ノーベル経済学賞の2氏、米政権を会見で批判
ノードハウス氏、気候変動巡り「ばかげている」
【ニューヨーク=大塚節雄】2018年のノーベル経済学賞の受賞が決まった米国の2人の経済学者が8日、それぞれ記者会見し、トランプ政権の政策運営を陰に陽に批判した。「炭素税」の提唱者で知られるウィリアム・ノードハウス氏(米エール大教授)は、気候変動を疑問視する政権の姿勢を「ばかげている」と発言。「難しい時期に(対策を)やり遂げる必要がある」と述べた。
技術革新が経済成長に与える影響で新たな理論を打ち立てたポール・ローマー氏(米ニューヨーク大教授)は「肝に銘じなければいけないことは、グローバル化とは単なるモノの交易ではなく、アイデアの共有だということだ」と述べ、孤立主義に傾く米政権への危惧をにじませた。第一線の米経済学者らとトランプ政権との「緊張関係」をうかがわせた。
ノードハウス氏はコネティカット州のエール大で会見し、「気候変動の科学はあったが、経済学はなかった」と研究を始めた当初の苦労を振り返り、温暖化ガスの排出に課税する炭素税について、気候変動を抑えるうえで「これまでのところ最も有効で実践的な方法」との自負を示した。
そのうえで「問題の一つは、とりわけこの国(米国)で気候変動を巡って大きな雑音が出ていることだ」と指摘。「米国でこれほど環境政策や気候変動政策への敵視があるのは極めて異常だ」と現状を嘆いた。
さらにトランプ大統領の名指しは避けつつも、「気候変動は、中国が自国の製造業を支援するために流した『でっち上げ』だ」とする同氏の主張に言及。「気候変動の科学が19世紀に打ち立てられたことを踏まえると、極めてばかげている」と切って捨てた。
一方で「米国以外では気候変動の背後にある科学や経済学、そして政策が広く受け入れられている」と強調。「(環境などに)甚大なダメージを伴わずに(対策を)やり遂げることを願う。だが今後起こる(前向きな)ことには極めて自信がある」とも語った。研究の「最後のフロンティアは(状況や考えの)異なる国々がいかに一緒に行動するかだ」として、今後は国際協調を促進する枠組みなどの研究に力を入れる意向を示した。
ニューヨーク市のニューヨーク大で会見したローマー氏は、技術革新を促す秘訣は「より人々がお互いに結びつき、新たなことを学ぶうえで努力することだ」と主張。「より大きなチームになるほど一緒にもっと早く前進できる」と国際的な協調の必要を強調した。
「このことがグローバル化がいかに重要かについて、より深い正当性や論理的な根拠を示している」と力説。「アイデアや我々の学んだ新しい物事を共有する」ことで技術革新を促すのがグローバル化の真の意味だと唱え、具体的な言及は避けながらも、米政権を軸に深まる貿易摩擦に対する危機感をうかがわせた。
ローマー氏は、科学や経済学者に対する信頼が落ちている現状にも触れた。16年の英国の欧州連合(EU)離脱決定では、多くの人たちに「経済学者がそろって(残留賛成を)主張するから、自分は反対する」という機運が生まれたと指摘し、「経済学者にとって正当性が失われつつあることを考える深刻な警告」との見方を示した。
事態を改善するためには「(経済学者が)ともに歩むと確認することが第一歩」と表明。意見の不一致があることや、それでも「事実」に向かって歩んでいることを訴えつつ、「各人が本当に知っていること、そして我々が集合知として知りうることについて謙虚でいなければならない」と自省をこめて語った。
一見、異色の組み合わせとなった今回の共同受賞。ノードハウス氏は「環境経済学」と呼ぶ分野の先駆者だ。ローマー氏は知識の蓄積が経済成長を大きく左右する「内生的成長理論」を確立した。スウェーデン王立科学アカデミーは、両氏の成果をまとめて「気候変動や技術革新と、経済成長の関係を定式化した研究」と評価した。
ローマー氏はノードハウス氏との共同受賞を聞き「ハッピーになった瞬間。素晴らしい人物だ」と語り、過去の研究で「知的交流があった」とも振り返った。受賞発表時の電話中継では「我々は環境保護のためにすばらしいことができる。同時に成長も諦める必要もない」と気候変動問題を力説し、「楽観主義」の重要性を力説した。
ノードハウス氏は冗談めかしつつも「ローマー氏(との共同受賞)には本当に驚いた」と聴衆を笑わせた。ほかの実績のある環境経済学者の名も挙げ「(同氏は)頭をよぎらなかった」と、やや戸惑いをみせた。一方で技術革新の研究を「難しくて断念した」という過去も明かし、のちにこの分野で実績を上げたローマー氏を称賛。共同受賞は「とても名誉なこと」ともつけ加えた。
2024年のノーベル賞発表は10月7日(月)の生理学・医学賞からスタート。物理学賞は8日(火)、化学賞は9日(水)、文学賞は10日(木)、平和賞は11日(金)、経済学賞は14日(月)と続きます。