対話で探る 問いの本質 国会図書館関西館の調べ物相談
匠と巧
マスメディアからネット、SNS(交流サイト)まで流通する情報量が日々増大し、知りたい情報にたどり着く難易度は高まっている。調べ物のプロである図書館員はどんな技術を持っているのか。国立国会図書館関西館(京都府精華町)を訪ねた。
「相談者が本当に求めている情報は何なのか。それを探り当てること」。文献の調べ方や信頼できる資料を教えてくれるレファレンス(調べ物相談)担当にとって重要なスキルは何でしょう? 文献提供課の依田紀久さんにそう尋ねると意外な答えが返ってきた。経験値が最もモノを言う技能の一つなのだという。
かつて「目的の情報にたどり着く」スキルは、関西館なら1400万点ある所蔵資料を隅々まで知り尽くした図書館員の職人芸に支えられる部分が大きかった。デジタル資料・情報の増加や検索技術の発達に伴い、現在はこうした職人芸への依存度は低下している。
さらに相談者のニーズも「この情報の原典を知りたい」といった正解の明確なものから「『ビジネスのアイデアが欲しい』のような課題解決型の相談」(依田さん)が主流になり、正解も多様化した。重要度を増したのが、問いの意図を正確につかむ技術だ。
プライバシーに直結する医療・健康情報や業務上の秘密に関わるビジネス関連は質問の真意を隠した相談も多い。例えば、依田さんが実際に受けた「ある睡眠薬の副作用について教えてほしい」との依頼。文献を参照すれば簡単に解決するが、それで済むならわざわざ相談に来るだろうか。
意図を率直に問えるのなら話は早いが、相談者のプライバシーに触れるのは慎まねばならない。しかし、扱うのは使い方を間違えれば命にも関わるデリケートな情報でもある。相談者の話しぶりから、どうやら本人が睡眠薬を服用しているわけではなさそうだった。雑談を交えつつ感覚を総動員する。目の前にいる相談者の情報を集め、頭の中で分析する。自分の人柄も相手に伝わる。一期一会の間柄でも打ち解けて信頼関係を築けるよう努力する。
そうしているうちに、この相談者は睡眠について悩んでいる人が身近にいて、助言したいと分かってきたのだという。それなら該当する薬のデータだけでは不十分。依田さんは専門書のほか、助言の材料になりそうな睡眠に関する書籍などを案内した。
対面でのレファレンス対応が基本となる東京本館と違い、関西館では電話による遠隔地からの相談を受ける窓口機能も担っている。対面に比べ情報が少ない電話対応の難易度はさらに高まる。「国会」という名前に緊張する利用者も多い。そういう場合は方言で親しみやすさを出したり、ビジネス関連なら重みのある声で対応したりしながら相談者の真意を引き出していくという。
「手の内を明かすようで恥ずかしいのですが」と依田さん。淡々と事務的に仕事をこなす図書館員のステレオタイプなイメージを裏切るそのスキル。かなりの役者なのかもしれない。
(佐藤洋輔)
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