ銀行が共同出資するリクルートMUFGビジネス(東京・港)が厚労省に指定を申請をしている。
もともと厚労省が指定するにあたり、1社ではなく複数の資金移動業者を同時に指定するという見方があった。だが保証体制の構築の難易度が高く、準備状況に差が生まれていたことから、今回はPayPay1社のみの指定になったとみられる。
海外では米国が給与のデジタル払いで先行する。「ペイロールカード」と呼ばれるプリペイドカード式の給与受取口座が普及している。利用者はクレジットカードのように提携店で買い物ができ、ATMから現金を引き出すこともできる。
銀行界からは「雇用のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める観点でも意義がある」との声が上がる。一方、給与受け取りが顧客取引のきっかけの一つでもあることから「銀行ビジネスにも一定の影響が出る可能性もある」と懸念も出ている。
日本はキャッシュレス決済の普及で後れをとる。キャッシュレス推進協議会などによれば、主要国のキャッシュレス比率は韓国が9割台で最も高く、中国が8割台だ。日本は23年に39%と、6割台の英国や5割台の米国とも差がついている。
デジタル給与の実現により、チャージの手間もなくなることで、キャッシュレス比率の押し上げにつながる可能性がある。PayPayなど金融の新たな担い手に給与の取り扱いの道が開かれたことは、金融業界の地殻変動につながる可能性も秘めている。