相鉄の沿線地域、JRと直通でにぎわいに期待
鉄道 地域と走る(中)
「羽沢の地元でとれた野菜です」。相模鉄道とJR線が直通運転を始めた11月30日、新駅・羽沢横浜国大駅(横浜市神奈川区)では周辺住民や企業らが野菜や市内の産品などを販売し、直通開始の盛り上げに一役買った。新駅近くに営業拠点のある寺田倉庫(東京・品川)の社員も参加。担当者は「定期的にイベントを行い、にぎわいを作っていきたい」と気合十分だ。
羽沢横浜国大駅での開業記念イベントは想定以上の来場者で、入場規制が行われたほど。記念の乗車券などを購入しようと長蛇の列ができ、ホームはカメラやスマートフォンを構える人であふれた。
住民の期待は直通をきっかけとした駅周辺の再開発や住民増による活性化だ。相鉄沿線で1日の乗降者数が10万人を超えるのは他線に乗り換えられる横浜(横浜市西区)、海老名(海老名市)、大和(大和市)の3駅のみ。駅数の少なさもあり、5万人以上が乗降する駅で比べても6駅と、埼玉の西武線(18駅)や千葉の京成線(8駅)よりも少ない。
相鉄も直通を見越して、駅周辺の魅力向上に動いている。二俣川駅(横浜市旭区)では2018年に、100店舗が入る駅直結の商業施設「ジョイナステラス」を開業。週末は家族連れなどでにぎわう。同駅は県警の運転免許センターがあり、県民でも「免許更新で行く駅」という人が多いが、そのイメージを刷新する。
直通で特急停車駅となった西谷駅(横浜市保土ケ谷区)では乗降客増への期待が高まる。地元商店街はフラッグをかかげ、相鉄グッズを周辺住民に配布した。西谷商栄会の高塚均会長は「これまで(急行などで)通り過ぎていた人も、西谷のお店を訪れてほしい」という。
沿線自治体は企業誘致に直通運転を生かす。海老名市商工課の担当者は「顧客や取引先のアクセスが良くなる」と話す。同市には首都圏中央連絡自動車道(圏央道)が通っており、高速道路との相乗効果を狙う。
沿線に観光スポットが少ない相鉄だが、県外からの利用が増える可能性が出てきた。横浜市は瀬谷駅(横浜市瀬谷区)近くの旧米軍施設で、27年に国際園芸博覧会(花博)の開催を目指している。市は花博終了後はテーマパークの誘致を検討しており、林文子市長は「大変有用な交通手段」と期待する。
相鉄自身も直通運転開始で不動産や小売りなど鉄道事業以外への波及効果を狙う。東京23区内でもホテル事業を展開しているが、客室単価が低迷している。「電車は最大の広告塔」(同社)とみて、宿泊客増につなげる考えだ。1都3県で中古マンションを買い取り、リノベーションするグループ会社も16年に立ち上げた。
直通運転で住宅地として注目が集まり始めた相鉄沿線だが、住民の高齢化が進んでいる。鉄道とバスやタクシーなどを組み合わせた次世代移動サービス「MaaS(マース)」は小田急電鉄や東急電鉄などの取り組みが先行するが、相鉄沿線でも不可欠な取り組みだ。鉄道を利用しやすい街づくりを進めることが相鉄の価値向上にもつながってくる。
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