いよいよ球春到来 中日、今季は台風の目に(山崎武司)
プロ野球は全選手の契約更改が終わり、いよいよ2月から春季キャンプが始まる。選手にとっては長いシーズンを乗り切るため、重要な準備期間だ。正月を過ぎれば、気持ちもだんだんと戦闘モードになってくる。選手たちは皆、「いい状態でシーズンを迎えたい」という一心でトレーニングに励んでいることだろう。
僕は現役時代、ハワイで自主トレーニングを行うのが恒例だった。この時期に大事にしていたのは、練習でしっかりと汗をかくこと。日本は寒くて、汗が出るまでに時間がかかる。暖かく、景色のいい場所で心置きなくトレーニングができるという面でも、ハワイは最適な環境だった。
特に意識していたのは、「全力疾走できる足」と「全力で投げられる肩」の2つを仕上げることだった。足の速さは関係なく、全力で走れることが大事。主力ともなれば、バッティングは1カ月あれば仕上げることができる。僕はオフの間、ほとんどバットを振ることはなかった。足腰と肩だけはしっかりと作ってキャンプに臨もうと考えていた。
開幕へ向け、古巣の中日には特に注目している。球団史上初となる2年連続最下位に終わった昨季の結果を受け、今オフは積極的に補強に動いた。
12球団ワーストの390得点だった打線の軸には、巨人を自由契約となっていた中田翔を獲得した。彼がどれだけやるかでチームも変わってくる。他にも上林誠知(元ソフトバンク)、中島宏之(元巨人)、山本泰寛(元阪神)らを獲得。選手層は厚みを増した。
新顔が多いチームにおいて、伸び盛りの若手にも期待したい。21歳の岡林勇希は最多安打のタイトルを獲得した2022年に続き、昨季も163安打と好成績を残した。DeNAから現役ドラフトで入団した細川成也も24本塁打と活躍。1軍での実績はまだ少ないが、3年目のブライト健太や鵜飼航丞もセンスを感じさせる。
新加入の中田や中島といったベテランには自身の経験を後輩に伝える役割が求められる。自分の成績だけでなく、「チームに何を残すか」を考えてプレーしてほしい。
投打のキーマンを1人ずつ挙げるなら、高橋宏斗と石川昂弥だろう。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも出場した高橋宏は昨季、25試合で登板し7勝11敗、防御率2.53。一つ一つのボールは申し分ないだけに、1年間投げきるスタミナが課題だろう。
石川昂は体は大きいものの、ケガが多い。左膝の手術から復帰し、昨季は121試合で13本塁打。ただ昨年11月の秋季キャンプも別メニュー調整で、いまだ膝への不安は残っているようだ。シーズンに備える面でも、これから始まる春季キャンプをしっかりとこなせるかが重要になる。
陣容が定まらない二遊間など不安材料は多いが、チームがどう変わるか楽しみの方が多い。セ・リーグは今季も阪神を軸に優勝争いが展開されるだろうが、僕は中日が「台風の目」になるのではないかと予想している。
同じく古巣の楽天には、一軍打撃コーチから昇格した今江敏晃新監督が就任した。指揮官としては12球団で最も若い40歳。経験やキャリアがない分、いい意味での若さやバイタリティーを発揮してほしい。
チームとしては抑えの松井裕樹がパドレスへ移籍。選手の高齢化も気になるが、オフの動きはおとなしかった。右肘のクリーニング手術を受けた田中将大もシーズンには少し出遅れるだろう。厳しい船出にはなると思うが、新監督の手腕が問われる。
今季ブレークを期待したい選手は巨人の秋広優人だ。昨季は打率2割7分3厘、10本塁打。終盤は失速してしまったが、3年目としては素晴らしい成績を残した。
身長は2メートルと高いが、体はまだまだ大きくない。自主トレでは中田に同行し、「食トレ」にも余念がないようだ。体が大きくなればもっとボールも飛び、本塁打もたくさん打てるようになるはず。外角の変化球へのもろさや、落ちる球への対応を磨いていけば、成績が上がるのではないか。本当のプロ野球選手の体になったとき、どんなプレーをするのか楽しみにしたい。
最近の選手を見ていると他球団の選手と自主トレを共にし、情報を共有しながら一緒に成長することが主流になってきた。普段全く交流がない選手でも、「バッティングを教わりたい」などとお願いされればトレーニングに同行させる。昔はほとんどなかったことで、時代が変わってきたと感じる。
現役時代、「一匹狼(おおかみ)」だった僕には先輩の自主トレに同行するなんて考えはかけらもなかった。シーズンに入れば敵になるかもしれない。それでも得られるものがあるなら、一つでも二つでも多くのことを吸収したいと考えるのが今の選手の特徴なのだろう。
(野球評論家)